1960年12月にニューヨークで録音され、1961年にリリースされたオーネット・コールマンの「Free Jazz - Collective Improvisation」とタイトルされたアルバムは、なんといってもジャケットデザインが斬新で素晴らしい。
それまでのジャズアルバムのカバーと言えば、ミュージシャンのポートレートか女性がフィーチャーされるのことが多かったが、このアルバムでは白地にタイポグラフィーのみで構成され、切り抜かれた窓から見えるのは現代画家ジャクソン・ポロックの「White Light」の一部。このレコードに収められている音楽が、これまでのジャズは違うものであることを控え目ながら確固たる信念をもって伝えている。 このタイポグラフィーでカバーを構成する手法は、後のECM 初期のアルバムカバーデザインにも影響を与えているように思う。
このアルバムが録音された時、オーネット・コールマンは30歳。エリック・ドルフィーは32歳で、1961年は彼のリーダーアルバム「Out There」がリリースされた年でもある。
演奏は、オーネット・コールマン率いるクワルテットが左チャンネル、エリック・ドルフィーが率いるクワルテットが右チャンネルで演奏するというスレテオ録音効果を狙った構成。それぞれのメンバーは、次の通り。
(左チャンネル) Ornette Coleman – alto saxophone Don Cherry – pocket trumpet Scott LaFaro – bass Billy Higgins – drums
(右チャンネル) Eric Dolphy – bass clarinet Freddie Hubbard – trumpet Charlie Haden – bass Ed Blackwell – drums
面白いのは、どちらのクワルテットにも前衛派寄り、保守派寄りといったミュージシャンが混在していること。特にビル・エバンスのバックにいたスコット・ラファロが参加しているのは意外な印象もある。
"Free Jazz"とタイトルされているが、100%インプロビゼーションというわけではなく、一応パートごとのテーマは事前に存在しており、レコードにはA面、B面に一曲つづを収録。編集やオーバーダブはなく、演奏をそのまま収録されている。
実に本当に久しぶりにこのレコードに針を落としてみたのだが、自分の聴き方が変わったのか、オーディオが進化したからか、以前の「混沌とした演奏」といった印象から一転して、「有機的なスリリングなアンサンブル」を堪能できた。二つのクワルテットの演奏が高い次元で融和している。オーネット・コールマンもエリック・ドルフィーも理論派の音楽家であることがよくわかる。 例えば、同じフリージャズでもジョン・コルトレーンの「Ascension」や、アルバート・アイラーの「Spiritual Unity」だと、もっと情念的。ブルース、ゴスペルフィーリングが濃厚で、フリークアウトした方向に向かっていく。
このアルバムの演奏内容はジャズのモードというかスタイルの基本を失っていない。この中で、フレディー・ハバードのトランペットのソロが一番ジャズを感じさせるが、それは保守的ということでなく、アンサンブルとしては成功しているように思う。
僕にとって、フリージャズを聴く楽しみは、その一見混沌として複雑な音楽の細部に耳を傾けて、謎解きのように音楽に近づくことにあるのだが、それは、このアルバムカーバーの窓から見えるジャクソン・ポロックのアクションペインティングの絵画を見る楽しみにも通じている。
また、ちょっとフリージャズをまとめて聴いてみたいに気分になってきた。