Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Silver Apples / Silver Apples - 「新しい都市の音楽」を響かせる

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Silver Applesは「テクノミュージックのゴッドファーザー」的に語られることが多いが、僕は同感できない。それは表面的なこじつけに過ぎなくて、Silver Applesの本質的な革新性や芸術性を矮小化してしまう危険があるように思う。Miles Davisの『Bitche's Brew』が、「フュージョンミュージックのゴッドファーザー」ではないのと同じことだ。

Silver Applesは、ニューヨークを拠点として結成され、オシレータ発信機とボーカルのSimeonと ドラムのDanny Taylorの2人だけがメンバー。Simeonは8台のオシレーター(発信機)を特殊な自家製ペダルで両手、肘、脚を使って操作して演奏し歌う。発信機という非楽器的な存在の電子音とドラムの組み合わせ。奇妙な演奏方法。それはダダ的、フルクサス的なアプローチと似ているが、彼らがやろうとしたのは、1960年台後半、アポロ計画時代のニューヨークで「新しい都市の音楽」を響かせることではなかったか。アートギャラリーやアートサークルの中に止まるものでなく、ポップミュージックの広いフィールドで行ったことは革新的だった。

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このファーストアルバムの内袋の風景がその全てを物語っている。青空に包まれたビルの屋上に発信機を積み上げ、間近にエンパイアステートビルを見ながら、ニューヨーク中に彼らの音楽を届けようとしてる。まだ、ワールドトレードセンター ツインタワーはなく、テロリズムもない都市の時代。ベトナム戦争はあったが、それは何千キロも離れた世界のことだった。Silver Applesはニューヨークのアンダーグラウンドシーンで人気を集め、1968年にファースト『Silver Apples』をリリースする。

そのグループ名、Silver Applesはイエイツの1897年の詩 『The Song of Wandering Aengus(さまよえるイーンガスの歌)』最後の部分から引用されている。

The silver apples of the moon
The golden apples of the sun

余談だが、面白いのはアポロ計画の時代にこの詩は人気があったのか、現代音楽家のMorton Subotnickも初期電子音楽の名作『Silver Apples of the Moon』を1967年に発表している。

話は戻って、ファーストアルバムの『Silver Apples』は、彼らのアンセムとなり今聴いてもその輝きを失っていない『Oscillations』で始まる。

振動、ぶるぶる、ぶるぶる
音の真理を電子で呼び起こせ

ぐるぐる、磁気が変化する
音波の波の構築
音のポールの間で舞う
そして僕の世界を魂に結びつけろ

瞬く街を歩き
頭を地面につければ
クルマははるか何光年も果ての星々
僕の世界はあるのは音だけ

行き交う人々は
彼方からの時間の舞踏の世界
時間はポールからポールへとくるくる舞う
そして、音の中へと渦巻く...

振動、ぶるぶる、ぶるぶる
音の真理を電子で呼び起こせ

(著者意訳)

翌1969年にリリースされたセカンドアルバムはもっとアグレッシブなヘヴィな内容で、アルバムの雰囲気は70年代NYパンクのSuicideを彷彿とさせる。アルバムカバーは表面がPan Am航空のコックピットの写真なのだが、裏面が旅客機の墜落写真だったためにPan Am航空との間で訴訟になったことでグループの存続が困難となってしまいサードアルバムを録音していたものの活動停止に追い込まれた。

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Silver Applesが再発見されるとき

僕がSilver Appleというグループを知ったのは、この1985年に出版された『Electronic and Experimental Music(Thomas B. Holmes著)』だが、実際にその音楽を聴いたのは、さらに数年後に「光束夜」のドラムだった高橋幾郎氏からカセットテープのコピーをもらった時で、その後、明大前にあった「モダーンミュージック」でレコードを購入することになる。

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グローバルでは、1990年代に入って、ドイツでブートレグで再発されたCDがクラブシーンで注目されて正式リリースになり、Silver Appleが再結成されることになる。ただ、交通事故でSimeonは首の骨を折る重症になり、またドラムのDanny Taylorが病気で亡くなるなどの不幸に襲われるが、SimeonはTaylorのドラムをサンプリングして、ソロとしてSilver Appleを続け、ワールドツアーを敢行する。前記の『Oscillations』の映像はその時のもので、ロンドンのApple Music Festivalに出演したときの音源はiTune Storeでダウンロード販売されていたりもした。

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最初のリリースから半世紀を超え、このエントリーを書くために久しぶりに聴き直しても、このアルバムはノスタルジアではなく時代を超えたラジカルな存在であり続け、マントラのように、Oscillations、Oscillationsの歌声がぐるぐると部屋に充満していく。

Silver Apples / Contact

Silver Apples / Contact

  • アーティスト:Silver Apples
  • 発売日: 1997/10/21
  • メディア: CD


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