Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

LITTLE BIG BAND LIVE AT TUBBY’S / 75 DOLLAR BILL - 音楽が生まれる場所

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少し前に紹介したニューヨークのグループ、75 DOLLAR BILLのライブ盤『LITTLE BIG BAND LIVE AT TUBBY’S 』のアナログ2枚組が届いた。アナログで聴くとデジタルファイルとは随分印象が違って演奏が生々しい。

このユニットの紹介は前回の記事を参照していただくとして、このライブはニューヨーク、キングストンのTUBBY’sというライブもあるダイナー&バーで2020年3月7日に録音されたもの。これがCOVID-19パンデミック直前に行われれた最後のライブ。このライブの後の状況は知っての通りで、このアルバムの裏ジャケットにも記載があるが、ニューヨークにおいて急速に感染が進行してロックダウンが宣言されて日常生活は激変していく。

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このライブの参加したのは、中心となるパーカションのRick Brown, ギターのChe Chenの二人の他、ベースのSue Carner、サックスのChery Kingan、ギターのSteve Maing、ドラム、パーカッションのJim Pugliese、ビオラのKaren Waltuchの合計7名。

誰かが特別演奏が上手いというこはない。それでいながら、どの曲も、どの演奏もスポンティニアスで自由に沸き立つようなところあり、それが彼らの音楽をとても魅力的にしている。メロディが反復され、催眠的なようでありながらグルーブ感があり、その音楽の変化はとても有機的で、演奏者それぞれの個性が縦糸と横糸のように絡みあって織物のように広がっていく。

演奏は、Che Chenのギターリフが印象的な『BENI SAID』で始まる。メンバーの演奏がだんだんと温まってくるのがわかる。次の『I’M NOT TRYING TP WAKE UP』では、75 DOLLAR BILLらしい、グルーブ感が会場を包んでいく。LPだと片面を占める『LIKE LIKE LAUNDRY』は、Rick Brownのシンプルなりリズムのパーカッションを中心に、静かに少しづつアンサンブルが加わっていく。サックスとギターがリフを繰り返し、その背景でビオラのロングトーンが聞こえてくる様子は、Tony Conrad with Faust / Dream Syngicate を彷彿とさせるが、そうした冷たさはなく、もっと暖かく穏やかな幸福感に満ちている。それが、この75 DOLLAR BILLの音楽の本質にある。

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演奏後半は Che Chenが「僕らはカバーバンドではないのだけど」と説明しながら、フリージャズプレーヤーの Ornette Coleman の『FRIENDS & NEIGHBOURS 』でスタートする。この曲はOrnette Colemanがニューヨークの自分のロフトを開放して、いろんな人達と交流しながら行ったライブを収めたアルバムに含まれていて、コーラスというか掛け声が印象的な作品。ここでも、掛け声をメンバー全員で再現し、それがまたいい雰囲気を出している。

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最後の曲はこのアルバムのハイライトでもある20分におよぶ『WNZ#3/VERSO』。最初はChe Chenの中東風なギターにドローンのような音が交差して空間を満たすが、パーカッションとベースが入ると演奏が滑空を始めて舞い上がる。ここではAlbert AylerばりのChery KinganのサックスソロとKaren Waltuchのビオラソロがなんと言っても素晴らしい。『Sister Ray』がポジティブな音楽に生まれ変わったかのよう。ロックでもジャズでもなく、純粋な集団演奏の音楽の醍醐味。聴き手の僕らは、最初その音楽の外側にいたはずなのに、いつの間にかその演奏の一部となってしまう。

75 DOLLAR BILLの音楽の本質を捉えた素晴らしいライブアルバム。こういう音楽を聴くと、僕もまだ大丈夫という気分になれる

Live at Tubby's [Analog]

Live at Tubby's [Analog]

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