ロックという音楽の特徴に「演奏能力がないこと」「誤解されること」があるとずっと思っている。ロックというのは音楽家、演奏家としての専門的なトレーニングを受けていない(中にはそういう人もいるが)、アマチュアリズムがベースあり、そこに未分化で訴えたい感情をいっぱい抱えた表現者としての衝動が加わって、異常なエネルギーを含んだ私生児的で時にはグロテスクな姿の音楽として立ち現れる。聴き手はそれに共振して、自分の感情が加わって更に大きな振動となって揺さぶられていく。
例えば、Joy Divisionのメンバーが速弾きが得意のテクニカルな演奏集団でボーカリストが3オクターブを正確に歌えたら、あの音楽は全く味気ないつまらないものだったろう。Joy Divisionのあの吃音のような不安定な演奏と歌だからこそ、僕らは彼等の音楽に引き込まれたのではないか。それが聴き手のイメージを膨らませ、本人達が考えていた以上の意味を勝手に誤解して付け加えていったのだと思う。危険な面がないわけでないが、そうした「誤解」が音楽への共鳴を生んでいるのもまた確かなこと。
今回取り上げる「The Index」というグループの醸し出す音楽的アトモスフェアはディープなサイケデリックロックファンにとって、理想郷のように感じられるが、それもまた「誤解されたサイケデリア」ではないか。
僕が最初にこのグループを知ったのは1980年末から1990年初頭で、当時、英国PSYCOレベールから大量に60年代のサイケデリックアルバムが最初されたりして、個人的に一番サイケロックを聴いていた頃。今のようにインターネット通販もなく、ニューヨークの専門店から毎月カタログを送ってもらってFAXで注文し、到着まで1ヶ月ほど待つというノンビリした時代。毎月10枚近く買っていた中にこのThe Indexのファーストアルバムの再発盤があった。150枚しかプレスされなった幻のサイケデリックロックアルバムと紹介されていた。
聴いてみると異常にリバーブのかかった演奏、霧の谷間の向こうから聴こえてくるようなサウンドで、バーズの『Eight Miles High』やバニラ・ファッジの『Keep Me Hanging On』の演奏は上手くないが強烈な印象を残すカバーやオリジナルが演奏される。普通なようでありながら、一聴したら絶対に忘れない強烈な個性がある。その後、何度かの引越しが原因なのか、それとも他のものと一緒に売ってしまったのか、レコードラックからいなくなって随分な時間が流れたところで、この2枚組の中古CDをカケハシレコードでを見つけて購入した。この2枚組は1枚が、彼等の最初のアルバムと次のアルバムをカップリング。もう1枚は未発表だった音源が収録されている。
ドラム担当だったメンバーが執筆した詳細なブックレットを読んで、このThe Indexがどういうグループだったのがわかった。The Indexは1967年に活況な自動車産業の中心地であるデトロイト郊外で結成された。日本風に言えば大学の軽音楽部のグループのようなもので、学校のダンスパーティや地元のクラブが主な活躍の場。邸宅に住む裕福な家のメンバーが居て、その屋敷で練習もしていたが、せっかくだからと自分たちでレコーディングして150枚の自主制作盤をプレスして友達などの配ったのが、「幻のサイケデリックアルバム」の誕生となる。
そのレコーディングは、モノラルのオープンデッキが1台と1本のマイクで録音され、ボーカルと演奏のバランスをとるために、広い屋敷の空間をフルに使って、ベースアンプは遠くに、ドラムはさらに奥にと、物理的な距離をとった配置を何度も試して進められたらしい。おそらくギターアンプのリバーブもいっぱいに上げてあったのだろう、その部屋が大きかったのが、この「異常にサイケデリックなリバーブサウンド」の秘密だった。それでもこのアルバムの魅力が色褪せることはない。そのリバーブと相まって、彼等が純粋に音楽を愛するひたむきな演奏が、聴き手に訴えかけてくる。商業主義でないアマチュアリズムの美しさはそこにある。
The Index のリバーブサウンドやフィードバック奏法による楽曲を指して「裸のラリーズに影響を与えた」、ポストパンクの先駆者、云々と評する人もいるが、1960年代には、The Indexのようなグループは世界中にあったのだと思う。自主制作したリバーブサウンドの150枚のアルバムがあったから彼は時間の流れに生き残った。日本のグループサウンズだって欧米のコレクターからは、極東のサイケディア、ビートバンドとして人気があり、再発されたり、オリジナル盤は高額で取引されている。耳が肥えたファンの探究は止まることがない。進んで誤解し、アマチュアリズムを礼讃する。それはいかにロックが人間のプリミティブな感情に訴える音楽であるかを示してはいないか。
実はこのCD、2枚目の未発表録音が意外といい。当時発売されたばかりの「サウンド・オン・サウンド」で多重録音ができるオープンデッキを使って録音されている。ここでもDavid Crosbyの『I met a man』や『Morning Dew』のカバーなど選曲の趣味のよさが生きている。
僕も恥じることなく誤解し続けていこうと思う。よしにつけ悪しきにつけ、その音楽を鳴らし続けるのは聴き手の方なのだから。

- アーティスト:Index
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: CD