彼らは一度スティーヴ・リリーホワイトをプロデューサーに迎えてシングルを録音するが、どうもレーベルやプロデューサーと衝突があったようで、自分達の音楽を貫くために地元マンチェスターのマイナーレーベルと契約してアルバムをリリースすることになる。それが1983年にリリースされた『Script of the Bridge』。『Second Skin』を含む12曲が収録されている。僕はリマスタリングされてLP2枚組みとなった2012年の再発盤をAmazonで最後の1枚を入手。なんだかAmazonで在庫の最後の1枚のレコードを買うことがすごく多い気がする。慢性的にトレンドから遅れているから(あるいはトレンドと無縁だから)かな?
Tony Conrad with Faust/Outside the Dream Syndicate
Tony Conradのバイオリンによるドローン演奏とFaustのリズム隊の共演によるドローンミュージックの先駆的作品。バイオリンとドラムの前後の位置やバイオリンの音のレイヤーがリアル。ドラムは革のはりや振動が目に見えるよう。催眠的なようで実は覚醒的。単調なのにあっという間に感じる。英国盤は優秀録音盤でないか。
CCR / Green River
1曲目のギターのリフがリアル。ギターアンプが目の前で鳴っているかのよう。力むとダミ声になるJohn Fogertyのボーカルが生々しく、いかにもバンドっぽくライブ感がある。泥臭いロックのようでいて、実は本人たちはあえてそういうスタイルでやっていることがわかる。
Manuel Gottsching / E2-E4
ジャーマンミニマルアンビエントの代表作。Manuel Gottschingのギターはもちろんいいのだが、リズムやシーケンサーの空間的な広がりが見事。実は細部までしっかり再生されていることがわかる。このケーブルはリズム感がいいかもしれない。
David Crosbyの『Here if you listen』は2018年のアルバムで、1971年の『If I could Only Remember My Name』を継承するようなサウンドを聴かせる。楽曲、演奏、歌のどれもがバランスよく、静的でありながらメッセージ力ある音楽となっていて、録音も極めてクリアで分離がよい。
手持ちの他のMASTERDISK刻印のアルバムも同じ方向性。あと意外とマイナーなアルバムがあって、『 No New York』のハイエナジーな演奏をレコードに閉じ込めたはMASTERDISKならではの手腕か。SuicideのキーボードのMartin Revのファーストの密度の高い空間性もいい。
所有しているMASTERDISK刻印のレコード以下の通り。
Van Der Graaf Generator / Godbluff
Van Der Graaf Generator / World record
David Byron / Take No Prisoners
Kieth Emerson with The Nice / 2LP Best
No New York / No New York
Martin Rev / 1st
Marianne Faithful / Strange Weather
Kraftwerk / Autobahn
その他のマスタリング刻印
手持ちのレコードの刻印をチェックしている時に他にも色々な刻印があることがわかった。
MASTERED BY CAPITOL刻印
これはCapitol Studio でカッティングされたレコード盤に刻まれる。Be Bop DeluxeやParisの米国盤やYESのサードの重量盤再発などがそうだった。一聴して感じることは、左右のステレオ空間が広いこととサウンドの効果が明確に表現される。
Be Bop Deluxeでは、全体に軽くフェーザー処理が入る音の動きが顕著。モダンロック、デジタルロックのイノベーターだったこのグループの音楽性が明確に伝わってくる。YESのサードアルバムは180g重量盤での再発。これも左右のステレオ空間の音の移動と広がりがあり、リバーブがかかったSteve Howのギターがサウンドステージに浮かび上がってくる。MASTERED BY CAPITOLは空間表現に長けているようだ。他にはこんなレコードがあった。
Be Bop Deluxe / Futurama
Be Bop Deluxe / Sunburst Finish
Be Bop Deluxe / Modern Music
Be Bop Deluxe / Drastic Plastic
