Thinking is The Form

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

山本音響工芸 アフリカ黒檀製ヘッドシェル HS-1As - 素材の性質は音に出る

アナログディスクの再生というのは微小な振動を増幅していく。まずカートリッジでレコードの溝を通過する針先の物理的な振動が電気的な信号に変換される。その後のフォノイコライザーでRIAA補正がされた後、アンプでの何万倍にも増幅されてスピーカーで再生されていく。なので、最初のカートリッジの状態は重要になる。

現在使用しているアナログ系のシステムは、Micro製の約3kgのターンテーブルに更に銅板の3kgのシートを重ね、レコードの上にのせるインシュレーターも1Kgあったりと、かなりハードでリジッドな構成。アームは往年のワンポイント型のAudioCraftのAC-300MCをオイルダンプゼロで使い、S字アームとストレートアームを使い分けている。現状のリアルでタイトなサウンドはとても気に入っているのだが、アコースティック系のソースのときは、もう少しゆったりした雰囲気が欲しいなと感じる時もある。

アフリカ黒檀製ヘッドシェル HS-1AsとSHURE V15 TypeIVを組み合わせ

新たに柔らかい音調のカートリッジを加えるという選択もあるが、今回は現状のカートリッジのまま、ヘッドシェルやシェル内のリード線を変えて調整してみることにした。手持ちのカートリッジで1番ハイファイ調でサウンドがこなれているのはSHURE V15 TypeIVになるので、このカートリッジのヘッドシェルを変えていく。

音がハードエッジにならないように、それでいて薄い素材でなく質感のしっかりした非金属製のものを探すと、山本音響工芸社の木製のヘッドシェルが候補になる。つげ、桜、黒檀の種類の中から、強度がありながら内部損失も大きい黒檀のものを選択してyodobashi.comで購入。

この「アフリカ黒檀製ヘッドシェル HS-1As」で使われている黒檀はクラリネットやオーボエなどの楽器で使われる音響製品向けの品質のもの。以前、オーディオアクセサセリを製作している会社の方から聞いた話では、質の良い黒檀の入手は現在なかなか難しいらしい。原因は良質の黒檀はアフリカにあるのだが、紛争や政情不安で採取や流通が滞っているとのことだった。

今回購入した 「HS-1As」には6Nの高品質のシェルリード線が付いているモデル。コネクタ側はハンダ付けされているのでリード線の交換は不可。カートリッジの傾きは調整可能で、アームの条件に合わせて設定できる。カートリッジ取り付け用の金メッキされた真鍮ネジも同梱されている。

緊張感は残しつつ柔らかい響きに。アコースティックサウンドにはベストマッチ

さて、SHURE V15 TypeIVを取り付けて聴いてみると......。一聴して金属系のヘッドシェルとは違う、ソフトな音調。ただ甘い感じはなく、緊張感がありつつ、メロディやアンサンブルを美しく描き出す方向性。シェルの重量が約10gと軽いのもハイコンプライアンス カートリッジに合っているのだろう。それに LuxのE-250という美音のフォノイコライザーとの相乗効果もありそうだ。このシステムではこれまでに聴いたことない、新鮮なサウンドになった。

例えば、フォーレ、ラベル、ドビュッシーといったフランス作曲家の作品の優美さ、品の良さがよく伝わってくるような音。室内楽やピアノはもちろん、V15 TypeIVの解像度の高さも効いてオーケストラなど編成の大きいものも混濁なく美しい。 このフォーレの管弦楽全集のアルバムでは、ツゥールーズ室内管弦楽団の柔らかなハーモニー、ソプラノの歌声の自然な伸びやかさが見事に表現された。

フォーク、トラッドや女性ボーカルはもちろんいい。リチャード&リンダ トンプソンの1974年のアルバムの再発ものだが、二人の歌声もバックの演奏もナチュラルで、その曲の世界に投入できる。雑味のないギターの音は黒檀の素材が効いているのだろう。

アンサンブル重視のプログレッシブロックも雰囲気がある。この組み合わせで聴いた ヘンリーカウの「Unrest」が演奏に透明感があり、ちょっとビックリした。ヘンリーカウとしては、前衛的なインプロビゼーションとアンサンブルのパートが交互に現れる過渡期の作品で、かなり鋭い表現のある音楽なのだが、アンサンブルのハッとする美しい瞬間を聴くことができたのは新たな発見だった。

なので、黒檀だからといってアコースティック専用ということではなく、音楽の種類やアーティストによって最適に聴けるものがもっとありそうな気がする。

ただ、この組み合わせで、C.C.R.とか Led Zeppelinといったようなハードで馬力のあるロックやAlbert Ayler、Eric Dolphy、AACMのようなジャズには向かない。なんだか腰砕けのスカスカの音楽になってしまう。 それだけ美的な方向への個性が強いとも言えそう。僕が当初狙っていた音楽性にはピッタリ合っているので、他のカートリッジとの使い分けがはっきりしてきた。

こうしてアクセサリで音質を調整していくときに材質の特性や響きが重要なことをよく認識できた。特にアナログのように扱う信号が小さい時はその影響が大きく、音楽の再生にダイレクトに反映されてくる。今回導入したのは、アフリカ黒檀だったが、同シリーズの桜の木を使ったものや、カーボンを使ったものはどんな音になるのか、別の興味が湧いてきた。