Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHURE カートリッジ V15 Type3のウッドケース化 - ハイファイからロウファイ、音楽に豊かな響きを加える

これまでもSHURE M44GやM75EB Type2をシルバーハートの黒檀やローズウッドの材質でウッドケース化を行なってサウンドの変化を楽しんできたが、いよいよV15 Type3のウッドケース化をやってみた。今回はその話を。

カートリッジとウッドケースの関係

カートリッジはアナログレコードの音溝を針先でトレースして、それを微小な電気信号に変換する音の入り口で普通は本体部分は金属やプラスチックのモールドで覆われている。その外装を改造すれば、当然、ケースで受けた振動は変わってしまうので音に影響がでてくる。振動の影響を排除するピュア派ならケースを取り外してカートリッジメカニズムを裸(ネイキッド)の状態にする改造を行うこともあるし、最初からケースを持たない高級MCカートリッジも存在している。以前そうしたネイキッド型のMCカートリッジ を勧められたことがあり、確かに解像度の高いハイファイ調の音で凄いなぁと感心する点は多かったが、好みとは違う方向で止めてしまった。

今はレコードをSHUREのMMカートリッジばかりで聴いていて、あまり神経質でなく、高解像度に過ぎず、あるべき音楽のエッセンスを上手く聴かせてくれるMMカートリッジの良さをさらに活かす方法としてウッドケース化している。やっていることはプラスチックの外装を剥がして木製のケースに埋め込んで「改造品」を作ること。音も変わるし、元には戻せないし、誰にでも勧められることではない。でも、解像度やフラットなバランスよりも、音楽の鳴りや響きの良さを求めるなら良い方法だと思う。

「木まんま工房木こりさん」 でV15 Type3のウッドケース化

M44GやM75EB Type2の時は自分でウッドケースに付け替えたが、V15 Type3のウッドケース化はM44Gのウッドケースも制作している「木まんま工房木こりさん」にお願いすることに。このサイトにあるように取り付けからチェックを含めて作業をしてもらえる。

kimanmakoubou-kikori.com

僕の場合は、このサイトを見てフォームで問い合わせ後にメールでやりとりしてから代金を入金、針を外したカートリッジ本体のみを安全に梱包して宅配便で発送した。納期は2週間だったが、今回は予定より早く1週間程度でウッドケース化されて戻ってきた。

全体を覆う大きなウッドケース

手元には初期型のオリジナル針付きのV15 Type3と中期型の2種類があって、どちらをウッドケース化するかちょっと迷ったが、そこは音楽的な表現がよかった初期型をウッドケース化をしてもらった。ウッドケース化の前後はこんな感じになる。

材料は黒柿、屋久杉、ローズウッドから選択だったが、以前M75EBで使ったローズウッドが音楽に艶がのっていい雰囲気で、ジャンルを問わないところがあったので、今回もローズウッドを選択している。黒柿だと、低音が伸びて全体は締まった感じになるのではないかと思う。

この木こりさん製のウッドケースの特徴はサイズが大きくカートリッジ 本体をすっぽりと覆っていて、いかにも良い木の響きがしそうな感じが伝わってくること。カートリッジの重量に大きな変化はないが、本体の高さが高くなっているので、アームの高さやバランスウエイトも調整したり、改めて水平を取り直したりとアナログらしい手間をかけることになる。

期待を超える豊かな表現力

オリジナルの状態のV15 Type3は音調は明るめで高音のキレが良く、表現がシャープなところがあるカートリッジで、それがレコードによってはちょっとタイトになり過ぎるような印象をもたらすこともあったが、これだけ大きなローズウッドのケースに覆われたことで、響きが豊かになり音楽的な表現力は格段に向上した。クラッシックでもロックやジャズでもジャンルを問わずライブっぽく肉感的な再生音を聴かせてくれる。

