人は歳を重ねれば順番に去っていくのは自然の摂理で、最近のように20世紀後半を象徴したアーティストが次々と消えていくと、いくら記事を書いても追いつかない。そして、1970年代のニューヨークパンクの詩的な存在だったグループ 「Television」を率いていたTom Verlaine が73歳で亡くなった。
Televisionは同時代の音楽だったので、もちろんそのデビューから聴いている。僕にとってはTalking Headが「知」、Richard Hell が「淫」、Patti Smithが「声」ならTom Verlaine は「詩」の人というイメージで。確かに彼の鋭いギタープレイは個性的だったが、書店の店員だったという逸話があるように、文学的な歌詞で、彼の歌声がその世界を紡ぎ出すところが魅力的だった。
探してみるとYouTubeには、デビュー前の1974年頃のベースがRichard Hell時代のTelevisionの映像がある。プリパンクの時代というか、Richard Hell の「淫」とTom Verlaine の「詩」が激しく絡み合う世界で、存在感ではRichard Hellが優っている。
その後、Richard Hellが抜けたところでのファーストアルバムの楽曲や演奏はTelevisionとしての始まりの終わりのではないかと思っていて、ミニマリステックなリフが重なり合う『Marquee Moon』がそれを象徴しているように感じるのだ。セカンドアルバムのタイトルが『Adventure』でよりオープンでメロデックな方向に向かっているのも象徴的なのだが、ファンが求めるものとの乖離がバンドを解消してソロへ向かわせたのではないか。
Tom Verlaineの才能はソロで開花していく
「Television」の2枚のアルバムもいいが、むしろソロになってからの方が、彼のそうした個性が豊かに発展したし、何枚かのギターのインストゥルメンタルアルバムでも派手ではないが、深みある演奏を聴くことできる。
最初のソロは今聴いても新鮮で、彼が自分の音楽と言葉を見付け出したことがわかる。例えば、この『Souvenir from a Dream(夢の形見)』のような曲はTelevisionでできなかっただろ。
あるいは、この『Flash Lightning(閃光)』のみずみずしさはどうだろう。きらめくように旋律と歌が高みを目指していく。
Tom Verlaineはソロアルバムを出すたびに成熟していったアーティストで、そこではもう『Marquee Moon』は不要な過去のもののように思う。彼の一連のソロアルバムがストリーミングサービスには入っていないのが残念。広く聴かれる価値があるのに。
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Tom Verlaineの歌詞やタイトルには「Dream」が付くものが少なくない。Televisionのセカンドアルバム『Adventure」の最後の曲は『The Dream’s Dream』というのがある。
エレベーターが僕が呼んでいる
「ちゃんとしっかりしなさい」と彼女は言う
ワルツをぐるぐる踊りながら、石から血が滴る
女王陛下の元へ、王宮に恐れるものはなく
「夢は夢見る者を夢見る」と彼女は言う
「それは僕のせいではありません」と僕は答える
「夢は夢見る者を夢見る」とは、彼のことだったのか?