Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

ウエスタン・エレクトリックのスピーカーケーブルを聴く - あるがままに音楽を聴かせる不思議なケーブル

Western Electric(ウエスタン・エレクトリック)のスピーカーケーブルの話。ウエスタン・エレクトリックのビンテージケーブルというのは、一部では絶対的な支持があり、カルトアイテム的な印象を持っていた。

ウエスタンエレクトリック社は1869年に電信設備の企業としてはじまり、その後は電話設備を手掛け、さらには映画が無声映画から今と同じサウンド付きのトーキーとなった時代には映画館や劇場向けのホーン型スピーカーや真空管アンプによるサウンドシステムの手がけるなど、一貫して音声通信、音響設備を手掛けている。当時については以下の記事に簡潔にまとめられている。

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つまり、電話などの音声通信と映画という声のリアルさと効果音や音楽をいかにダイナミックに鳴らすか、そして設備としての耐久性に注力していた企業と言えそう。ウエスタンエレクトリック社は後にAT&Tに買収されてその1部門となる。近年、ウエスタン・エレクトリック社(ブランド)は米国で復活して300Bなどの高級真空管の製造などを再開している。

いろいろあるウエスタン・エレクトリックのケーブル

ウエスタン・エレクトリックのケーブルは、1950年代からのオリジナル線、復刻版、あるいは昔の電話設備から外されたエナメル線などなど、ろんな種類が流通していてる。より線もあれば単線もあって、価格も数百円のものから数万円まで幅広い。スピーカーケーブルだったりRCAケーブルだったり、使われ方もいろいろ。

今回、ウエスタンのスピーカーケーブルを試してみようと思ったのはこの370円/mというお手頃価格のものをAmazonで見つけたから。説明にあった1980年代製造のビンテージケーブルというのも気になったし、形状が細い単線であること。より線でない単線のケーブルにも興味があった。考えてみれば、今のように高価なスピーカーケーブルが登場する前にオーディオ用で一般的に使われていたのは電力用の単線のキャブタイヤケーブルだった。

細い針金のようなケーブルで、少々不安になる

それで370円/mのウエスタンのスピーカーケーブルを4m分購入。届いたケーブルは、ケーブルというよりも細い針金のようなもので、価格も太さも10倍以上の現在のケーブルと比べて、これで本当に大丈夫なのか不安を覚える。

ただこのケーブルをよく見ると凝った作りになっていて、表面はビニール系の素材だが、中の芯線の周りももう一度紙か布のようなものが巻かれている。芯線が細いこともあって、ニッパーで芯線を剥き出すようはことはできず、りんごの皮の剥くようにカッターで表面をゆっくりこそぎ落としていく。

フルテックのロジウムメッキのYラグまでつけた現状のCHORDのスピーカーケーブルと比べると、とても貧弱にしか見えない。

まあ、布や紙の素材というは静電気に帯電しないので、信号線としては理にかなっているかもしれない。芯線は銅の上に錆防止しですずメッキがされていて、これをヤスリで剥がして銅の表面を出すか迷ったが、とりあえずそのままの状態でアンプとスピーカーに繋いでみる。

ウエスタンのケーブルの愛好家が「生っぽい音」と言う意味が理解できた

使っているMarantzの1977年製のパワーアンプはプッシュ型のスピーカーターミナルなので、こんな風に細いケーブルがマッチする。プリアンプのMarantz #7は1960年ごろの製造、スピーカのTRIO LS-1000は1981年製なので、みんなビンテージ。

細いけど柔らかいケーブルではないので、ケーブルの置き方を考えながらアンプとスピーカーに接続する。音を出してみたところ、あまり変な音ではないので一安心。最初は出音が小さかったり、低音の伸びがよくなっかりしたものの、中域から高域に独特の艶がのっていることに気がつく。このまま鳴らし続け様子をみることに。

(ビニールのスパイラルが巻いてあるのは猫の噛みつき防止用)

