最近買ったレコード6枚目の話。7月に以前から気になっていた60年代のポップシンガー、スコット・ウォーカーのアルバムを中古4枚まとめてジャンク扱いの4枚2,000円の廉価で販売しているサイトがあったので思わず購入。
僕がスコット・ウォーカーを意識するようになったのは、実はここ数年のこと。きっかけはずっと以前に買ったデビッド・ボウイのジギースターダストの最期のライブのブートレグ の中で、『My Death(私の死)』という曲をアコースティックギター1本の弾き語りで歌っていて、その死がひたひたと近づいてくるよう、言いようのない不安感が強く印象に残っていた。この曲を歌っているシーンは後に映画としてリリースされた映像でも見ることができる。
このYouTubeの映像では、歌う前に何度も「静かにしろ」と観客を諭して、ようやく始まる。
このデビッド・ボウイが歌っているバージョンの『My Death』はスコット・ウォーカーのバージョン(原曲はフランスのシャンソン歌手のジャック・ブレル)。それに、デビッド・ボウイ彼のファンで、彼の伝記映画をプロデュースしているようだ。 それにボウイの歌い方にもかなり影響を与えていて、彼の朗々としてまるで演歌歌手のような歌い方はスコット・ウォーカーの顕著な影響なのだろう。暗い声のトーンも似ている。
60年代のスコット・ウォーカーが、どれだけ人気があったかは、当時BBCで自分の名前を冠した番組を持っていたことでもわかる。英国の国民的人気歌手だった。その番組での楽曲を集めたこんなアルバムもある。
今年(2019年)の始めに亡くなった時は、ニュースの扱いも大きく。BBC Promsでは特別演奏会も開催されている。
元々、欲しかったのはこの冒頭の写真の3枚目のアルバム。彼の暗いバリトンボイスで「今日は雨が降っている/汽車での彼女のことを忘れるところだった...」 とウェーベルンのオーケストレーションのような不安定なトーンクラスターのサウンドをバックに歌い始める。
彼が歌うとその歌詞の風景が目前に現れるような、深い説得力がある。アルバム最後のジャック・ブレルのカバー曲の「If you go away(行かないで)」までその一貫したトーンで聴かせる。サイケデリックな雰囲気が漂う、アルバムカバーの通りの不思議な感覚のアルバム。
米国出身で英国でスターなったが、一度米国に戻ってカントリースタイルのアルバムも制作している。これも単なるカントリーソングというよりも、荒野に落ちる夕日を眺めているようなところがある。
しばらくの沈黙の後、2000年代に入るとアバンギャルドなロックバンドをバックに歌い始める。とてつもなく暗い世界。彼の声が不安感を増幅して共鳴していく。60年代にあった「陰り」は全てを包み込む「闇のように暗い黒一色の世界」となってしまった。 不安な時代に共鳴するその声は、レコードをかければ、まるで今日の音楽であるかのように鳴り響く。