最近、各オーディオ専門誌で高い評価をされているアコースティックリバイブ社のターンテーブルシート『RTS-30』を同社の貸し出しサービスを利用して試してみた。その後購入を決めたが、試聴をしている中で色々と思うことがあった。
RTS-30 ターンテーブルシートとは
この製品は次のような特長を備えている。
- 金属製やガラス、フェルト、ゴムなど素材固有の癖をもたない
- 制振特性に優れたシリコン系制振材を採用して表面に幾何学的な溝を刻むことでモーター、スピーカーなどの振動を効果的に低減する
- 貴陽石、トルマリンなどの天然鉱石を特殊制振素材に浸させている
- これらの天然鉱石から強力なマイナスイオンを発生さて静電気の発生を防止する
- レコード盤へ表面活性化効果を発揮するので、S/N比が向上し、音像定位も向上する
厚さは5mm、重量は355g。実際に手にしてみると、しっかり厚みがあるが、柔らかくも硬くもなく、レコード盤をしっかりホールドしそうな印象。
これまでずっと、上の写真の重さ3キロの銅板シートを愛用していて、最近、47研究所の豚皮シートを加えて音に厚みが出てきてはいるが、銅板シートのように重量で制振するのではなく材質によるアプローチではどうなるだろう?
第一印象は、RTS-30は正確で率直、レコードの音がそのまま出てくる
先ずは銅板シートを外してこのターンテーブルシートを直にセットしてみる。レコードをのせると幾何学模様の突起部分でしっかりとホールドされてスリップするような遊びは全くない。
ターンテーブルをスタートして針を落としてみる。リードインのところでアンプのボリュームを上げるといつもよりずっと静かなことに気がつく。いつもならわずかにブーンという振動音のような聞こえていたが、それが止まっているし、針音も小さい。プレーヤーのモーターの振動を上手く抑え込んでいるのだろう。
音楽が始まると、最初はずいぶんと大人しい感じがする。ただ情報量は増加していて、演奏の細部までしっかりとピントが合っていてクリアで見通しがよい。いつもよりボリュームを上げてみてもうるさい感じにならず、躍動感が加味される。
これまでの銅板シートと豚皮の組み合わせでは、ロックだとギターのエッジが強く、演奏が前のめりにダイナミックになるところがあったが、そうした表現は希薄でハイファイ調で品の良い感じになる。ただ、オーディオ雑誌での高評価というのは、20万円以上のMCカートリッジ、100万円以上のターンテーブル、そしてレビュー用の優秀録音レコードの組み合わせでされているので、僕の環境とはかなり異なる。現実はどうなのか、カートリッジやレコードを変えながら聴いて行ってみよう。
V15 Type V-MR+カーボンシェルでECM、クラシックを聴く
うちのハイエンドといってもボロンカンチレバーにSAS針がついたV15 Type V-MR程度なのだが、これでECMレーベルの西ドイツ原盤をかけてみる。
ベーシスト、バール・フィリップスの『Mountainscape』。1976年リリースの硬派のエレクトリックジャズアルバム。オープニングのベースのボーイングの生音とピックアップされたエフェクト処理ミックスがクリアに分離しているし、その直後に始まるハイボルテージの集団演奏がだんごにならずにひとつひとつのパートが明確に聴こえる。これはすごい。制振効果が発揮されているのか、高域が非常にシャープで空間を割くようなシンセサイザーの音がソリッドで、この演奏の音楽表現が一層理解できた。
この高解像度の方向はクラシックにも有効で、国内盤ながらブーレーズ指揮のストラビンスキー『火の鳥』を聴いてみたが。冒頭のコントラバスの合奏の低音が厚みがある。弦楽器、管楽器の音の艶が違う。このターンテーブルシートは、パッと聴いた時は高域の滲みない伸びに耳が行くが、低域の量感や分離も改善される。余分な振動がカートリッジ に伝わない分、リアルなレコードの音が出ているのだろうし、カートリッジのサウンドキャラクターもそのまま表現されるのだろう。
レコードをいろいろかけていて、このRTS-30の場合どうやらSHUREのカートリッジの針先に付属するスタビライザーのブラシは使わない方がいいようだ。ブラシが下りているとレコードの帯電がシートに戻るようだ。レコードではなく、シートがパチパチするようになる。
あと、このRTS-30は、どうやらプレーヤーやカートリッジのコンディションがそのまま出てくるようなところがある。なのでプレーヤーの脚部のセッティングやアームの水平度、オーバーハング、トラッキングエラー調整などをしっかり行なっておく必要がある。針圧での音質の変化も分かりやすい。このあたりが使いこなしのポイントになりそう。
さて、V15 Type V-MRで優秀録音盤が良いのはよくわかった。普通のレコードはどうなんだろう?
