この「NO NEW YORK」というオムニバスアルバムは、1978年当時のニューヨークのアンダーグラウンドシーンのバンドの独自の音楽を切り取ったアルバムとして、今でも価値あるものとされている。
プロデュースを務め、アルバムカバーにも関わったのはブライアン・イーノ。当時のイーノはDavid Bowieの「Low」「Heroes」のアルバム制作にベルリンで関わり、ロンドンではUltravoxのファーストアルバムのプロデュースをするなど、新しいアーティストのプロデュースに熱心だった。
ただ、それが全てアーティスト側から歓迎されたかというと、そうとも思えない。若いパンクムーブメントのアーティストからすれば、イーノはRoxy MusicやDavid Bowieという、言うなればエスタブリッシュメント側のミュージシャンであり、彼のプロデュース手法に不満をいだくアーティストも少なくなかった。 DEVOのファーストやTalking Headsのセカンドのような成功事例もある一方で、Televisonのようにプロデュースしたテープは破棄されたケースもある。U2のプロデュースでの成功はそうした経験が生かされているのかもしれない。
このアルバムに収められた4つのグループが、どういった基準で選ばれたのかは分からないが、僕が当時このアルバムを買って繰り返し聴いていたときは、何か切羽詰まったような性急な演奏に終始するContortions と 蒸し暑い夜に悪夢からゆっくりと目覚めてくるようなMarsがお気に入りだった。
今聴き返してみると、個々のバンドは個性的なのだが、イーノのフィルターを通しているからなのか、同じようなトーンになっているのが気になる。もっとバンドの個性を活かすこともできたのではないかと思う。それならもっと当時のシーンのドキュメンタリーとして意義深いものになっただろうに。