Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Double Negative / Low - ノイズの向こうから聴こえる聖歌

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以前から気になっていたLowの2018年のアルバム『Double Negative』のアナログ盤がまだ残っているのを見つけたので購入。当然のことなのだけど、AppleMusicで聴いているときとは音楽の深度や強度が大きく違う。やはりこうした音楽はできればアナログ盤で、無理ならCDでしっかりと聴きたい。

ただ最近、アナログだけでなくCDでも発売された時にチェックして購入しておかないとあっという間にモノがなくなってしまうが残念。CDも売れないのでプレス枚数が少ないのだろう。以前なら数年経っても購入できたりしたが、もうそんなことを期待する時代ではなくなってしまったようだ。

静かな湖のようなLowの音楽

Lowは1993年結成の米国ミネポリス出身のグループ。 ギター&ボーカルのAlan Sparhawkとドラム&ボーカルのMimi Parkerの夫婦にベースを加えたトリオ編成。Lowの音楽は「Low-Fi」とか「Slow Core」と言われるように、基本的に静かで、スローなゆったりしたリズムを特徴としてしる。ただそれはレイドバックしたフォーキーなものではなく、集中度や強度の高い音楽で、風に吹かれている静かな湖面をじっと見るようでありながら、その底から湧き上がってくるものがある。

僕がLowの音楽に惹かれるのは、その純粋性。デビューアルバムから一貫して、彼らの音楽はスローで極限のシンプリシティを装っていながら、その音楽に近づいていくと、それはAgnes Martinの絵画のように遠くからはシンプルに見えるが、非常に多くの困難な手作業の積み重ねで作られたことがわかるのに似ている。安易に喝采を求めないプラトン的で禁欲的なところがあり、求道的な純正性をまとっている。

Double Negative - 二重否定 - 何を?

この『Double Negative (二重否定)』とタイトルされたアルバムは、 彼らにとって12枚目となる。コンスタントにアルバムをリリースするクリエティビティは結成から28年を経ても衰えることがない。

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このアルバムでは、これまでも楽曲によって実験的に行われてた楽曲の解体と再構築が一段と進んでいる。オープニングナンバーの『QUORUM(定足数)』はいきなり何かを引きずるようなノイズから始まり、その中から逆回転のような歌声が断片的に聞こえてくる。続く『DANCING AND BLOOD』では、鼓動のようなビートの上で深いリバーブがかかったMimiの透明な声がこだまする。このアルバムではエフェクト処理された彼女の歌声は特別。

アルバム全体を覆うのは、そうした「彼方からの音楽」。それはアンビエントと言えるような軽々しいものではなく、どこか思い詰めたような、やり場のない感情がはち切れたその隙間から染み出してくるような、救済を求めているかのような、あるいはそれに応える慈愛のようにも聴こえる。

音楽として存在するのがぎりぎりの状態。だから、それが何かを確かめるために何度も針を落としてしまう。

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ミックスとマスタリングは前作に続き、BJ Burtonが参画している。

この『Double Negative』のライブ映像も素晴らしい。

DOUBLE NEGATIVE

DOUBLE NEGATIVE

  • アーティスト:LOW
  • OCTAVE/SUB POP
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