タイトルに「姿勢」という言葉があるが、原題は 「Design as an Attitude」。Attitude - つまりどんな態度やアプローチを取っていくのかと言うこと。著者はニューヨークタイムス紙でデザインコラム(新聞にデザインについてのコラムがあるという時点で文化の違いを感じるが)も執筆しており、本書は『Frieze』マガジンへの連載を元にまとめたものになる。
「デザインが変革の主体になるとき」というサブタイトルが示しているように、本書が取り上げるデザインの範囲は非常に広い。
パキスタンやアフリカでの遠隔医療の仕組みの実現に注力するデザイナー、第二次大戦中にタイポグラフィの能力でレジスタンス運動のムーブメントを支えたデザイナー、海洋を浮揚するプラスチックの回収システムに取り組むデザイナーなど、ビジネスの奴隷としてのデザイナーではく、「変革の主体」となるデザイナーの事例やテクノロジーや文化、政治とデザインがどう関わっているのか、その課題はどこにあるのかについての洞察を与えてくれる。
デザイン業界が抱える矛盾も指摘されている。それは未だに白人男性優位なソサエティであるということ。女性や非白人は建築やインダストリアルデザインの分野で非主流派であり、チャンスに恵まれない。
一方、歴史の浅いデザインの新勢力であるデジタル分野ではそうした人種バイアスは少ない。ただ、まだまだ発展途上でもある。未だにメールといえば封筒の形、メモといえばクリーム色のメモパッドの形と言ったように現実のメタファーに縛られたままだし、ECサイトではずっとショッピングカートのまま。複雑なテクノロジーを使いやすくしたことは確かだが、1980年代のXEROX PARCの時代の設計を引きずっていてばかりいないか。新しいデバイスに対応した新しいアプローチが求められている。
社会のあらゆる分野でデザインは重要視されるようになったが、本当にその価値が正しく理解されているのか検証してみる必要があるかもしれない。同時にデザイナーは自分のデザインが、世をが正しい方向に進むために使われているか再確認してみるべきかもしれない。その「クライアント」は正しいクライアントなんだろうか? クライアントがデザイナーに求めていることは正しいことなのだろうか?
これまでになくデザインが社会に与える影響力が強くなり、その影響の範囲が広がっているだけに、デザインに対する態度(Attitude)もこれまで以上に重要になってきていることは間違いだろう。