今年(2019年)の8月15日で、あの1969年の「愛と平和の音楽の祭典」だった Woodstock Music Festivalから50周年になる。当時のプロモーターが50周年で再度フェスティバルを開催する話もあったようだが、資金難で結局中止となった。米国でも夏フェスは増えたし、今更な感じもあったのだろう。
50周年記念CDパッケージとしては、当時のイベントのほとんど全ての演奏を網羅した『The Woodstock Experience』という10枚以上のCDセットが発売され、その一部が Apple Musicでも聴けるようになってきた。いつくか聴いてみたが、当時の録音なのでデジタル処理でリストアしてしたといってもかなり差がある。残念ながら全体としてはあまり良い音質ではない。あくまでもドキュメンタリーとして楽しむべきレベル。
この3日間のフェスティバルに詳細や実際の演奏時間については。このWikipediaの情報が参考になる。
多数のバンドの出演と悪天候で予定はどんどん押していってしまい、各日のヘッドライナーは翌早朝か、午前中の時間に始まるという最悪のコンディションだったようだ。3日目の最終日のヘッドライナーだったジミ・ヘンドリックスのグループが演奏を始めたのは4日目の午前9時過ぎからで、既に疲れ切った多くの観客は家路につき、4万人程度しか残っていなかったという話だが、後にリリースされたDVDで見ると、ステージの前にしか観客はおらず、実際に演奏を聴いていたのは1万人もいなかったのかもしれない。
Apple Musicでいくつか聴いてみよう。
Mountain
2日目の夜9時から演奏したのがフェリックス・パパラルディ、レスリー・ウエストが率いる『マウンテン』。この日がマウンテンとしての3回目のライブだったようだが、キーボードを加えたパワフルなライブを聴かせてくれる。
マウンテンの魅力はパパラルディのインテリジェントなベースプレイに、ウエストの荒くれたギターとボーカルの対比だが、その特徴が発揮されている。
Creedence Clearwater Revival
2日目の深夜0時半からGrateful Deadの後に演奏したのが、Creedence Clearwater Revival。実はCCRがウッドストックに出演したとは知らなかった。 CCRはカントリー、サザンロックのテイストがあるが、実はサンフランシスコ(バークレー)のグループ。なので彼らのサウンドには、同じフレーズを延々と繰り返すような催眠的な部分があり、歌詞も暗い心情や世界観を持つものも少なくなく、アシッドロック的な要素も含んでいる。最近、このCCRのアルバムを集めて、よく聴いているところでもある。
この日のライブもジョン・フォガティのすごい熱演で内容も充実している。最後の10分に及ぶSuzie Qは圧巻。
Janis Joplin & Kozmic Blues Band
CCRに続き、午前2時にスタートしたのがジャニス・ジョプリンとコズミックブルースバンド。CCRで観客のノリも良くなてっていたのか、いい感じのスタート。ホーンセクションの加わったダイナミックが演奏をバックにジャニスがシャウトする。彼女の全身からほとばしるような歌のエネルギーは、いつ聴いても圧倒される。ライブだとなおさら。
この『The Woodstock Experience』のリリースは当時のスタジオアルバムをセットにするという分かりにくいパッケージになっていて、Apple Musicだと9曲目からがウッドストックのライブ。
Sly and the Family Stone
スライの存在がなければ後のプリンスはなかったかもしれない。高い音楽性でブラックミュージックの地平を押し広げたのがスライ・ストーン。その影響はジャンルを超え、マイルス・デイビスも高く評価していた。彼らがウッドストックのハイライトのひとつだったことは間違いない。午前3時半からの演奏。
Jefferson Airplane
2日目のヘッドライナーだったJefferson Airplaneの演奏が始まったのは翌朝の午前8時から。「It’s New Dawn!」と叫ぶ、グレース・スリックの声が待ち時間で疲れてしまったのか伸びがない。90分の演奏は中盤からバンドが盛り返してエキサイティングなものとなるが、ベストの演奏とは言い難い。ただ、ここでの聴きものはゲストのニッキー・ホプキンスのピアノで、ニッキーのピアノの魅力を再発見できる。 Apple Musicだと11曲目からがウッドストックのライブ。
Jimi Hendrix / Gypsy Sun & Rainbows
3日目の最終日のヘッドライナーのジミ・ヘンドリックスが登場したのは、4日目の朝の午前9時。先にも書いたが殆どの聴衆はもう家路につき、ビデオで見るとステージ前に熱心がファンがいるだけといった状況。このジミ・ヘンドリックスの演奏は別の録音チームなので音質も良く、すでにDVDなどで全曲版がリリースされている。
このライブではフィードバックでの米国国歌の演奏ばかりがクローズアップされるが、ジミ・ヘンドリックスが果敢に新しいフォーマットに挑戦していた時期で(それが成功していなくても)、その音楽に対する真摯な姿勢は今聴いていても伝わってくるものがある。
1969年のウッドストック フェスティバルでのヒッピージェネーションの狂乱は、翌70年のワイト島でのフェスティバルで終焉を迎えるように思える。それはロックがビッグビジネスに変容する時期でもあり、ヒッピーもその思想も先鋭化を始め、もはや「ラブ&ピース」という呑気で幸福な時代ではなくなってしまっていく。
「ウッドストック50周年」イベントが頓挫したのも「トランプワールド」の今の時代を象徴しているのかもしれない。
*タイトル画像はUnsplashのライブラリから