数日経過すると、中域から高域に独特の艶があるのはそのままに、低域も伸びてくる。ただかなりタイトな低域で音の伸びよりも動きがよくわかる。CHORDのケーブルのような高域から低域までのワイドなレンジの広さはなく、また細かい音まであまなくに出すようなところもない。CHORDのケーブルのようなハイファイ調のところは皆無。ただこのウエスタンのケーブルが音数が少ない訳ではなく、耳をすませば細かい音も出ているのがわかる。

説明が難しいが、ウエスタンのケーブルだとその音楽の中心要素にフォーカスがあり、それ以外の要素は一歩下がったところにある。メリハリがあるとも言えそうだし、音楽のプロポーションの描き方が上手いとも言えそう。ただハイファイとは違う方向なのは確か。ジャンルを問わず音楽はとても活き活きとなる鳴る僕が好きな方向性。これならウエスタンを信奉する人たちの気持ちもわかる。

これは推測だが、先に触れたように電話や映画の音響用として再生周波数帯域を広げるよりも音声の明瞭度が優先されたことが影響しているのだろう。それがビンテージものや真空管アンプにマッチして相乗効果となるのでは。

クラシックを聴けばコンサートホールっぽい感じがするし、ロックならPAっぽい鳴りっぷり、ジャズだとクラブっぽくなる。僕らがライブで聴いているのはその空間でデフォルメされた音を聴いているわけで、このケーブルを生っぽいと感じるのはある意味、デフォルメされた音に騙されているんだろう。それはスピーカーで音楽を聴く時に限ってだが。

デジタルもアナログっぽく

このウエスタンのスピーカーケーブルで面白いのはCDやストリーミングのデジタル音源もアナログっぽい表現になること。ケーブル自身の色付けはほとんどなく、ソースの音をそのまま出してくる感じ。それでも音が濃過ぎる感じがしたので、DAC2000で使用していたZONOTONEの電源ケーブルは外して元の標準電源ケーブルに戻す。ZONOTONEの電源ケーブルのように音にキャラクタを乗せる傾向があるケーブルだとそれが出過ぎるのだろう。付属の電源ケーブルが自然に聴こえる。物足りなさはない。

レコードをあれこれ聴く

Tony Conrad with Faust/Outside the Dream Syndicate
Tony Conradのバイオリンによるドローン演奏とFaustのリズム隊の共演によるドローンミュージックの先駆的作品。バイオリンとドラムの前後の位置やバイオリンの音のレイヤーがリアル。ドラムは革のはりや振動が目に見えるよう。催眠的なようで実は覚醒的。単調なのにあっという間に感じる。英国盤は優秀録音盤でないか。

CCR / Green River
1曲目のギターのリフがリアル。ギターアンプが目の前で鳴っているかのよう。力むとダミ声になるJohn Fogertyのボーカルが生々しく、いかにもバンドっぽくライブ感がある。泥臭いロックのようでいて、実は本人たちはあえてそういうスタイルでやっていることがわかる。

Manuel Gottsching / E2-E4
ジャーマンミニマルアンビエントの代表作。Manuel Gottschingのギターはもちろんいいのだが、リズムやシーケンサーの空間的な広がりが見事。実は細部までしっかり再生されていることがわかる。このケーブルはリズム感がいいかもしれない。

Savages / Silence Youself
英国の女性4人のグループの2013年のファースト。ハードでエッジーなサウンド、特にギターの表現力が高く、決して弾き過ぎず、抑えた深みのある演奏でフィードバックを多用しながら曲に表情を付けていく。一方、ベースはダイナミックに動き、曲を引っ張っていく。ドラムとベースのコンビネーションが際立つ。2枚のアルバムで活動を停止してしまったのは残念。

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そんなこんなで試しに買ってみたウエスタンのスピーカーケーブルはそのまま使ってみることに。決してワイドレンジでハイファイではなく、また単なるレトロではなく、音楽が音楽らしく鳴るちょっと不思議なケーブルだった。


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