Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Arte Concert - 様々な音楽が、様々なアーティストから生まれくることを目撃する

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普段はあまりYouTubeを見ないのだけど、偶然この「arte concert」 というライブシリーズを見て、どれも刺激的で啓発されるものがあった。調べてみると、arte.tv というEUのファンディングを受けている組織の文化事業のようで、アートやフィルムの他、オペラやオーケストラのクラシックからジャズ、フリージャズ、パンク、ポストロック、ヘヴィメタルまであらゆる音楽ジャンルをカバーしている。

その中で幾つか、特に強く印象に残ったものを。

Kim Gordenのソロ - 実験精神とメッセージは健在

Sonic Youthの創設メンバーでギターのThurston Mooreと離婚後ソロに転向。僕より少し年上で66歳。ロックをロックとしないアバンギャルドで野心的なエクスペリメンタルスピリットと一度聴いたら忘れない物憂げでハスキーな声は健在。それにバックの若手の演奏が素晴らしい。特にギターの彼女のエッジーでノイジーな演奏に耳をわしづかみにされる。

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Black Country, New Road - フリーなようで音楽的に充実

2018年にデビューした英国の若手グループ。ジャンル的にはエクスペリメンタルロックとかポストロックとかになるのだろうが、その枠に収まらない魅力がある。サックスやバイオリンも入っていて、フリージャズ的なアンサンブルも聴かせるが、全てがフリーではなくて、キッチリと計算されている。特にドラムが繰り出す変則的なリズムが楽曲の要になっている。

ボーカルは歌というよりもトーキングスタイルだが個性的。何かに似ていると思ったら、声や歌い方がジョナサン・リッチマンにすごく似ている。偶然だろうが。アルバムも聴いてみたが、このライブの方がダイナミックでいい。今後の注目株。

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MAGMA - M.D.K - 絶えず自らを革新する普遍性

MAGMAは結成50周年を超えた古参のフレンチ・プログレグループ。自らを惑星コバイヤから来た、滅びに向かう地球を救済する者たちと定義している。なので歌われる歌詞も全て独自のコバイヤ語で書かれている。音楽的、思想的リーダーでドラムのクリスチャン・バンデールはジャズと軍楽隊のマーチのような音楽からの影響があるようで非常に重いリズムを持ち、ボーカルは男女混成6名で、高揚感のあるコーラスを聴かせる。

長いキャリアの中ではマンネリ化した時期もあったが、このビデオで久しぶりに見て、新しいメンバーを加えてフレッシュなパフォーマンスを堪能できた。MDK(Mekanïk Destruktïẁ Kommandöh - Mechanic Destruction Commander の意味?)は1973年にリリースされた彼らの代表的な作品。単に昔の作品をなぞるのではなく、今の時代にそれを問う、re:inventされた演奏が聴ける。それに、歳を重ねたメンバーが皆んな、振る舞いも来ているものもオシャレなのは、フランス人だからだろうか? 自分もこうありたい ;-)

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Brad Mehldau - ポスト・キースジャレットのピアニスト

キース・ジャレットが脳梗塞の後遺症で引退してしまった今、そのポジションを埋めることができるのが、この1970年生まれの米国人ピアニスト、Brad Mehldauではないか思っている。その彼のソロピアノのパフォーマンス。この人も所謂ジャズ的な枠の中だけに止まらず、Steve Reichなどのミニマリズムを取り上げたり、かなり前衛的な演奏も聴かせたりするが、その中を自由に行き来するバランス感覚に優れている。

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Sleaford Mods - モノドラマを見ているかのよう

ボーカルのJason WilliamsonとラップトップPCのプログラミングのAndrew Fearnの二人組。この種のボーカルとリズムやシンセの二人組ユニットは、ニューヨークパンク期のSuicide、ジャーマンニューウェーブのD.A.F.など過去にもあって、それぞれユニークな存在だが、Sleaford Mods の二人も個性的。Jasonの真剣なボーカルパフォーマンスのバックでAndrewはただただ曲のスタートでラップトップのキーを押して、後はブラブラら踊ってビールを飲んでいるだけのラフな印象があるが、よく耳をすませればそれが計算されたものであることがわかる。バックビートにあれだけの歌詞がピタッと音楽にはまるには、二人でかなりトレーニングやリハーサルを入念にしているだろう。

Jasonのボーカルスタイルはラップではなく、むしろポエトリーリーディングやモノローグの一人芝居に近い。ワーキングクラスのアクセントが強く、スラングも多いので歌詞の意味は半分も理解できないが、その姿にシェークスピアからの英国の演劇の伝統を感じる。歌詞と音楽がその場で実体化していくパワーがある。

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(*この映像は埋め込みが禁止されているのでYouTubeのサイトで再生ください。)

Ostgut Ton aus der Halle am Berghain - Halle - ARTE Concert

ベルリンのエレクトロニカレーベル「Ostgut Ton」に所属する以下のアンビエント、エクスペリメント アーティスト/DJによる4時間に及ぶパフォーマンス。

  • Phillip Sollmann x Oren Ambarchi x Konrad Sprenger
  • Luke Slater x KMRU x Speedy J
  • Barker x Baumecker
  • Jessica Ekomane x Zoë Mc Pherson
  • Tobias. x Max Loderbauer
  • Terence Fixmer x Phase Fatale

無人の古い廃墟ようなビルで収録されており、空間アンビエンスがその音楽に豊かな響きを加えている。

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久しぶりにライブの映像をまとめて見た。ミュージシャンだけでなく、映像も演出もアーティスティックでクリエイティブでいい。音楽はそうやって発展して継承されていくのだろう。


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