Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Camembert Electrique / Gong - 自由であれと伝えるヒッピーの伝道師

Gongは不思議なグループで、1960年代末に初期にSoftMachineがフランスで演奏した後で帰国の段になったら、メンバーのDaevid Allenがドラッグかビザの問題で英国に入国ができなくなってフランスに止まったことには始まっている。元々Daevid Allenはメンバーの中では年長で、真のヒッピー精神、コミューン的なイデオロジーを具現化したような人物で、ちょっとシャーマンっぽいところもある。

この「Gong」というグループ名や設定も、惑星Gongからティーポットの宇宙船で地球にやってきた「見えない電波の妖精」が愛と平和とセックスを伝導することになっている。グループとしては1970年に『Magick Brother』を発表した後、1971年にGongとしてメンバーが集まって制作されたのが、この『Camembert Electrique』。アルバムの冒頭と最後には「見えない電波の妖精」からのメッセージのようなラジオ電波の声も入っている。

当時、僕がこのアルバムを手に取ったきっかけは、そのカバーイラスト。稚拙なイラストなんだけど人懐っこい雰囲気があり、楽しいことが詰まっていそう。ジャケットを裏を返せば、どこかのコミューンのヒッピー然としたメンバーが並び(後で知ったが写っている少年はRobert Wyattの息子)、その思い思いの服も勝手気ままなもの。

レコードを買って帰って、聴いてみると、まずは電波の妖精のラジオかトランシーバーのような不思議な音声に続いて「You Can't Kill Me (俺は殺せない)」が始まる。今聴き直してみても、演奏は粗野なところがあってプログレというよりはパンクに近いパワーがある。なんと言うかメンバーが自由に音楽を演っていることに惹かれたのを覚えている。アレンのパートナーの Shakti Yoni(Gilli Smyth)のエコーがビンビンにかかったウスイパーボイスも、彼らの自由な音楽に羽ばたく翼をあたえている。

このアルバムは、何度も聴きたくなる不思議なところがあって、そのうち、学校に向かいながら「ダイナマイト…ダイナマイト…ダイナマイト…」と口ずさんでいる自分に気がつく。学校や家庭と上手く折り合えないティーンエイジャーにとっては音楽だけが友達だったりする。そこから学んだことは、

BE YOURSELF
LIVE LIFE AS YOU ARE

ということ。ただ、あの頃も今も、それをカッコよくやることはできないけど。

さて、Gongは、このアルバムの後バージンレーベルと契約し、ギターのSteve Hillage、シンセサイザーにTim Blake、サックスにDidier Maherbeなど、テクニカルな演奏能力が高いメンバーが加わって、『Flying Teapot 』『Angels Egg』『You』の3部作に突入し、ジャズロックの要素が強い洗練されたスペースロックサウンドを演奏する方向に向かって行く。それはそれで洗練されていて素晴らしいのだが、最初の混沌としたヒッピー・シャーマニズム感はだんだんと希薄になった気もする。

商業的に大きく成功していく過程でバンド内でもストレスがあったのだろう、Daevid AllenとGilli Symthは抜けて、パンクロックが始まる1977年にスペインでHere and Now というグループをバックに、『Gong - Here and Now / Floating Anarchy』でカムバックする。そこに『Camembert Electrique』を思い起こさせる自由な音楽が甦っていた。

Here and Now – 今、ここで。

僕と同じようにこのアルバムにイカれてしまったのだろう。2018年にアルバム全曲を演奏するトリビュートライブが英国ブリストルであったようだ。ちょっと嬉しい。

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