Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Hellfest 2022 - 今、ヘヴィメタルは最も寛容なジャンルなんだろうか?

EUの文化事業の一環であるYouTubeのARTE Concertのチャンネルで、今年は観客を迎えて開催されたヘヴィメタルフェスティバル『Hellfest』の様子を見ることができる。『Hellfest』はフランス西部の都市で開催されるイベントで、今年は6月17日から26日にかけて延べ7日間におよび、350組のアーティスが出演するという大規模なもの。今年のトリは、Metallica, Guns N’s Roses, Nine Inch Nails, Scorpions, Gojira, Ghost, Defftonesといったグループが占めている。 Nine Inch Nailsはインダストリアルメタル扱い。

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ヘヴィメタルはプログレッシブロックと並んで70年代初めから継承されているジャンルで共通点も多いように感じる。演奏スタイルや楽曲、楽器構成、それこそアーティストのルックスやファッションまで、暗黙のルールや様式がある伝統芸能的な側面がある。その点はアーティスのアティチュードが基本となるパンクとは異なる。

このフェスの映像を見て感じるのは、オーディエンスやバンドの新陳代謝が停滞しているプログレに比べてバンドの音楽性も多彩だし、オーディエンスの年齢層もティーンエイジャーから60代以上まで幅広い。「ヘヴィメタル」という括りで300以上のグループが主演しているという事実がこのジャンルの広がりと多様性を感じさせる。全部の映像を観たわけではないが、印象に残ったものを。

Perturbator - レイブ X メタル 

『Perturbator』は、ギター+エレクトロニクスとドラムという編成のフランス人の若い二人組のグループ。グリッド状に点滅するサウンドとリズムはディズニー映画のTRON風。サウンド的にはメロディックなダークウェーブで、中盤から後半にかけての盛り上がりは音楽も演出的も、そして乱舞する観客もメタルというよりも、まるでレイブパーティ。グローバルにこの手のダークウェーブものは根強いファンがいるようだ。

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Nightwish - 紅一点は遥か昔の話 - ステージの女王

かつては男社会だったロックグループのメンバーに女性がいると「紅一点」と評されたのは遥か昔の話。今やロックグループに女性の存在は当たり前になったというか、そういうジェンダーの線引きそのものが消滅しつつある。この『Nightwish』は、1993年結成のキャリアの長いフィンランドのシンフォニックメタルバンドで、現在のボーカルのFloor Jansenは3代目でオランダ人。ステージの映像を見るとわかるが、ライブでは彼女の存在がステージを支配していて、彼女の動きがオーディエンスを扇動するカリスマ性を備えているのは確か。

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Megadeth - ヘヴィメタル側からパンク以後のロックを変えた

『Megadeth』は1983年にロスアンゼルスで誕生したアメリカン・スラッシュメタルの重鎮。僕が最初に聴いたのは1988年の3枚目の『So Far, So Good... So What! 』だった。Sex PistolsのAnarchy in the UKのカバーを含み、いわゆる70年代メタルとは完全に決別し、ヘヴィメタル側からパンク以後のロックに地殻変動を与えたと言えそう。

ステージにはマーシャルのスピーカーが積み上げられ、アニメ映像の巨大なスクリーンと一体化している。Perturbator、Nightwish、Megadethと見てくると、彼らのライブは、まるでディズニーのアトラクションのようにエンターテイメントショートして確立している。ヘヴィメタルが幅広いオーディエンスに高い人気があるのも、そうしたライブの演出を含めて楽しめるショー的な要素が強いことも大きいのだろう。

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Opeth - デスメタルとプログレッシブロックの融合

70年代ハードロックへの回帰のような方向性を持つグループも多く、1989年にスウェーデンで結成された『Opeth』もそうした音楽性で、それはリーダーでボーカル、ギターのMikael Åkerfeldt の資質に負っている。プログレッシブロックの影響が大きく、 Judas Priestを敬愛する彼によるデスメタルとプログレッシブの融合ということらしい。
実際にヘヴィメタル化したYESやGenesisのような曲も多く。以前にはSteven Willsonもアルバムをプロデュースしていたはず。Mikael Åkerfeldtのインタビュー番組を聞くと、けっこうなオタク気質。そうした彼の音楽的指向性がこのグループの個性になっている。

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Lowrider - 70年代ハードロックへの憧憬

『Lowrider』は1990年代中ごろにスウェーデン(北欧にはメタルバンドがどれだけあるやら?)で結成されたストーナーロックのグループ。Sabbathばりの重たいリフを重ね合わせ70年代ハードロック、サイケデリックロックの思わせるサウンドを聴かせる。それが借り物だったり、薄っぺらなってしまわないのは、彼らの真摯な音楽への姿勢があるからだろう。僕はこのHellfestのビデオで初めて見たグループだったが、説得力のある1時間のショーだった。

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Kadavar - 1970年代のアンダーグラウンドバンドを聴いているかのよう

『Kadavar』は2010年にベルリンで結成されたギター、ベース、ドラムの3ピースバンドで、これもLowriderと同じようにストーナーロックのジャンルとされているが、僕の印象はHawkwindに通じるようなディープなサイケデリックの要素が強いように感じる。このベースのSimon Bouteloupは、元同グループのローディだったという話も、Hawkwind のベースとなった Lemmy Kilmisterに通じるものがある。長身で存在感のあるベース。3ピースバンドは各個人の個性が強い方がバンドとしては面白いと思っていて、このKadavarの3人はルックスからしても個性的。ドラムの風貌がCreamのGinger Bakerを思わせるとことろがありアクションも申し分ない。ファズとワウワウを効かせたSGギターのサウンドは、70年代のアンダーグラウンドバンドを聴いているかのような錯覚を覚える。

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Earth - Beyond Psychedelic, Beyond Heavy Metal

そして圧倒的に個性的で、唯一無二の存在であることをステージでも感じさせるのが、この『Earth』。ヘヴィメタルとか、サイケデリックとかいうジャンル以前に、こうした音楽が存在できることが不思議。以前記事にも書いた『Full Upon Her Burning Lips』のアルバルからの曲が主体のライブ。
ライブでもAdrienne Daviesのドラムは圧倒的で、宇宙の波動を受信して演奏するかのような独特のリズムのうねりが強力なバイブレーションをステージ空間に生み出している。このバイブの中でDylan Carlsonのギターは水を得た魚のように自由に泳ぎ回る。あっという間の1時間のライブ。

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普段はそんなに熱心にヘヴィメタルを聴くわけではないが、こうした300グループ以上が参加したフェスのまとまった映像を観るとヘヴィメタルへの印象はずいぶん変わる。ヘヴィメタル内でのジャンルの細分化が進み過ぎている懸念もあるが、それだバンド層もファン層も厚いということなんだろうし、マーケットとしても巨大だろう。その一方でエンターテイメント性の高いものばかりでなく、自分達の音楽を真摯に追求するグループの存在も少なくないのことがわかったのが1番の収穫かもしれない。特に『Kadavar』と『Earth』 のライブ映像は強く印象に残った。

ビデオアーカイブ一覧

Hellfest 🔥 - YouTube


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