Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

ハイファイ堂レコード店の閉店セールでまとめ買い - バーゲンの罠に進んでハマってみる

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ここ数年はオンラインで中古のオーディオ製品や中古レコード、CDの購入で利用していた名古屋を本拠とする「ハイファイ堂」のレコード店が(新型コロナウイルスで来客が減ったことも関係しているのか)GW中に突然5月末で閉店とのアナウンス。それで全品50%OFFのセールが始まったので、何点か購入した。

こういう値引きバーゲンのときの買い方アプローチは次の2つがある。

・貴重盤やセットものなどの高額商品を中心に値引きのレバレッジを最大化する

・標準的な価格設定のものが値引きで安くなるので、その分、枚数を購入する

今回のバーゲンでもRadioheadの『OK Computer』やKing Crimsonの『Red』のアニバーサリーボックスセットなどがあって興味は湧いたが、「似たような音源が重複して入っているボックスを本当に何度も聴くのか?」と自問すると、やはりそれはないだろうと思うのでパスすることに。僕はアニバーサリー『箱男』にはなれないんだな。

なので、バーゲンの罠に進んでハマって、後者のスタンスで聴きたいのものを色々買ってみた。

The Man Who Fell to Earth / Soundtrack 2枚組

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このアルバムはハイファイ堂レコード店にずっとあって、気になっていたのでこのバーゲンで購入。ニコラス・ローグ監督、デビッド・ボウイ主演の1976年の映画『地球に堕ちてきた男』のサウンドトラック盤。なんと言ってもアルバムカバーデザインが抜群に良い。このままフレームに入れて飾りたいほど。

映画のサントラなので、デビット・ボウイの楽曲は1つもは入っていない。この映画の音楽を担当したのは、ツトム・ヤマシタとジョン・フィリップス。映画を見た人ならわかると思うが、ツトム・ヤマシタはシリアスに主人公の内面を反映した音楽を担当し、ジョン・フィリップスはあの垢抜けない彼女の存在するアメリカの地方都市の雰囲気をラウンジっぽいサウンドで表現している。

このサウンドトラックアルバムは、2016年に映画の40周年として重量盤2枚組でリリースされたのだろう。

The Byrds / The original singles 1965-1967

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僕の中でバーズはアメリカのビートルズだと思っていて、ビートルズよりも好きなバーズの1965年から1967年のシングルを集めたアルバム。発売当時のモノラルミックスというが魅力。アレンジも演奏もハーモニーも素晴らしくどの曲もいい。

EL&P / In Concert

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もうシリアスなプログレッシブロックファンは見放していた1977年のフルオーケストラを従えた、大規模な散財スタジアムツアーのライブアルバム。カナダのモントリオール・オリンピックスタジアムで収録され、ELP解散後の1979年にリリースされた。

当時のEL&Pは『WORKS』リリース後で、分かりやすくドラマチックな曲展開とグレッグ・レイクの甘い歌声の楽曲で北米では絶大な人気があった。実は少し前にこのツアーのライブ音源をまとめて聴く機会があって、その豪華絢爛でショーとしての完成度の高さに驚いた。音楽のシルクドソレイユのような感じというと伝わるだろか? 

この『In Concert』も最近完全版のCDが出ているが、まずはこのレコードで楽しもう。

Split Enz / Mental Note

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スプリット・エンズは、70年代前半のニュージーランドのロックグループ。ロキシー・ミュージックのオーストラリア公演のサポートアクトを務めたことでフィル・マンザネラの目に止まり、彼のプロデュースでロンドン録音した1973年のアルバム。

早すぎたニューウェーブ。ジャケットのキッチュなイメージそのままで、ロキシー風なところもあり、シアトリカルな展開。本作も聴きごたえがあるが、この次のアルバムも良かった。

The Moody Blues / To our children's' s children's children.

