Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Michael O'Shea - 1枚のアルバムを残して消えていったストリートミュージシャン

僕はこのMichael O'Shea(1947 - 1991)の存在を数年前に知ったのだが、ようやくアルバムのアナログ盤を手に入れたのでその話を。

このレコードに入っているのは自作のハンマーダルシマによる即興演奏で、決してキレイな音でもハイファイでもなく、むしろロウファイなのだが、それが逆に聴き手の想像力を膨らませる過激な抒情性を含んでいる。

ジャケットにはステッカーが貼ってあって、このアルバムをプロデュースしたポストパンクグループ「WIRE」のBruce GilbertとGraham Lewisのコメント曰く、「いつも言っていることだが、僕ら二人が成し遂げた最高の作品であり、彼は惑星直列の日にスタジオに予告なく現れた。彼が「No Journeys End」」の2度目のテイク(1回目は5分で中断)の録音が終わった時に、コントロールルームでは涙に濡れ、それ以前にもそれ以後にも、そうした風景をみることはない。僕らはMichael O'Sheaの音楽のマジックを捉えるという目的を達成したのだった。」

レコードに内袋の資料を読むと、Michael O'Sheaは16歳の時に家を出て様々な職業につきながら世界を放浪し、1970年代にはNGOのスタッフとして当時独立したばかりのバングラデシュで支援活動を行ったりもしている。おそらくそうした時期に中東の音楽や楽器に触れたことが後に影響を与えたのだろう。

彼の自作のハンマーダルシマには『Mo Cora(僕の友達)』という名称が与えられ、ロンドンに戻ってからは地下鉄の駅でバスキングをしていたら、その独自の演奏が注目されジャズクラブでセッションに呼ばれていた。そうしたことが1981年にWIREのBruce GilbertとGraham Lewisのプロデュースで一日で録音されることにつながって、このアルバムが残されされる。その後は、他のミュージシャンのセッションに参加したりしていたが、交通事故が原因で1991年に44歳で他界する。

今では「初期アンビエントミュージックの傑作」という評価を得ているが、このアルバムの中に収められている音楽は極めてシンプルなもので、ハンマーダルシマの演奏にリバーブやフェーズシフターのエフェクターが加わって、静かにうねる音空間を生み出している。音楽の肌あいとしては、小杉武久の「Catch Wave」や、彼がハープの篠崎史子のために作曲した「ヘテロダイン」にとても似ている。

僕がこのアルバムに惹かれるのは、「アンビエントの傑作」というよりも、Michael O'Sheaの生きてきた世界がそのまま彼の演奏に反映していることだと思う。こういう音楽や演奏は誰にもできるものでなく、その人の生き様と分かち難く結びついている。そうしたピュアな音楽であることが、録音スタジオのコントロールルームで涙を流させたのだろう。それは、録音から40年以上を経ても伝わってくる。


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