Sound & Silence

音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Zola Jesus / OKOVI - 暗闇が白い光につつまれるとき

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僕が Zola Jesusの存在を知ったのは10年ほど前 、NPR.orgでの新譜紹介でだった。「Conatus」というアルバムで、音楽的にはエレクトロニックで神秘的なところがあり、最初の印象はSiouxsie and the Bansheeds の Siuoxsie Siouxそっくりの歌声で曲調も似たようなゴシックスタイルで、こんな風に受け継がれて行くんだなと考えていた。その後もアルバムがリリースされる度にチェックしたが、そのスタイルはどんどん深化し、孤独の漂い暗い影が覆い始める。タイトルもそのまま「HIKIKOMORI 」という曲が収録されていくことからも、何となく彼女の置かれている状況を推していた。

Zola Jesusとは

そもそも「Zola Jesus」の名称は Nicole Rose Hummel(1989年米国生まれ)のプロジェクト名で、その名前から推測されるようにロシア、スロベニア、ウクライナを祖先に持ち、それが少なからぬ影響を与えている。大学生のころから自宅で録音を始め2008年にシングルをリリースした翌年にフルアルバムをリリースする。

2014年に4枚目となる『Taiga(タイガ - シベリアの森の意)』をリリースした後、どうも長引く鬱病の発作があったらしく、そこから抜け出て2017年にリリースされたのが、この『OKOVI(スロベキア語で足かせの意)』になる。一聴して、これまでで最も素晴らしく、美しいアルバムであることが分かるのだが、なんだかただならぬ雰囲気を内包している。

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自身による『OKOVI』 楽曲解説

このアルバムのリリースに合わせて米国の公共放送のNPR.orgのサイトに掲載された楽曲ごとのインタビュー記事の抜粋しておく。アーティストがこれだけ詳細に個々の楽曲を説明するのは珍しいが、このアルバムを理解する上ではキーになりそうだ。

Doma
ロシア語で『Home』の意味。自分のルーツであり属するところ。讃歌として書いたもので、東欧のフォークソングの旋律の影響を受けている。私にとっての帰るべき場所であるだけでなく、祖先へと繋がっている。

Exhumed
創作できない悲嘆から最初に書いた曲。昏睡状態からの最初の目覚め。いろんな感情が入り混じった混乱から、書き上げるまでに1年を要した。
(注:Exhumedは、死体を墓らか掘り出す、隠された真実を暴く、といった意)

Soak
ウイスコンシンに戻ってから連続殺人犯の物語を読み、その犠牲者だったらどう感じるのだろう、どんな感情をいだくのだろう、という試みからできた曲。人は負債を負って生まれ、それを肉体が終わるまでに返済しなくてはならない。でも私にはそれができそうにない。
(注: Soakは、液体に浸される、濡れた状態にある、といった意)

Ash to Bone
これは鬱のもやが立ち込めた状態についての曲。濃い霧に閉じ込められたような状態。叫びたいのに声が出ず、だれにも自分の声が聞こえないといった夢の中での無力感。
(注:Ash to Boneは、火葬された灰から骨の意)

Witness
とても身近な人が自殺未遂をしたとき、自分は森の中をさまよっている状態だったので連絡できず、大切であること伝えることができなくてパニックになっていた。なので替わりにこの曲を作った。この曲は簡単なようで難しく、一切の編集なしでありのままの状態。この曲の歌詞を最初に歌った時は苦しかった。
(注: Witnessは、目撃者の意)

Siphon
その人は数週間後に2度目の自殺未遂をする。この曲の歌詞についての説明することは難しい。気にしている人が身体的、精神的な苦痛に苛まれているのを見るのは悲劇。今になってもこの曲を聴きたり演奏するのはつらい。
(注: Siphoneは、吸い上げるの意)

Veka
最初アンビエンミュージックの実験として書かれたもの。雨の音から始まるが、これは雨の森を歩き回って集めたものが音のレイヤーになっている。この音から自然にメロディが浮かび、それが歌の旋律になっている。タイトルはロシアの詩人Anna Akhmatovaの詩、『この世紀は前の世紀よりも酷いのか』からとったもの。
(注: Vekaはロシア語でCenturies - 世紀の意)

Wiseblood
このアルバムで最も古い曲で数年前に書いたもの。自分自身への公開書簡のようなもの。無力感にさいなまれてたときに、強さというのは苦悶の抜けた先にあることに気がつき、暗闇に中に一筋の光が見えた。デスクではなく、ベッド上に機材を並べてレコーディングしたもの。
(注: Wisebloodは、賢人の血といったような意味)

NMO
NMOとは『Not My Own(自分のものではない)』のこと。音響的な実験作だったけど、なぜ『I'm not my own(私は自分のものではない)』と歌い始めまたかは自分でも分からない。このアルバムには息継ぎのような曲が必要だと思った。以前なら曲を詰め込むだけ詰め込んだけど。

Remains
この曲は怒りと失意の後のショック状態の中で書かれたもの。状態が以前よりも良くなったとしても、まだ毎日、自分の中の悪魔と戦っていた頃、レガシーという思考に混乱させられていた。なぜ私たちは置き去りににしたものに固執するのか? なぜ人生の目的が必要なように仕向けられるのか? 周りの多くの人たちが同じ疑問を抱えながら、人生で十分に成すことができないことを恐れながら死んでいく。
(注: Remainは、残り物、その場におかれたままのものの意味)

Half Life
思考が混乱していたときに小部屋の中で書いた曲。暗闇の中にあっても幸福感を見出す希望について。目を閉じれば真っ暗な闇だが、ずっとそうしていると最後に白いものに変わる。痛みが深ければ深いほど喜びに向かえる。その超越感が生きること。この曲は苦悶からのそうした超越感についてもの。
(注: Half Lifeとは、半分生きている状態というような意味だろうか?)

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全てが美しいアルバム

先に美しいアルバムと書いたが、旋律が美しい。霧に覆われた森のような重層的なボカリーズも美しいし、効果的に導入された弦楽四重奏も美しい。アルバムを通して聴いた後の余韻も美しい。それは計算された美ではなく、暗闇を通り抜けた白い光のようなものなのだろう。

僕にはこのレコードと同じような特別な場所にあるアルバムがあって、Robert Wyattの「Rock Bottom」、Joy Divsionの「Closer」、Syd Barettの「Madcap Laughs」のように傷ついた心だけが生み出せる音楽があるように思う。生きるのが困難なとき、それに寄り添う音楽があることは何ものにも代え難い。

○参考リンク

www.npr.org

Okovi

Okovi

  • アーティスト:Zola Jesus
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: CD


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