Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Joy Division / Still - 美しい影を背負った音楽

十数年ぶりに、Joy Divisionのアルバム「Still」をターンテーブルにのせた。Joy Divisionというグループは70年代終わりのパンクムーブメントの中で数年しか活動しなかったが、当時23歳だったリーダーのイアン・カーティスの自殺がこのグループに、忘られぬ刻印を残しロック史の「伝説のグループ」の序列に加えられた。

重荷を背負った若い男たちがいる/彼らはどこに行ったのか?

僕がJoy Divisionを知ったのは、79年ごろに高田の馬場にあった「Opus1」というレコード店で購入したシングル2枚組のFactoryレーベルのオムニバスだった。その初期のトラックはいかにもパンクだが、ボーカルの声が暗い個性を放っているのが強く印象に残った。

その後は、「Unknown Pleasure」「Closer」とアルバムがリリースされる。個人的には「Closer」のアルバムには大きな影響を受けた。あの白いジャケットと美しくも悲哀を象徴する写真が配置され、レコードに針を落とせば、神経質なギターで「ATROCITY EXHIBITION(残虐展覧会)」が始まる。決して演奏が上手いグループでなく、それに(意図的にか)チューニングがずれているシンセキーボードのサウンドが重なり、その音楽にモノトーンの陰影を与えている。それが頂点に達するのが最後の「DECADES」。「重荷を背負った若い男たちがいる/彼らはどこに行ったのか?」という歌声が暗い空間に無限にエコーするかのように、聴き終えた後に胸を押し潰されたような感覚を残していく。

「Still」は Joy Divisionの Earthbound

その「Closer」の楽曲を含む最後のライブとなる1980年5月2日のバーミンガム大学でのライブと未発表テイクの組み合わせた2枚組として1981年にリリースされたのが、この「Still」。もちろん発売されてすぐに手に入れた。ただ、当時の僕には、このスタジオトラックもライブも今ひとつ散漫で通して聴くには辛く、いつの間にかレコードラックの中でひっそりとその場所を占めるだけになっていた。

バキューム式のレコードクリーナーで、手持ちのレコードを順番にクリーニングしていく中で、最初にも書いたが、この「Still」を十数年ぶりに聴いてみた。そしてこのアルバムに今さらながら胸をうたれた自分がいる。若い時のように「Closer」のような完成度を期待することなく、ただの初めて聴くアルバムのように接すると、この「Still」が、Joy Divisionというグループの音楽の最後のピースとして上手くはまることに気がつく。

アルバムのライブ面の終わり近くで「DECADES」がライブで演奏される。スタジオテイク以上にチューニングが外れたシンセの音、満身創痍で倒れる寸前のように進むバンドの演奏。小さくしか聞こえないボーカル。この曲は本来こうした演奏こそが相応しいのかもしれない。ここまで聴いて、このアルバムが、Joy DivisionにとってのEarthbound なのだということを理解した。それが、このアルバムを特別な存在にしているのだ。『Still - 静寂』というタイトルのように。

参考情報:Apple Musicでも聴けます。


© 2019 Shigeo Honda, All rights reserved. - 本ブログの無断転載はご遠慮ください。記事に掲載の名称や製品名などの固有名詞は各企業、各組織の商標または登録商標です。