Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Pere Ubu - David Thomasの不思議音楽世界

bandcamp.comでDavid Thomasの特集があった。

daily.bandcamp.com

David Thomasは、1970年代後半、DEVOと同じ頃にクリーブランド州オハイオ出身のグループ『Pere Ubu』のリーダー、リードシンガーとしてシーンに登場する。バンド名の『Pere Ubu』は前衛的な古典劇「Ubu Roi」の由来と言われている。

当時はDEVOの方が衝撃的でEnoがプロデュースしたことでメディア受けもよく、今では考えられないが1979年の初来日は単独で日本武道館が満杯だった。僕もこのコンサートに出かけていて、キッチュでアメリカンコミック的なステージを堪能した。ただ、商業的に成功するにつれて、ワンパターンになり興味は遠のいていった。

Pere Ubuは、『Modern Dance』のアルバムでデビューするが商業的には成功しなかった。 ただ、音楽的にはフォーク、ジャズ、電子音楽、ロックンロール、ガレージロックが混然一体となったアメリカンアンダーグラウンドロックの傑作の1枚で、その後への影響は少なくない。インターネットもYouTubeもない時代に、初めてPere Ubuのライブビデオを見たときは、巨漢でよれよれのスーツを着たDavid Thomasがハンマーを振り回しながら歌う姿は尋常ではなく、全体の雰囲気はCaptain Beefheartに通じるものを感じた。

David Thomasのインタビューでよく覚えているは1990年代のイタリアでのもので、音楽についての説明を求められたときに、こんな風に答えている。

「僕らの音楽を前衛的だとか変わっているというのは間違っている。僕らのやっている音楽はまっとうな昔からのメインストリートの音楽にしか過ぎない。前衛的で変わっっているのは、マドンナやレディガガのやっている音楽で、あれは非主流派で前衛的だ。」

インタビュワーをからかった冗談のように聞こえるが、意外と彼の本心かもしれない。確かにDavid Thomas / Pere Ubuの音楽は変わったものに聞こえるが、それは表面的な部分で、本質は前記したように多様な音楽のルーツにつながっている。それがパッチワークのように構成されることで、強烈なオリジナリティを持ったPeru Ubuのワンダーランドを生み出している。

とは言っても、僕は全部のアルバムを買い揃えるほどのファナティックなファンではなく、でも気にはなる存在なので、ファースト以外はベスト盤やボックスセットで聴いている。Pere Ubuはライブが良くて、中でもこの『390 Degrees of Simulated Stereo』は、客席で録音したブートレグのようなローファイ感がいい。ボックスセットには完全版が入っているが、そのライナーノートでDavid Thomas自身も同じことを書いている。

あと、Red Creyolaのアルバムにゲストとして参加した時のパフォーマンスもよかった。彼の声は切なさとか絶望とか怒りとかの感情が同時含まれているようなところがある。

この『DATA PANIK IN THE YEAR ZERO』のCD5枚組のボックスセットは1975年から1982年までの初期のスタジオ、ライブ音源を集めたもので、単なるベスト盤を超えてPere Ubuの初期の多面性を体験することができるおすすめセット。今晩、久しぶりにまとめて聴いてみよう。

マイナーな存在だったPere Ubuも今ではストリーミングで主要なアルバムは聴けるようになった。そうした文化的公平性という意味では、ストリーミングカルチャーもいいのかもしれない。


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