Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

中古レコードにいくらまで払えるか? - その価格は音楽の価値なのか?

僕にとって中古レコードを買うことは日常の一部。今でも毎月何枚か実際のお店やインターネットで買っている。よくいつまでも欲しいレコードがあるものだと自分でも不思議に思うほど。

僕が中古レコードを買うようになったは70年代の終わりに東京に来てから。地元には輸入盤を扱う店はあったが、中古レコード店はなく、東京で暮らすようになって中古レコード店を利用するようになった。最初からあまり中古レコードに抵抗はなく、同じものなら安いほうがたくさん聴けるのでいいかと思っていた程度。

新しい輸入盤を買うなら高田馬場のOpus 1か渋谷のCISCO。秋葉原の石丸電気レコードセンター、中古盤は量が多くて安価だった銀座のハンター、新譜も中古もなら御茶ノ水や新宿のディスクユニオン。ブートレッグなら西新宿の Kinnie といった時代。有名だった「新宿レコード」は、肌に合わずほとんど行っていないが。

レコードが日常品だった時代の感覚が今でも抜けない

それはレコードが大量生産された日常品だった時代であり、中古レコードの殆どが1,000円台かそれ以下だった。もちろん中には高いものもあったが3,000円から5,000円程度。国内の新譜レコードの価格は、2,800円から3,000円だった。最初に国内CDが発売された時の価格が1枚もので3,400円で、ずいぶん高い印象があったものだ。

僕が最初に買った国内盤レコードは2,000円のころで、それからオイルショックの狂乱物価を経て、2,300円、2,500円、2,800円と上がっていったが、今でもそのときの感覚が抜けず、1枚で3,000円を超える中古レコードには抵抗感がある。今や都心のディスクユニオンにいくと、ジャズ、ロック、クラッシックなどのジャンルに関係なく、5,000円、一万円から、数万円、十万円を超える中古レコードが普棚に並んで売られている。それが相場なんだろうが、僕にはちょっと買えないな。

中古レコードの価格を決めているもの

最近読んだ本にも書かれていたが、音楽をはじめとすると芸術は、安定した成熟した社会でしか求められない。生存することが最優先の厳しい環境では音楽どころではない。なのでそれが市民なのかパトロンなのかは別として、音楽のニーズのある社会というのは裕福な社会と言える。中古レコードの価格が上昇しているのも、それだけの値段のものを買える人たちが増えたということに他ならない。

中古レコードに限らず、価格相場を決めていく要素は、

希少性 X コンディション X 需給状況

となる。もちろんその他に「知名度」や「時代的な評価」という要素も加わる。あるいは「来日」や「雑誌の特集や回顧記事」といったようなイベントで「相場を形成する」ような操作が行われることもある。

例えば、認知度も人気も高いThe Beatlesの「Sgt. Pepppers」で初期UK モノラル盤でミント(新品同様)コンディションとなるとこの式の全ての値が大きいので非常に高価格になる。それに、文化が滅亡するようなことが起きない限り、10万円のレコードが無価値になることはない。良好なコンディションのものは減っていくだけなので価値は上がるはず。なので書画骨董のように投資資産としてオリジナル盤を取集するのは有効かもしれない。

イベント的な例だと、最近映画でリバイバルしたQeenの中古レコードも一部では価格が上がっているが、希少性はそれほど高くないし、この映画のブームが終われば、また価格は下がってしまうだろう。

さらに、プログレッシブロックやサイケデリックといったニッチなジャンルになると、限定100枚しか存在しないといった希少性の値が異常に高くなったり、グループの存在や音楽のあり方が伝説化したり、宗教化したりして、一部のファンは価格に糸目をつけないといった状況になることもある。

この例では1960年代の西ドイツ、ミュンヘンの左派ヒッピーコミューンのバンドだったAmon Duulがリリースしたアルバム「Psychedelic Underground 」がある。内容はいかにもアングラなロックグループの即興演奏。当時、西ドイツで発売されたオリジナル盤が12万円で売られているのを明大前にあったサイケデリック専門店で見たことがある。

この写真は、僕が所有している1980年代になってから日本国内でジャーマンロックシリーズの1枚として再発売された同アルバム。ジャケットやタイトルは変更されてしまったが、収録されている音楽は同じ。中古で1,200円ほどだった。

中古レコードの価値は収めれた音楽の価値ではない

つまり、中古レコードの価格はレコードに収められた「音楽の価値」ではなく、顧客が考える「レコード盤パッケージ全体の価値」ということになる。裕福な顧客が増えてオリジナル盤志向が高まれば、オリジナル盤の価格は当然高騰していく。少し前までは「英国オリジナル盤」が主体で、米国のバンドであっても「英国プレスのオリジナル」が重宝されたが、現在では「米国オリジナル盤」もそれなりの価格になってしまった。

なので、僕のような天邪鬼だと、「入っている音楽が同じなら安い方でいい」となりがち(初期盤は音質が高いからいいのだ、と反論されそうだが、その音質の価値が価格に見合っているかも僕には大事)。 このブログにも書いているように、もちろんオーディオも好きで、音の良いのオリジナル盤を高音質で聴くのは格別の体験だが、そこそこの音質の盤をそれなりに楽しんで聴けるようにするのも、オーディオの重要な役割だと考えている。

大切なのは自分にとっての価値感

中古レコードに何を求めるかは人がよって違うだろうが、結局、僕が中古レコードを買い続けているのは、音楽の入れ物としてのジャケットデザインを含めたその音楽を繰り返し体験することが好きだから。そして、やはり生活があっての楽しみであり、当時のレコード価格が身にしみていることから、妥当と思える金額の上限は1枚3,000円まで。

時には3,000円を超えるものを買うこともあるし、探していたアルバムを見つけて2万円の値札が付いていても、もう二度と出会うことがないとかと思うと、買ってしまおうかという衝動にかられることはよくある。すると頭の中でジキルとハイドが「買え、買え」「ダメダメ、冷静になれ」となるわけだが、今のところは冷静になれている。 多分それは、経済的な理由というよりも僕の「モノの価値観」から外れてしまうからだ。時代錯誤で古臭いと思われるかもしれないし、そんなに頑固なつもりはないのだが、これまでの生活で身についた「モノの価値観」は自分の一部なんだろうな。

注:タイトル写真は Unslpashのライブラリから Photo by Mick Haupt


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