はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選」という企画で書いてみる。僕は子供のころから暗い音楽、普通でない一風変わった音楽が好きだった。そういった音楽を聴くと安らぎ、その場所に安心していることができる。そして、そうした音楽を聴くといつも考える - 『この音楽はどこからやってきたのだろう?』- それは自分が求めているから、そうした音楽に出会うのだとわかるまでに、それほど時間はかからなかった。
パンデミック禍の2度目の冬になり、その長く暗い夜を過ごすための10の音楽を選んでみた。
(1)Emma Ruth Rundle - Return
Emma Ruth Rundle(1983 -)オレゴン州ポートランド在住。前作2枚はストーナーぽいハードなバンドサウンドだったが本作はピアノとギターのみ。痛々しいほどの誠実な声で歌う。
このひどい世界を作ったあなた
あなたをなんとかしてくれる人はいない
全ては時間の中で失われ
いったいどこへ行ってしまったの?
私に返して
もう一度戻ってきて
私に返して
もう一度戻ってきて、ねえ
(2)Chelsea Wolfe - 16 Psyche
Chelsea Wolfe(1983-)は、今ではアメリカン・ゴシック・ロックの重要な存在。両親がカントリー音楽のミュージシャンだったこともあり、アメリカの伝統的フォークソングにも造詣が深い。この「16 Psyche」はひとつ前のアルバム『Spun』に収録されていた曲。
16の精霊が
昏睡から静かに揺さぶる
ずっと全てを知っている
「私にはできない」と彼女は言う
「助けてあげたけど、私にはできない」
(3)Chelsea Wolfe & Emma Ruth Rundle "Anhedonia"
Chelsea WolfeとEmma Ruth Rundleの二人が自殺防止キャンペーンのプロジェクトのために歌った曲。「Anhedonia」は「無快感症」のこと。
私はあなたを静かに見守るもの
私はあなたの境界線
私はあなたを守り大切にする
だからあなたの心を私の近くへ
(4)Anna Calvi - Ghost Rider
Anna Calvi(1980-)は、英国ロッカーでギタリスト。SuicideのボーカルAlan Vegaが亡くなった年のツアーでのトリビュートカバー。その場の空間を切り裂くスライドギタープレイが圧巻。この「Ghost Rider 」が本質的に持っている危うさ、ダークネスを見事にとらえている。
(5)Brendan Perry - Berimbau
Brendan Perry (1959-)はオーストラリア出身だが英国4ADレーベルでデビューしたゴシックグループ「Dead Can Dance」の創設メンバー。これはソロでの2019年のライブ映像。曲はボサノバのスダンダードナンバーの『Berimbau』。彼が歌うと別の音楽に聞こえる。
(6) Nordic Giants - 'Through A Lens Darkly' - ‘The Last Breath'
Nordic Giants は二人組の英国のポストロックユニット。メンバーは匿名でライブではバイキングスタイルの衣裳に身を包み、スクリーンに映像を投影するマルチメディアショーを展開する。これは彼らのDVDに収められていたもので、‘The Last Breath(最後の呼吸)’ という10分程度のショートフィルムに演奏を加えたもの。なんでもない日常が変わってしまうと、人はいかに残酷で恐ろしい存在かが炙り出される。
(7)Alexis Marshall - Open Mouth
Alexis Marshall は米国インダストリアルロックバング「Daughters」のリードボーカル。すごくアメリカ的な暴力を含んだ狂気を感じさせる。
いったいいつ生きるのか
「なんて世界だ!」を奴らは言う
この世界でいつ生きるのか?
この世で、次でなく
奴らは何も考えちゃいない
寝てる時に夢もみない
走っていく先に歩いてもいかない
(8)Scott Walker + Sunn O))) - Brando - Film by Gisèle Vienne
Scott Walker(1943-2019)は米国人なのに1964年に英国で3人組の「Walker Brothers」でデビューして「ダンス天国」のヒットでアイドルとななる。もちろんScott Walkerは芸名で、Walker兄弟は作り話。後にソロに転向してから実験的な方向に進み、60歳を超えからドローンメタルバンドのSunn O)))と共演するなどさらに音楽的に先鋭化し、不安、死、病、性をテーマにしたアルバムをリリースした。この曲はSunn O)))との共演。曲をベースにしたショートフィルム。
(9)AMENRA • A Solitary Reign
Amenraはベルギーのポストロック、ポストメタルグループ。リーダーでボーカルのColin H. van Eeckhoutは、上半身にピンのようなものを刺して流血しながら観客に背を向けてステージ奥のスクリーンに向かって絶叫する。イタリア南部やスペインでキリストに扮した男が十字架を背負い、荊の冠を被り全身を鞭打たれて血を流しながら通りを練り歩く儀式のように苦悶を追体験し、自己犠牲による救済を目指しているのだろうか。
私はお前から切り離され
私はお前の古い傷
古い傷
我が母よ
今晩は子守唄を歌ってほしい
ずっと愛していた
あの孤独な場所へと
(10)Donovan - I Am The Shaman
Donovan(1946-)は、英国のフォークシンガー。1960年代のヒッピー、フラワームーブメントの中で甘い声で「Sunshine Superman」「Mellow Yellow」「Hardy Gurdy Man」などを歌うメルヘンの貴公子だった。その彼も今は75歳。そして今年、デビッド・リンチのプロデュースで映像をリリース。なんとタイトルは「 I Am the Shaman」。
偉大な星々は巡り
星々に思いをはせると
私に魔法をかける
そこにどうやって行けるかはわからないが
どこへ行くのかは知っている
全て私が知ること
私が知る全てのこと
お前の可愛い目を乾かしてくれるのは誰?
飛ぶんだ、ローラレイ
星の輝く空を
私はシャーマン
私はシャーマン
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長く暗い夜に音楽に耳を傾ける。耳からちょっと飛び出たアンテナがメッセージをつかまえる。そして感じること。音楽を聴く前と後で自分が変わったことを。暗い場所で聴く音楽は心地よい。でも、いつまでもそこに止まっていてはいけない。夜が明けてしまう前に立ち去らないと、その場所ごと消えてしまうから。
Title Photo by Sharon McCutcheon on Unsplash