Sound & Silence

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ブートレグ (Bootleg) が貴重だった時代 -ロックが巨大なビジネスになっていく時代のあだ花

ブートレグとは

洋楽ロックの世界で1990年代頃まで残っていた「ブートレグ (Bootleg) 」 という言葉はYouTube時代の今ではほとんど死語だろう。昔は「ブートレグ = 海賊盤」と日本では言われていたが、海賊盤といっても一般に販売されているレコードやCDの不正コピー商品のことではなく、ライブコンサートなどを録音したものをアーティストの許可なくレコードやCDで販売目的で製造されたもののこと。そうしたブートレグ製造者は「ブートレガー(Bootlegger)」と呼ばれた。当然、音質や品質は悪いが、アーティストのライブの記録などとしてファンには貴重なものだった。

現在のように誰でもコンサートでスマートフォンを取り出して写真やビデオを取り放題の状況で、その日にはYouTubeにアップロードされ世界中から無料で見ることができるような時代に、もうブートレグの存在意味は過去の記録程度しかない。

ブートレグにはどんな種類があるのか

ブートレグが盛んだった1970年代には、ざっと

  1. コンサートでのライブ録音
  2. ライブでのミキシングコンソールからのライン録音の流出もの
  3. スタジオやホールでのリハーサル録音
  4. アルバムレコーディング中のアウトティク、別テイク

といった種類があった。

資料によると、小型のテープレコーダーがなかった当時は、ライブ録音は今ほど簡単ではなく、ブートレグ業者はスタッフの若い女性を妊婦に偽装してテープレコーダー、バッテリ、マイクを装備した機材を持ち込んたこともあったようだ。

2,3,4になると、ツアーのスタッフとして紛れ込んだり、スタッフを買収したりしてテープを入手したり、お金が絡まなくても、アーティスト関係者から音源が出ることもあったのだろう。そうした音源がブートレグとしてプレスされて市場に出回った。

ブートレグはどこで購入できたか

ブートレグは最初は白黒コピーが一枚貼っただけだったり、アーティスト名がスプレーされた簡易なものだったが、その内カラー印刷の豪華なジャケットでも出回るようになり、ブートレグがアンダーグラウンドなビジネスとして大きくなったことがうかがえる。

ブートレグは普通のレコード店でも売られていたし、中古盤としても売られていた。東京だと西新宿にはブートレグを扱うレコード店が多かったし、中にはKinnie のようにアナログブートレグ専門のお店もあった。ディスクユニオンもアナログのブートレグがあったし、CDブートレグの時代なってからは、CDでもかなりの取り扱いがあった。 僕は Kinnieやディスクユニオンの中古で、特にPink Floyd, Doors, Jimi Hendrixのブートを買っていた。80年代の終わり頃はアナログのブートレグは処分価格で安く買えたものだ。かなり処分してしまったが、一番多い時だとブートレグだけで100枚以上所有していた。

ブートレグのあれこれ

ブートレグを購入するときの良きガイドとなったが、この「HOT WAX」という書籍。膨大な量のブートレグがアーティスト別に記載され、そのブートレグが録音された正しい日付、音質評価、概要、どのブートレグがオリジナルで、コピーされたものは何かなど、非常に細かい情報が記載されている。

古典的ブートレグ - Jimi Hendrix / Broadcast

タイトルがスプレーされただけの初期のブートレグ。内容はジミ・ヘンドリックスのBBCなどの放送音源を録音してまとめたもの。すごく音が歪んでいて、いかにもブートらしい。これの製造元はステッカーから日本では「ブタマーク」と呼ばれ、ブートレガーの中でも大手だった。

1枚カバー紙だけのブートレグ - Led Zeppelin / Live in Seattle

次に多かったのが、このように1枚だけ紙が外側にあるパターン。Led ZeppelinやPink Floydはライブが多かったこともあって海賊盤が多数リリースされいた。このZeppelinの1973年のシアトル公演のブートは、客席録音で演奏も雰囲気も悪くないが、テープレコーダーの不調かワウによる音揺れが酷くて今だと聴くに耐えない。こんな録音でも当時は「想像力」で聴けていたんだろう。

カラージャケットのブートレグ - Pink Floyd / British Tour ‘74

ブートレグのビジネスが大きくなるとカラージャケットになる。これは、ピンク・フロイドの 「British Tour ‘74」というタイトルのライブ録音のもので、当時ニューアルバムが長期間リリースされていなかったこともあり、この新曲ばかりのブートレグは70万枚以上のセールスを記録。それがバンドへのプレッシャーとなり、スタジオでの制作が急がれて「Wish You Were Here」のリリースにつながったとも言われている。

ジャケットは表がカラー写真なだけでなく、裏面には歌詞も記載された本格的な作りになっている。 演奏内容も良く、アルバムでは2分割された「Shine on you crazy diamond」は通しで演奏されているし、後に「Animals」にDog, Sheepとして収録される2曲はタイトルだけでなく、歌詞も一部違っている。

ブートレグは20世紀のレガシー

ブートレグというのは、ロックが音楽ビジネスの中核になり、クラブからホール、そしてアリーナやスタジアムでのライブとビジネスが拡大してく中で、アンダーグランドなビジネスとして合わせ鏡のように存在した。アーティストにとっては悩みのタネであり、基本的に敵対関係で、後にブートレグ音源を集めて「オフィシャル・ブートレグ」として正規にリリースするという逆襲に出るアーティストも多い。あるいは、ツアーの毎日の公演の音源をすぐファンクラブのサイトで公開するなど、ブートレグでのビジネスを成り立たなくするような試みをしたアーティストもいる。 ただ、ブートレグに最後のとどめを刺したのは、最初にも書いたようにYouTubeの存在だろう。誰でも簡単に撮れて簡単に「シェア」されてしまう時代に、ブートレグは存続しづらい。インターネットによって、ブートレグは20世紀のレガシー(遺産)になってしまった。


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