Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Roger Waters / This is Not a Drill - これが訓練でないとしたら、いったい何なのか?

元Pink Floydのロジャー・ウォーターズ(Roger Waters )の4年ぶりのツアーが始まった。今回のタイトルは『This is Not a Drill(これは訓練ではない)』。前回の『US+THEM』ツアーでは、当時のトランプ大統領を激しく攻撃するのがメインテーマだった。トランプというキャラクターがはっきりしていたので、アニメーションにし易かっただろうし、『Pig』での演出は、政治風刺とエンターテイメントのミックスの真骨頂だった。

政治的にラジカルなだけに、彼への批判もそれなりに多い。そうした批判は今回のツアーの冒頭で明確に一方的に否定される。ショーの前に彼自身のナレーションが宣言する。

『もし君が、ピンクフロイドの音楽は好きだが、ロジャー・ウォーターズの政治的スタンスにはうんざりする、と言うなら、さっさと会場を出てバーで飲んでろ!』

僕には、彼の政治的な主張に同意できる部分と同意できない部分がある。それはそれとして、彼のツアーは大規模なスクリーンの導入、完成度の高いアニメーションやビデオなどなど、クリエイティブとして規模においても内容においても圧倒するものがある。

今回のスタジアムツアーでは、フロア中央に十字型のステージを設置し、さらに十字型に配置された巨大なスクリーンに映像が投影される。客席のどの位置からでも圧巻のスケールのショーが楽しめるわけだ。

YouTubeには客席で撮影されたいくつかのショーの(ほぼ完全版)映像が上がっていて、それを見た印象では、前回の『US+THEM』よりはややリラックスしたものになっているというか、先に触れたアナウンスが示しているように「ロジャー・ウォーターズと彼のサポーター」だけのためのライブショーと化している。内容が悪いわけではないが、前回のツアーの方が、より普遍的なメッセージがあったように思う。

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僕にはこのショーのオープニングの「Comfortably Numb」の演奏が一番強く心に残った。ステージが開くまでアカペラに近いような歌が、静かなバックの演奏でこの曲の本質を暴き出している。まさしく「Comfortably Numb - 無感覚で心地よく」という状態を。

残酷な戦争や銃撃の映像が毎日、毎日、繰り返される。戦争や紛争がこれだけ身近な存在となったことは、この50年以上なかっただろう。でも僕等は繰り返し見せつけられることで、それをテレビやスマートフォンの画面に映ったどこか遠い世界のように感じていないだろか? 「Comfortably Numb - 無感覚で心地よく」という状態で。

あの時の子供は大人になり
夢は終わってしまった
もうただ、無感覚で心地よくいるだけ

今年のショー全体の映像

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ロジャー・ウォーターズがこのツアーのテーマと政治的なスタンスについて議論する映像

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このインタビューでの彼のスタンスを補足すると、ロジャーは、「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」であるという立場で、それに比べたら「妥協による共存がはるかにマシである」ということ。なので、当時のゴルバチョフと約束したNATOの不拡大を守り、ウクライナを戦争ではなくロシアと妥協させて戦争を防止しなかったバイデン大統領を「戦争犯罪者」であると糾弾する。また台湾については、今の先進国は1948年に中国の一部あることを認めたわけで、それを覆して紛争にするべきではない、というスタンス。なので彼は、イタンビューワーに何度も歴史を読んで正しく理解しろと迫っている。


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