Bill Nelson / Sound-on-Sound
Robin Trower / Days of The Eagle
Paris / Paris
Paris / Bigtown 2061
Yes / Yes Album - 重量盤再発
Mastered by Truetone刻印
Truetone Mastering Labs によるカッティング。Tangerine Dreamのライブアルバムしか手元になかったが、同タイトルのCDと比べてもワイドレンジでクリア。ライブならではもリアルな雰囲気が感じられる好アナログマスタリング。
MASTERED BY ALLEN ZENTZ L.A. CALIF
これも一枚だけ。元King Crimsonのドラム、Bill Brufordの1980年作『Gradually Going Tornado』には、「MASTERED BY ALLEN ZENTZ L.A. CALIF.」の刻印が誇らしげに入っていた。 刻印の通り、ロスアンゼルスにスタジオを構えるAllen Zentz氏によるマスタリングとカッティング。Discogsの資料を見るとQueenやKissなども手がけているようだ。
このアルバムはSF作家、ハーラン・エリスンの同名の小説をベースにした架空のサウンドトラックのようなもので、いかにも80年代後半の録音のエフェクト処理がされている。King Crimson的なものではなく、エレクトリックバイオリンをフィーチャーしたジャズロックアルバムとして聴くとなかなかの力作。Codes In The Clouds もそうだが、僕はロックのインストアルバムが好きなんだな。
Michael Hoenig / Departure From Northern Wasteland(英国盤)
ドイツの作曲家、シンセサイザー奏者 Michael Hoenig の1978年リリースの1作目。彼は一時期 Tangerine Dreamにも参加し、Ash Ra TempleのManuel Göttschingとのコラボレーションで『Early Water』などの作品も残している。彼自身は後に米国ロスアンジェルスにスタジオを設立し、映画やTV等の音楽制作で成功する。
この「Tomorrow Never Knows」は彼のソロデビューアルバムで、タイトルからもわかるように、 The Beatlesの『Tomorrow Never Knows』、Byrdsの『Eight Miles High』、Donovanの『Mellow Yellow』といったボップ、ロックチューンをカバーしている。ただ彼の手にかかると、そうした曲は素材でしかなく、かなりフリーキーな演奏となる。
『Eight Miles High』では最初はテーマを平凡になぞっているが、展開部になると一転してグループ全体がスリリングでアグレッシブな演奏に変わる。リズムは奔放だし、かなりキテる感じのギターだと思ったら、どうやらLarry Coryellらしい。 10分におよぶ『Tomorrow Never Knows』はさらに突き進んでいく。
Michael Mantler / More Movies(日本盤)
Michael Mantler(1943 -)は、オーストリア出身のジャズトランペッター。一時期ピアニストのCarla Bleyのパートナーでもあり、自分達のレーベルJOCA/WATTから多くの作品をリリースしている。Michael Mantlerは、フリージャズというよりは作品指向で、作曲されたパートとソロやインプロビゼーションのパートがはっきりと分かれているように思う。それにロック系のミュージシャンの参加も多く、アルバムによっては、 Marianne Faithfull、Robert Wyatt、Kevin Coin、Jack Bruce、Crhis Spedding、Pink Floydのドラムの Nick Masonなども演奏している。
この火事で当時ベイエリアでちょっとしたカルトデュオになっていた『Them Are Us Too』
ギタリスト、Cash Askewが犠牲となった。Them Are Us TooはボーカルとシンセサイザーのKennedy AshlynとギターのCash Askewが大学で結成したデュオで、音楽的にはエレクトリックだが、Ashlynのギターがサイケデリックな感覚を加えている。
Scott Walkerはそうしたことを一切しなかった。アルバムを作り終えたら、もうそれは2度と聴かない。制作の過程で何千回も聴いているので完成したらそれは終わったことで、もっと先にだけに向かっていく。何も繰り返さない。
