Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

2021年に手にしたアナログレコードから - 音楽は言葉では説明できないものを運ぶことができる器

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去年も2020年によく聴いたアルバムの記事を書こうとしたのだけど時間切れでボツにしてしまったので、今年こそ2021年版を書いてみる。間に合うかな?

今年もアナログレコードを中心に新譜も中古も100枚近く買ったのではないかと思う。昔と買い方が変わってきていて、ストリーミングで事前に聴けるものが多いので、アルバムカバーだけを見て、「なんだろう?」と買うことはほとんどなくなった。自分のポートフォリオの一部というか、「手元に置いて繰り返し聴きたくなるものかどうか?」が選択の基準になってきている。つまり、極端な冒険をしなくなってきているわけで、その意味では買い方が老いてきているのかもしれない。まあ、そんな中からの10枚。

10:London Grammar / Californian Soil

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2021年の新譜。ブログに書いているようなアバンギャルドばかりでなく、こうした普通の音楽(?)も聴いている。London Grammarはデビューからこの3枚目までずっとレコードで買っていて、多分、彼女のホワイトソウルっぽいところのある歌声と、控え目で点描的なバックの演奏のバランスがいい。クラブっぽいところはゼロで、彼らの育ちの良さがそのまま音楽に出ている。21世紀のカーペンターズ的な存在で、その意味では今日では絶滅危惧種の音楽なのかもしれない。


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9:Gang of Four / HARD

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1983年にリリースされたGang of Fourの最後のアルバム(後に再結成)。このアルバムはファンにも評論家にも酷く評判が悪い。前作でドラムが抜けたためにドラムはプログラミング。ゲストに女性ボーカルが加わり「ディスコミュージック」的な展開だが、僕はこのアルバムが当時から凄く好きでカセットや2in1の廉価CDで聴いていたが、やっと英国オリジナル盤を入手。人気がないだけに安かった。Gang of Fourのエッジーな部分のみを期待するファンには「なんだこりゃ」だったかもしれないが、彼らには元々ファンクっぽい要素もあったし、テクニカルな女性ベーシストが加入したことで、一気に進んだのだろう。Andrew Gillのギターは相変わらずアグレッシブだし、歌詞も冴えている。メロディラインもキャッチーでこのアルバムがヒットしなかったのが不思議なくらい。


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8:Willam Parker / Mayan Space Station

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2021年の新譜。「ジャズロック」というジャンルはお気軽な「フュージョン」とは違って立ち位置が難しく、ジャズファンからはロック過ぎると敬遠され、ロックファンからはジャズ過ぎると敬遠されて、なかなか商業的に成功しない。本作のリーダーのWilliam Parker(1952-)は、Cecil Taylorとも長年共演したフリージャズベーシスト。ギターのAva Mendoza(1983-)は、アバンギャルドロックからフリーまでをフィールドにしている。キャリアあるリズムセクションに支えれた彼女の才気溢れ、羽ばたくギターがこのアルバムをユニークな存在にしている。今年のベスト ジャズロック アルバム。

7:Mary Halvorson Quintet / Bending Bridges

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Mary Halvorson(1980-)は、マサチューセッツ出身の米国フリージャズギタリストで、ここ10 年ほど注目している。ソロの他、五重奏団、八重奏団、といったアンサンブルでの作品も多く、しっかりスコアとして書かれている部分とフリー部分に分かれた作品が彼女の持ち味のように思う。本作は2010年の五重奏団での作品が2012年にアナログ2枚組としてリリースされたもの。聴き始めはスローでオーソドックスなジャズのようでありながら、それが変容していくさまを体験することになる。

6:Sunn 0))) / Pyroclasts

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2021年の作品。今年後半は『Sunn 0)))』と『Scott Walker』の再発見が大きかった。本作は『Life Metal』と合わせてリリースされたもので、タイトルは火山の噴石のこと。『Life Metal』が「作曲されたもの」であるのに対して、本作はそのレコーディングの各日にメンバーのウォームアップとして行われた即興演奏から構成されている。4曲が収められており、似ているようでそれぞれが個性的。僕はSunnの音楽から、じっと注意深く聴くことがいかに大切かを改めて学んだ気がする。

5: Scott Walker / Climate of Hunter

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そしてScott Walker(1943-2019)。ポップアイドルからアバンギャルドミュージシャンへと深化していく男。米国人でありながらヨーロッパの幻視者。本作はバージンレーベルと契約した1984年、41歳のときのアルバム。一応、スタイリッシュなモダンなポップアルバムの体裁を装っているけど、ゲストのサックスは英フリージャズの重鎮Evan Parkerだったりする。歌詞は暗い。当然商業的に成功せず、次のBrian Enoとの共同制作も頓挫してバージンとの契約を切られる。僕が購入したのは180g重量盤の再発もの。次の作品は11年後に4ADレーベルから姿を表す。


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4:Dino Valente / DINO

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Dino Valente(1937-1994) は、60年代の重要バンドのひとつ『Quicksilver Messenger Service』の創設メンバーでリードボーカル。グループがデビューする直前にマリファナの不法所持で服役となり出所後の1968年にEpicレーベルに残したのがこの唯一のソロ『DINO』。ほとんどが彼の弾く12弦ギターとボーカルで僅かにバックがつくのみ。世間的にはアシッドフォークの名盤とされ、オリジナル盤には2万円以上の値段が付く。これは偶然に傷が多めで廉価なオリジナル盤を見つけたので購入。多少プチプチ音がするが、年代を考えたらそんなものだし、いかにも聴き込まれた盤の雰囲気がする。Dino Valenteはなんといっても歌声がよい。この人が歌い始めると、ぱっとその世界が目の前に現れる稀有なボーカリスト。


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3: Alice Cortlane / Kirtan: Turiya Sings

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2021年リリース。詳細は以前の記事を参照。『DINO』がギターと歌だけが基本なら本作はオルガンと歌だけ。正確には元音源にはストリングスなどのオーケストレーションとバンドの演奏があったが、それらを全てカットしてAlice Cortlaneのオルガンと歌だけを残したアルバム。音楽の起源は宗教と密接な関係があることを改めて感じる。

2:Alan Vega / After Dark

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今年、意外なリリースだったのはこのアルバム。元SuicideのAlan Vega(1948-2016)が2015年に行った最後のライブセッションの録音。経緯はライナーノーツに詳しく書かれているが、晩年はエレクトロニック系のコラボレーションが多く、送られたきた音源に彼がボーカルを重ねて録音するだけで、彼としてはもっとリアルなバンドでのレコーディングを希望していた。それで一度限りのセッションがニューヨークで組まれたが、Alan Vegaからのリクエストは事前に何も決めないこと。バンド側はある程度のリフは決めていたのだろうが、レコーディングではバンドの演奏を聴きながらAlan Vegaが即興で歌っていき、それを受けてバンドの演奏も変化するというスポンティアスなもの。40分弱の短いアルバムだが、その場に居合わせているような緊張感がある。ロックンロールの危うさ。

1:LOW / HEY WHAT

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僕にとっての2021年のベストアルバム。何度聴いても圧倒される音楽。詳しくは記事にも書いたけど、優れたアーティストは時代を映しだす。もっと言えば、そこに映っているのは今だけではない。音楽が言葉では説明できないものを運ぶことができる器なのであれば、その最も美しい器がこのアルバムではないかと思っている。

2022年の12月にはどんなアルバムについて書くことになるんだろう?

更新:2021/12/27 - 参考に聴けるものは埋め込みを追加

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