Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

iPadPro - コンピューターであることを意識し始めた

今回のフルスクリーン、FaceID対応のiPadProのリニューアルはiPadProが「普通の製品」になるターニングポイントかもしれない。 個人的にiPadは初代からずっと使っているし、iPadProも2015年の最初のモデルから仕事でもプライベートでも利用してきた。

iPadProのデビューが鮮烈だったのは、いわゆるパーソナルコンピューターとはまったく違う体験をもたらしたこと。手軽に持ち運べ、高解像度の約13インチのスクリーンは、大抵のドキュメント作成を効率的に行え、Apple Pencilは紙に描くのとはまた違う、電子デバイスとの新しいコミュニケーション手段をもたらした。それに合わせて、Paper や Procreateといった、これまでのmacOSではできなかった新しい発想のアプリも登場した。既存のMicrosoft OfficeiWorkといったビジネスソフトですら、この新しいデバイスの特性を活かしたものにRe:デザインされ、それらが既存のアプリケーションにも好ましい影響をおよぼした。

21世紀版の「The Bicycle for The Mind (知の自転車)」

iPadProがそれまでのコンピューターとは全く異なるデバイスであり、スクリーンにタッチすること、ペンで描くこと、キーボードをタイプするという異なるインタラクションを高度なレベルで統合し、ユーザーの新しい創造性を引き出すというプロダクトとして結実していた。それは、1984年の最初のMacintoshのスローガンだった「The Bicycle for The Mind (知の自転車)」を21世紀に再度具現化してみせたプロダクトでもある。

そしてiPadProにも最初のMacintoshと同じような批判が生じる。つまり「パソコンみたいに使えない」「仕事に使えない」という批判。 MacintoshがグラッフィックやDTPという新しいクリエイティヴな領域を切り開くことで市場に定着したように、iPadProはクリエイティヴプロフェッショナル、エリート向けのデバイス市場に大きく舵を切った。Macintoshにとってキラーアプリケーションとなった Adobe Photoshopの完全版が来年iPadPro向けにリリースされるが、歴史は繰り返すということなのか?

Like a computer. Unlike any computer

今回の新しいiPadProのキャッチコピーのひとつが、「Like a computer. Unlike any computer - どんなコンピューターにも似ていないコンピュータ」。確かにSurface Proを逆コピーしたような外観だね、と言う皮肉はともかく、このフレーズはNYでのキーノートでもTim Cook CEO本人の口からも聞くことができた。これまでのスタンスはiPadは既存のPCとは異なるものだというのが一貫した主張だったが、iPadProについては既存のPCとの比較で優位性を訴えるといういマーケティングに変更された。僕には「92%のコンピュータよりも優れている」というアナウンスにどんな意味があるのか正直わからない。

iPadProをPCとの比較の文脈の中でセールスしなければならないというのが、このジャンルの製品の難しさを表しているし、AppleにとってもApple Computerという社名から「Computer」を外したのに、それでも「Computer」というジャンルから逃れることはできないか。

過去2回は新製品が出るたびにiPadProをアップグレードしてきたが、さて今回はどうしようか? スマートキーボードもApplePencilも全てを買い換えることになるし。それに「コンピュータ」が欲しい訳ではないしね ;-)


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