この1983年にされたアルバムのことはつい最近まで全く知らなかった。The Chameleonsは英国マンチェスター北部で絶大な人気があったローカルバンドだったらしい。マンチェスターといえば、Joy Divisionを擁したFactoryレーベルの本拠地でもあり、僕も当時多くのニューウェーブバンドを聴いていたがこのChameleonsのことは聞いたり読んだりした記憶がない。
このアルバムを知るきっかけは、ちょっとメランコリックなところがあるフランスのメタルバンド、Alcestのメンバーが好きなアルバムに上げていたこと。彼曰く、「楽曲も良く、シューゲイザーの先駆的なサウンドで、売れなかったのが不思議でしょうがない、メンバーのルックスのせいだったかな」と。また別のところでは、Chameleonsの楽曲がいかに米国のグループ、Interpoleで引用されているかが説明されていた。
それで興味が湧いて聴いてみたのがこの『Second Skin』という曲の1985年のビデオ。メンバーに飾り気はまったくなく、自分達の音楽に向かう直向きな姿勢が、あの時代らしい。ツインギターのサウンドは確かにシューゲーザーの原型かもしれない。
歌詞も十代から二十代の若者の現実に対する不安や葛藤をテーマにしたもので、当時の同年代からの支持されたことも納得できる。
誰かが耳元でささやく
このファンタジーは君のもの
この1年だけのファンタジー
僕の目の前で全ての人生は変わり
彼がいったことが本当に思えた
僕は自分の殻を脱いで別の姿になり
その裸の姿で震えていた
思いきって外へ出ると
聞き覚えのあるメロディが頭の中で静かに鳴っている
彼は言う
振り返って微笑みながら言う
この奇跡はもうすぐ終わる
このメロディは君のために
この奇跡はもうすぐ終わる
このメロディは君のために
でも、それが夢の本質なんだろうか?
それが夢の本質なんだろうか
自分がまるで宙に浮かんでるように感じるのも不思議じゃない
自分がまるで宙に浮かんでるように感じるのも不思議じゃない
彼らは一度スティーヴ・リリーホワイトをプロデューサーに迎えてシングルを録音するが、どうもレーベルやプロデューサーと衝突があったようで、自分達の音楽を貫くために地元マンチェスターのマイナーレーベルと契約してアルバムをリリースすることになる。それが1983年にリリースされた『Script of the Bridge』。『Second Skin』を含む12曲が収録されている。僕はリマスタリングされてLP2枚組みとなった2012年の再発盤をAmazonで最後の1枚を入手。なんだかAmazonで在庫の最後の1枚のレコードを買うことがすごく多い気がする。慢性的にトレンドから遅れているから(あるいはトレンドと無縁だから)かな?
プログレバンドみたいなイラストのアルバムカバーもちょっとソフト過ぎたのかもしれない。同じマンチェスターのJoy Divisionみたいなカバーデザインだと随分違っていたかも?
『Don’t Fall』から始まるどの曲も、ツインギターの重送的なメロディと少し甘いボーカルが彼ら独自の音楽世界を作っていて、フレッシュながら完成度の高いデビューアルバム。今、同じ内容で録音し直しても通用しそう。初期のUltravoxがそうだったように少し時代に早かったのかな。彼らは3枚のアルバムをリリースして活動停止となる。その後、2009年にベース&ボーカルのMark BurgessとギターのReg Smithiesの二人が中心となって The ChameleonsVox の名前で活動を再開する。
The ChameleonsVoxとしてのこの2019年の地元マンチェスターでのコンサートの様子を見ると、彼らがいかに愛されたグループであったかが分かる。曲は同じ『Second Skin』。画面を大きくして見てほしい。
1983年にこの曲を聴いた若者の多くは今や60歳代だろう。そのオーディエンスが40年前と同じようにジャンプして曲を一緒に歌う。それも一部ではなくずっと歌う。ジャンプして踊り、おぼつかない足取りで倒れても仲間が起こしてくれて、また踊って歌い始める。完全にこの歌が人生の一部になっている、なかなか感動的なライブ映像。
人生にさまざまなことがあり、年齢を重ねて老いていく中で、音楽が鳴り響く。彼らにとっては最後の日まで鳴り続く音楽なのだろう。
この奇跡はもうすぐ終わる
このメロディは君のために
音楽と共に老いていく幸福なノスタルジア。
僕にとってそれは何の曲なんだろう? Robert Wyattの『Sea Song』なんだろうか?