Scott Walker - のヨーロッパの異邦人
Scott Walker、本名Noel Scott Engel (1943 – 2019)は、米国出身で1964年(21歳)の時に英国に渡り、本当の兄弟ではないが他の二人とWalker Brothersとしてデビューしアイドルグループと大成功する。最初はメインボーカルではなかったが、彼の歌った曲がヒットしたことからグループのリードボーカルとなる。日本でも当時アイドルグループして人気が高かった。
その後、Walker Brothersの再結成などがあったが、1984年(41歳)の時にバージンレーベルと契約して『Climate of Hunter』をリリースする。2021年のベストアルバムでも触れたが、一聴した感じでは時代にあったモダンロックアルバムなのだが、どこか暗く、ざらっとした感触がある。アルバムの最後の曲は場末のカントリーソングのような『巻かれた毛布のブルース』という短い曲なのだが、その毛布に巻かれているものは何なのか、死の香りがしてくるような曲。
11年の沈黙の後に4ADレーベルと契約し52歳で『Tilt』をリリース。4ADはDead Can DanceやBauhausを要したレーベルで、Scott Walkerの世界観とも一致する。ようやくよき理解者を得て彼の目指す表現がその正体を現し始める。当時のレビューは彼があまりもメインストリームの音楽から逸脱してしまったことに戸惑っている。
テリエ・リピダルの『Whenever Seem To Be Far Away』は、A面は1曲目からファズベースが唸り、メロトロンが鳴り響くダークなサウンドにリピダルのギターが稲妻のような光を放つ、北欧プログレジャズロック。B面は室内オーケストラを加えたシェールベルクやベルクの作品を彷彿とするようなエレクトリックギターの作品。
1983年にリリースされたGang of Fourの最後のアルバム(後に再結成)。このアルバムはファンにも評論家にも酷く評判が悪い。前作でドラムが抜けたためにドラムはプログラミング。ゲストに女性ボーカルが加わり「ディスコミュージック」的な展開だが、僕はこのアルバムが当時から凄く好きでカセットや2in1の廉価CDで聴いていたが、やっと英国オリジナル盤を入手。人気がないだけに安かった。Gang of Fourのエッジーな部分のみを期待するファンには「なんだこりゃ」だったかもしれないが、彼らには元々ファンクっぽい要素もあったし、テクニカルな女性ベーシストが加入したことで、一気に進んだのだろう。Andrew Gillのギターは相変わらずアグレッシブだし、歌詞も冴えている。メロディラインもキャッチーでこのアルバムがヒットしなかったのが不思議なくらい。
Mary Halvorson(1980-)は、マサチューセッツ出身の米国フリージャズギタリストで、ここ10 年ほど注目している。ソロの他、五重奏団、八重奏団、といったアンサンブルでの作品も多く、しっかりスコアとして書かれている部分とフリー部分に分かれた作品が彼女の持ち味のように思う。本作は2010年の五重奏団での作品が2012年にアナログ2枚組としてリリースされたもの。聴き始めはスローでオーソドックスなジャズのようでありながら、それが変容していくさまを体験することになる。
この「Man In The Dark(闇の中の男)」は『9.11』を受けてポール・オースターが書いた本で原書は2008年の発売(日本語翻訳は2014年の出版)。彼は初期のニューヨーク3部作が有名で僕が最初に読んだのもその一つの『鍵がかかった部屋』だった。人の持つ暗い側面、人生の不条理の物語を淡々と描いていく。アメリカのカフカ、と評されたりするが物語の主人公を突き放すのではなく、それが悲劇的な結末であっても共感を覚えているように感じる。人生に対する洞察が作品を魅力的なものにしている。
この本を読んでいるときに、LOWの1994年にリリースされたデビューアルバム、『 I could live in hope』を聴いていると、何か雰囲気がシンクロしていく。その静かで、それでいて憂いを内に秘めたような歌と演奏が、この本の内容によく合っている。もし、この本が映画なるなら、サウンドトラックはこのアルバムしてほしい。
特に最後の「You are my sunshine」のフレーズで有名な『Sunshine』のゆったりとしていて、それでいてメランコリックなカバーのメロディが、この小説の最後の老人と家族が夜明け前の時間に交わす会話に重なってくる。