兵庫県に本社のあるJICO(日本精機宝石工業株式会社)は、SHURE、Audio Empier など海外・国内合わせて30社(ブランド)以上のMMカートリッジの交換針を提供していることで知られているが、交換針の専業メーカーということでなく、高い精度のダイヤモンドの加工技術があり、工業・産業向けの向けの製品のビジネスを行なっている。そうした高い技術力が交換針の品質に大きく貢献してることは間違いなさそうだ。
JICOなら針の形状が選択できる
60年代から80年代のレコード黄金時代のカートリッジの製造元はもう交換針の供給を止めてしまっているので、新しい針は、このJICOから入手することになる。僕はSHUREのカートリッジを5種類使っているが、交換針はこのJICOのものを使っている。
余談だが、中古でビンテージのカートリッジを入手した時に付属している針は「動作確認用」程度と考えておいたほうがいい。何年も死蔵されていたようなものの場合、針とカンチレバーを支えているゴムのダンパーが劣化しているだろうし、針先の消耗、固着した汚れなどがあり、当初の音質を発揮できていない可能性が高い。視覚的に確認するなら三十倍程度のルーペで観察するといい。新しい針と見比べると劣化の状態が分かる。
話を戻して。JICOから交換針を入手するときに針先の形状のバリエーションから選択する楽しみもある。SHUREのカートリッジだと、本体の形状は同じで針先が丸針、楕円針等の違いで製品バリエーションになっており、同じカートリッジで針を付け替えてサウンドの違いを楽しむこともできる。
価格は丸針だと3,000円から5,000円代、楕円針、S楕円針だと7,000円から14,000円代といったところ。さらにその上のランクにはJICO独自のSAS針(Super Aanalog Stylus)というものがあり、レコードのプレスマスターの元となるカッティングマシンのカット用の針と同じような形状をしており、レコードの溝への密着度が高くレコードからより多くの情報を得ることができ、さらにカンチレバーにサファイアやルビーを使用することで、情報のロスをなくすという構造をしている。このSAS針は受注生産となり、価格も2万円以上と高くなってくる。
2万円を超える交換針となると僕の予算の範囲を超えてしまうので、いつも購入するのは、SHUREのカートリッジ向けの標準的な丸針か楕円針ということになる。それでも十分に良いサウンドで楽しめている。
JICOの針の音質について
前記したように中古で購入したカートリッジの針先の状態にもよるので単純な比較はできないが、新品で購入したM44G、針先のコンディションはそれほど悪くないように見えたM75ED Type2、すでにJICOの交換針がついた中古だったV15 Type3での印象は次の通り。
M44G:僕が持っているのは生産終了のアナウンス後に購入したメキシコ生産のもの。元の状態のサウンドは、M44Gらしい押しあるもの。これをJICOのM44G Improved の丸針に変えてみると、音の解像度は上がって、英語の歌詞も聞き取りやすくなる。推しの強さはあるが、純正針のような音楽を大雑把に掴んで描くようなダイナミズムはやや後退し、整理された音調になる。僕にとっては嫌いな方向ではない。
M75ED Type2: これは中古で購入したが比較的コンディションのよいSHURE純正針がついていた。純正の楕円針もそれなりに良い音をしているが、全体に覇気がない感じがするのはダンパーが劣化しているせいか。JICOの楕円針に交換すると、これも解像度がグッと向上する。付属の純正針のときよりカートリッジの格が上がったような印象。ジャンルを問わずオールマイティに使える。これで聴いていると中古価格がプレミア化しているV15 Type3でなくともこのM75ED Type2で十分ではないかという気がしてくる。
V15 Type3:JICO同士での比較になるが、付属していた針をルーペでみると、針先の周りに固着した汚れあるのと、カンチレバーが黒いシミのようなものがある。針先洗浄液で拭いてもとれない。これをJICOの新品の楕円針と交換すると、やはり音質は改善。高域のあった妙な癖やひずみ感がとれて、フラットでワイドレンジな再生音になった。当時のベストセラー製品だったこともうなずける。
全体に共通しているのは、加工精度の高さを感じさせる情報量の多さ。それをカートリッジのサウンドキャラクターにのせて聴かせていくこと。なので「いかにもビンテージ」という音ではなく、ハイファイ調になってくる。人によってはこのあたりが好き嫌いがでるかもしれない。僕はこの古いものと新しいものをコラボレーションを楽しんでいる。
参考リンク:https://shop.jico.co.jp