Thinking is The Form

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

# Brian Eno / APOLLO - 無音だった月面着陸のサウンドトラック

今年はアポロ計画の月面着陸から50周年。あの日から半世紀が過ぎたことになる。当時僕は小学校5年生でアポロ11号の発射から毎日のようにテレビを見ていた。というか、田舎だったからかテレビはそれしかやっていないほどで、月から米国を経由して送られてくるモノクロのボヤけた映像を飽きることなく毎日見ていた。

当時の衛星放送の仕組みからすると、月からの映像は30分以上遅延して見ていたのではないだろうか。ボヤけたモノクロの映像であっても、むしろそうした貧弱な画像であるからこそ、見る者の想像力を喚起したのか、月に降り立つ瞬間の映像に感動したことを今でも鮮明にに覚えている。

人類の偉業という割に、NASAのスタッフも飛行士も、その日本語同時通訳も非常に淡々とした会話だったことも印象に残っている。本当の偉業というには声高に叫ばれるものではないのだ。

アポロ計画は東西冷戦がなければ生まれなかっただろうし、今では考えられない巨額が投じられたプロジェクトだった。人を月に送るとケネディ大統領が宣言したアポロ計画だが、彼の悲劇的な暗殺という事件がなければ、ひょっとしたら頓挫していたのかもしれない。暗殺事件でアポロ計画に「ケネディの夢」という一面が加わり、それも推進力の一部になったのだろう。

テクノロジーの時代になり、インターネットやソーシャルメディアが発展した時代になって「月面着陸はなかった」という陰謀論がまじめに語れるようになったのは嘆かわしい。テクノロジーが進んでも人の科学に対する合理的理解が思考停止状態に陥っている。月面着陸から50年経って、そんな時代になるとは正直思ってもみなかった。

このアルバムは、1983年に月面着陸を含むNASAの映像と交信の音声によるドキュメンタリー映画のサウンドトラックしてブライアン・イーノが制作したもの。

考えてみれば、空気のない月面は無音の世界。着陸船の音も、月への一歩の音も全て無音だった。そうした無音の世界を伝える映画のサウンドトラックがどうあるべきか、イーノも相当思案したことだろう。

宇宙でポツンと一人、緊張の中で暗い空間を見つめている時の音楽とは何か。

そして彼が創り上げた音楽がこのアルバム。所謂「アンビエント」と呼ばれるジャンルのずっと前。空間的でありながら、一つの世界を持った音楽。このアルバムのサブタイトルの通り、「ATMOSPHERES & SOUNDTRACKS」。

また今夜聴いてみよう。