SHUREのハイエンドカートリッジとなるSHURE V15 TypeV-MRは、1983年から1993年まで販売され、1994以降は後継となるV15 TypeVxMRとして1996年に復活して2005年まで販売が継続されていた。今回中古で入手できたのは先のV15 TypeV-MR。当時の価格は60,000円以上だったので、MMカートリッジとしては高級モデル。
この製品の特徴はMRの呼称が示すようにマイクロリッジ針(MR針)を採用したことで、高域特性を大幅に改善しており、CD時代にそれに匹敵する高音質化を狙ったものだった。MR針とはどういった構造のものかはこのサイトで知ることができる。
今回入手したのは、残念ながらオリジナルのMR針は付属しておらず、代わりにJICOのSAS針が付いている。SAS針も構造は似ていてカッターヘッドの形状に近づけることで高音質化を図り交換針としてもグレードが高いもの。個人的にはSAS針にも興味があったし、純正針でないためその分価格も比較的手頃だったので、試しに購入したみた。
仕様的には、針圧の範囲は0.75g - 1.25gで針先のブラシ(スタビライザー)を併用した状態では0.5g加えて1.25g - 1.7gの範囲。ブラシ無しだと1.0g、ブラシ有りだと1.5gの針圧とすることが推奨されている。いろいろ試した感じではブラシ無しの1.0gが音が伸びやか。盤に反りがあるような時はブラシ有りが安定するのでケースバイケースで使い分けてもよさそう。
実際にこのカートリッジでレコードを聴いてみると、一聴してワイドレンジで、高分解能でリアル。特に残響がきれいで低音が『深く』感じられる。ロックアルバムだと、意図的に歪ませている部分とクリアな部分が明確に判別でき、ミキシングコンソールのモニターではこんな音で鳴っていたのだろうと想像できる。
CD時代にアナログから更なる情報を引き出して高音質で鳴らしきるところは、流石にSHUREの高級カートリッジの意気込み。どのレコードをかけても「こんなに音が良かったっけ?」と思うほどハイファイ調でありなら、音楽性も高くジャンルも選ばない。クラッシック、ロック、ジャズ、いずれも高品位の再生音。ときにキレイに聴こえ過ぎると思うほど。
中古で付属していたJICOのSAS針もなかなかのもの。このカートリッジがあれば、他はもういらないんじゃないかとすらと思えてくる。同時に、CD・デジタルの時代になってアナログ再生へのアプローチも変わったように思う。
テクノロジーが進み、素材や加工技術、計測技術が進化すると、どの産業でも製品そのものへのアプローチが変化する。それはオーディオも例外ではない。「音楽をどううまく鳴らすか」よりも「情報量」や「より忠実度の高い再生」が重視されるようになった。それは時代の流れなのだろうが、音楽への理解や感動がそれで深まるかというと別の話。そこが音楽の不思議。
でも、こうして久しぶりに自宅で、高級ハイファイっぽいサウンドが聴けるのは純粋に楽しい。美味しいレストランに食事にでかけたような気分。ただ。あまのじゃくな僕なので、やっぱりこのレコードは場末のロックバーで呑んでるみたいなV15 TypeIIIがいいとか、もっとカジュアルに食べ応えのあるハンバーガーみたいなM44Gがいいとか、きっと気分を変えたくなるに違いない。こうした性格なのでカートリッジの交換が簡単にできない一体型のアームを搭載したLINNみたいなプレーヤーは無理なんだな。
このV15 TypeV-MRが加わったことで、M44G、M75ED Type2, V15 TypeIII, V15 Type IV と続いてきたSHUREカートリッジコレクションはこれで終わりかな。