SHURE V15 TypeIII 初期型+黒檀シェルでロック、ジャズを聴く
カートリッジ をV15 TypeIII初期型に変えて、アステカ(Azteca)の『Pyramid of The Moon』(1973年)を聴く。アステカはサンタナに近いグループでホーンセクション、ボーカル3名を含む総勢16名の大所帯。このアルバムはフュージョンぽいスペーシーなサウンドで、多数のパーカッションのリズムの綴れ織りとハピネスでポジティブな表現が聴きどころ。
クリアで多数のパーカッションの違いやニュアンスがわかるし、ホーンセクションのアンサンブルも見事。紅一点、ウエンディ・ハースのちょっとハスキーな声が生々しい。こうした分解能の高さを求めたオーディオの場合、分離が良いがアンサンブルがバラバラに聴こえたり、音楽のノリが悪くなったりするが、そうしたデメリットはあまり感じない。V15 TypeIIIのキャラクタも効いているのかもしれない。音楽的な雰囲気は充分。
何枚かレコード聴いて気がついたが、このターンテーブルシートは聴き始めよりも、A面中程まで進んだ10分ほど経過したときのほうがさらに音が良い。解像度は変わらないがエネルギー感が増す。「レコード盤へ表面活性化効果を発揮する」というのがこなのだろうか?
次に、チック・コリア、ミロスラフ・ヴィトス、ロイ・ヘインズによる『TRIO』(1982年)をかけてみる(またしてもECM)。このアルバムは、1枚がインプロビゼーション、もう1枚がセロニアス・モンクの曲のカバーという面白い組み合わせ。インプロビゼーションといってもランダムにハードなものではなく、ある種のテーマに沿っていて、3人の演奏の対話が有機的につながっていく好演奏。
このターンテーブルシート、なんだか何を聴いてもいい感じに思えるのは洗脳されてきたのか? 3名だけの演奏だが、以前よりもサウンドステージが広がりを感じさせる。それに確かに音の定位も向上している。オーディオ的な快感度が上がってきた。
雰囲気を変えてグランド・ファンク・レイルロードの『Closer to Home』(1970年)。グランド・ファンクは上半身裸で演奏するワイルドで派手なアメリカンハードロックバンドとして70年代を風靡したものの、そのマッチョな裸キャラが災したのか今では評価が低すぎるように思う。
基本的にはベースが曲をドライブしていくオーソドックスなブルースロックバンドで楽曲のセンスもよく、後半はオルガンロック的な要素も加わってくる。同時代なので子供のころもファンだったが、今でも聴く。このサードアルバムは、ハードサウンド一辺倒からバラード、ストリングスの導入などサウンドの幅を広げている。
今までの銅板シートと比べると音のバリが取れているというか、よりナチュラルに聴こえる。やはり銅板シートの素材固有の音がのっていたのだろうか。解像度も高くナチュラルで、低音の量感も十分なのだが、ロック、特にブルージーなロックを聴くと、なんだかもう一つ物足りない。真面目過ぎてセクシーでないというか、そんな印象。
試しに47研究所の豚皮シートを上に重ねて聴いてみると、確かに音の肉付きは良くなるのだが、シャープで正確な表現は後退するので悩ましい。やはりこのターンテーブルシートは単独で使用するのがよさそうだ。
SHURE M44G 黒檀ウッドケース+黒檀シェルの大胆な表現
それならと、黒檀ウッドケースに変装したSHURE M44Gにカートリッジを付け替える。レコードをかけるとM44Gの個性が大爆発。古い日本盤のTHE WHOの『Who’s Next』がダイナミックなこと。ベースラインもブンブンしてライブ感がある。それにボーカルもいい。ロックが、本当にロックらしく鳴る。歪み感がなくなり全体の解像度が上がっているので英語の歌詞の聞き取りがしやすい。M44Gってこんなに解像度があるカートリッジだったかのと思うほど。これはハマリそう。
RTS-30は優等生的な方向にまとめるシートかと思ったが、どうもシート自体はニュートラルでカートリッジや針圧を変えることで、リスナーが求める音の方向性を実現しやすいようだ。
雰囲気を変えてジョン・コルトレーンの『Ballads』をターンテーブルにのせる。何かを悟ったかのような兆しを感じる1962年の録音。ジャケットがボロボロの日本盤をバーゲンで買ったものだが、このM44Gの環境で聴くとノイズも気にならず、このアルバムが単に甘いバラード集ではないことを、よく伝えてくれる。
その演奏に耳を傾けているとアルバム1枚があっという間。
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僕にとっては、Hi-Fiって音が良いことは確かに大事なんだが、その音楽の核心に近づけたかように思える瞬間があることがもっと大切だっりする。
このRTS-30がすごいのは、新素材の組み合わせで不要な振動を抑制したり、静電気を防止したり、盤を活性化したりといった機能的なこともあるが、レコードで音楽を聴くという体験を、次のステージへと昇華する基盤を提供したということにあるのだろう。それも最新プレーヤーである必要はなく、30年以上使っているプレーヤーでもこれだけ効果が得られる。
なので、カートリッジを変えながら、あれこれともう一度聴いてみたいレコードのリストが次々と頭の中に浮かんでくる。まだ当分、飽きることなく家に籠ることができるかも。

アコースティックリバイブ Acoustic Revive ターンテーブルシート RTS-30
- メディア: エレクトロニクス