Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Reflections / Hoshiko Yamane - 歩みを止めるわけにはいかない。日々は続いていくのだから。

仕事が忙しくなってきたり、体調が今ひとつなときは、レコードよりもストリーミングサービスに依存することが多くなり、最近リリースされたものをポツポツと聴いていく。そんな中で出会って、最近ヘヴィローテーションとなっているのが、この山根星子の『Reflections』。

山根星子(1981 -)はベルリン在住のバイオリニスト、エレクトロニックミュージシャンで、2011年からTangerine Dreamのメンバー。その華美に飾るところこないスタイルに共感を覚える。演奏家しては、テクニックで押し切るようなところはなく、むしろバイオリンのボーイングのロングトーンを表情豊かに響かせるタイプ。そういった音楽性が僕の嗜好にあっていることは確か。なのでEdgar Froseが亡き後のTangerine Dreamも聴き続けられているのだろう。

この『Reflections』とタイトルされたアルバムは、彼女が第1バイオリンとエレクトロニクスを担当した弦楽四重奏団による作品集。なので、Tangerine Dreamとは全く違う、純然たるクラシック作品。でもそこには、30歳でTangerine Dreamのメンバーとなって10年間、各地でのツアーやインプロビゼーションを通して演奏家しても、音楽家しても成長した姿が集約されているように感じる。

本作の音楽的傾向は、アルヴォ・ペルトやグレツキに代表される新単純主義的ものと、ショスタコーヴィッチの晩年の弦楽四重奏曲にも通じる内省的な眼差しが感じられる。この『Reflections』というタイトルが何を反映しているかと言えば、それは今の世界そのもの。彼女自身がフィールドレコーディングしたのだろうか、街のざわめく音や、テレビやラジオの音声が効果的に使われている。

「A daily unreality(非日常の日常)」では、駅や列車のノイズ、「Your Voice(あなたの声)」では言葉を持たない女性のボカリーズ、「Boundaries with others(他者との境界線)」モールス信号とロシア語と思われる交信の声が、音楽の背景になっている。どの曲も映像的で、それはタルコフスキー的ですらある。

「芸術は時代を映す鏡である」という言葉あるが、それは政治的な主張を声高に叫んだり、政治家の写真を燃やしたりすることでなく、普遍化された沈黙のメッセージとして立ち現れる。

このアルバムは「Just as you are(ありのままのあなた)」そして「I am…(わたしは)」で終わっている。「Just as you are」の溢れる優しい眼差し、「I am…」で立ち止まり、ゆっくりと歩を進めるメロディ。

そう、毎日の歩みを止めるわけにはいかない。日々は続いていくのだから。


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