意外とレコードごとの音質差にはシビアに反応して、ウッドケースの音色で押しきるようなところはない。録音やクオリティが高いものをさらに高い次元で聴かせるところがある。そこは元のカートリッジの正確性が残されているのだろう。M75EB+ローズウッドが、なんでもそこそこに鳴らしてしまうのとは対照的。

ウッドケース化に共通して中低域方向解の量感やダイナミクスは増してくるので、低域を強めるようなケーブルや電源タップを使用していると、過剰にかかぶるような印象になることがあるかもしれない。拙宅でもその傾向があったので、音が「濃い」電源タップはやめて、フィルタもメッキもないシンプルなオーディオタップやケーブルも太い6Nのケーブルから細身のMIL線を使ったクセのないものに変えている。これはMarantz #7など、古いビンテージアンプを使っていることも関係していると思う。

届いてから10日ほどずっと聴いていて感じるのは、V15 Type3のクオリティは活かしながら解像度や分解能が上がるよりも、音楽の背景が静かで歌を含めた楽器や演奏される旋律の遠近感がよく出てくること。冒頭でも書いたが、豊かな低域に支えられた音楽の鳴らし方が巧みで、うるさい感じがしないでのボリュームを上げたくなる。なのでよりライブ感が増してくる。

音楽的に難しいアルバムを再発見させてくれる

響きが良く、音楽のエレメントを整理するところがあるので、フリージャズや現代音楽のように混沌しているように感じるものを、その音楽構造をより分かりやすく、美的なものとして提示してくれる。

このアルバムでは、Albert Ayler、Don Cherry、John Tchicaiというフリージャズミュージシャンのコレクティブインプロビゼーションによる演奏を鮮やかに描き分け、演奏を眼前で見ているかのような臨場感がある。

King Crimsonというグループは僕の中ではどうも落ち着きのない場所にあるのだが、このアルバムはフリージャズメンであったJamie Muirの存在が異化効果を与えていて、ユニークなアルバムになっている。

冒頭のカリンバや鈴のような金属パーカッションが生み出す繊細でミステリアスな音世界は、それまでのCrimsonにはなかったものだし、アルバム全体は、バルトークの中期弦楽四重奏曲とマイルス・デイビス「Bitchies Brew」をミキサーにかけたようなもの。結構、音楽的にも音量的にも差が大きいアルバムで、普通にかけるとハッタリが強く傲慢に聴こえがちなところを、このカートリッジだと繊細でありながら重厚に聴かせてくれる。この時代のDavid Crossのバンドへの貢献はもっと高く評価されるべきだと思う。

これはDavid Bowieのラストアルバム。最後に組んだのがジャズミュージシャンだったというのが、彼の音楽の振幅の広さを物語っている。ラストアルバムにして『Low』を超えた象徴的な存在。

これを聴くと『Black Star』のタイトル通り、深く沈み込んだが音が流れてくる。ボーカルの声は限りなく切ない。レコードをかけているとか、オーディオで聴いているという感覚が希薄になり、David Bowieの音楽がそこにある、という気がしてくる。

あたらめて、なぜ木がよいのだろう? 時間の蓄積を聴いている

今回のローズウッドのケースに収まったV15 Type3は、山本音響工業の黒檀のシェルに取り付けている。アルミやカーボンよりもマッチする。なぜ木が使われれると音が人の耳に心地よく、説得力をもって響くのか? 物理的な測定をしたわけではないので想像になるが、特性がフラットではないことと、振動から余分なものを濾過するようなフィルタの働きをしているのではないだろうか? それが人が思う、音楽らしら、生々しさ、聴き手の感情に共振するのではないか?

木には1年や数年でなく、数十年、あるは100年以上の時を経てきた記憶と時間が蓄積されている。僕らが木を使うということは、そうした「時間の蓄積」に触れていることになる。かけているレコードだって、40年や50年の時間が蓄積している。自分を含めたそうした時間の蓄積が交差するところでの一瞬、一瞬の空気の振動が音楽を生み出していることに思いを馳せる。

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