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1969年にリリースされたムーディ・ブルースの4枚目のアルバム。ムーディ・ブルースは以前は甘ったるい感じが苦手であまり聴かなかったが、ここ数年はアルバムを見かけると買っている。

本来このグループは、英国においてはビージーズみたいなポップグループが出自で、それがマイク・ピンダーのメロトロン(ピンダトロンと呼ばれていた)と哲学っぱい歌詞が加わり、グッとプログレ度が増したが、本質的にはポップロック、ソフトロックグループであり、それをちゃんと理解すれば楽しめる。米国で絶大に人気があったのも頷ける。

カラヤン指揮ベルリンフィル / バルトーク - オーケストラのための協奏曲

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カラヤン指揮のベルリンフィルの演奏の最大の特徴は、どんな作品でも「カラヤン指揮のベルリンフィルの音楽」にしてしまうことにあった。ビバルディだろうが、モーツアルトだろうが、ムソルグスキーだろうが、どんな時代、どんな国の作曲家の作品であっても全てそう。カラヤン指揮のベルリンフィルの非常に耽美主義的、ドイツ的で、言い換えればワーグナー的な美的価値観の世界に収斂されていく。

バルトークの『オーケストラのための協奏曲』は、晩年、ナチズムから逃れて米国に亡命した時期に書かれ、母国ハンガリーへの郷愁を感じさせ、思慮に冨ながら後半はリズミックな展開になっていく作品。普段はピエール・ブーレーズ盤で聴いているが、カラヤンがどう演奏していたのか興味があって購入。

それは見事なほどに「カラヤン指揮のベルリンフィル」の耽美的な音楽に変容しており、この作品のハンガリーの香りは吹き飛ばされている。もしバルトークが生きていたら何と言っただろうか。

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あと、クラシックのCDも4枚ある。左上から時計回りに。

サンソン・フランソワ / ラベル作品集

サンソン・フランソワは酒とタバコを愛し1970年に46歳で亡くなった個性派のピアニスト。ショパンが有名だが、同郷のラベル、ドビュッシーのピアノ曲への取り組みは深く、作品の精神が憑依したかのよう演奏は説得力がある。

このクリュイタンス指揮のラベルの2つのピアノ協奏曲の演奏は、その優雅さ、気品と芸術性の高さで聴き継がれるだろう。

イボンヌ・ロリオ / メシアン - 幼子イエスキリストに注ぐ20のまなざし

フランスの現代音楽家メシアンの再婚相手であり、作品の理解者、教育者であったイボンヌ・ロリオが演奏する『幼子イエスキリストに注ぐ20のまなざし』。カソリックの神秘主義的音楽で静寂の向こう側から陽炎のように音楽が現れては消えていく。CD2枚組、2時間以上に及ぶ大作だが、その時間の長さを感じさせない。

ロンドン・シンフォニエッタ / グレツキ - 交響曲3番「悲歌のシンフォニー」

グレツキはポーランドの現代音楽家で、アルボ・ペルトと並び1990年代に『ニューシンプリシティ(新単純主義)』、『ホーリーミニマル(宗教的ミニマリズム)』の旗手として脚光を浴び、この交響曲3番「悲歌のシンフォニー」は、このCDがリリースされた1992年に現代音楽としては異例の大ヒットとなった。

音楽的には単純で調性的で、極めて静かに始まりドラマチックにクレッシェンドしていく。本作ではソプラノで戦争でなくした子供のことを嘆く歌詞が歌われいる。この素朴なメロディラインとドラマが多くの聴衆の心を捉えたことは確か。今のポストロックにも多くの影響を与えていると思う。

また、この『悲歌のシンフォニー』は現代音楽としては異例なほど、演奏会のレパートリーに組み込まれているし、今でも新録音がリリースされる。昨年はポーランドフィルが、 英国ブリストルサウンドの旗手、Portisheadのボーカルのリサをソプラノの代わりに据えたアルバムもリリースされている。

好きな作品なのに何故かCDで持っていなかったこと。そしてやはりこのロンドン・シンフォニエッタの真摯な演奏を手元に置きたかったので購入。

ショスタコーヴィッチ / 室内楽作品集

ショスタコーヴィッチは、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフのソビエト時代を生き抜いた現代音楽家。多くの芸術家が体制の顔色をうかがいながら活動する中、芸術家としての地位が剥奪されることを避けつつ、自分の芸術家としての表現に妥協しない強靭な意志の持ち主だった。

彼にとって交響曲は「社会主義の勝利」を喧伝するプロバガンダ的な役割を負わされていたが、室内楽の分野はもっとインチメイトで彼の個人的な感情の発露になり、芸術的な冒険も行われている。この3枚組のCDには、ピアノ五重奏曲、ピアノ三重奏曲、バイオリンソナタ、ピアノソナタ。チェロソナタなど6作品が収録されている。

粛清されたり亡くなったりした友人がテーマになるものもあり、静的で鎮魂的ありながら、怒りを隠さず、いかなる状況でも強い意志を持ち続ける決意が込められている。それが聴くたびに共感を呼び起こす。

参考リンク:ハイファイ堂レコード店


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