Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

ウエスタン・エレクトリック 単線 RCAケーブルの自作 - ビンテージシステムで音楽をオーガニックに聴きたい

1m/370円と安価なWestern Electric(ウエスタン・エレクトリック)のスピーカーケーブルの話を前に書いたが、今回はその続編。そのケーブルは、80年頃の製造らしい0.5ミリ程の細い針金状の単線ケーブルで、そのか細い外観は本当に大丈夫なのか心配になるほどだが、出てくるサウンドはそうした不安を一掃する実体感のある音を聴かせてくれている。

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ビンテージのスピーカーケーブルでビンテージシステム用のRCAケーブルを作る

それで、このケーブルでRCAケーブルを作ったら、CDやストリーミングなどのデジタル音源も、もっと好みの方向になるのではと思い、試しに制作してみることにした。

材料は同じウエスタンのケーブルを10m、RCAプラグはシンプルでありながら安定にスイッチクラフト製のものを、ハンダにも少し凝って、ウエスタンの1970年代のビンテージハンダを2m分購入。

スイッチクラフト製のプラグは小さくて軽いので、アンプ側のコネクタが小さくて弱いビンテージアンプには必須な存在。密着度もよく取り扱いも楽。流行りのがっしりした作りのプラグと比べるとオモチャのようだが、音に色付けが少ないのもいい。

僕は2010年頃までは、オーディオはその時代の新製品を買っていたが、ある日突然、それに飽きてしまい、「自分が聴きたい音(音楽)は何か?」と思い、行き着いたのが、Marantz 7のアンプやSHUREのカートリッジのような、1970年代初期から1980年代の所謂ビンテージもの。とは言っても僕にとっては年齢的に「同時代のもの」なので、正直、あまりビンテージ製品を使っている自覚は希薄だったりする。

さて、ハンダも、オーディオ用として各種あるが、前記したように年代を合わせたいので、ビンテージのハンダを選択。2mで1320円なのでハンダとしては贅沢。 今のハンダと一番違うのは鉛の含有用。現在は各国の環境規制で鉛を含むはハンダの使用は禁止されており、無鉛ハンダが基本。もし鉛が含まれていると製品の販売が禁止されしまう(条例施行後の製品のみ対象で既に存在するビンテージ品は対象外)。楽器でもオーディオでも、ビンテージハンダは音が良い、と言われるのは、おそらくこの鉛が含有されていることが原因ではないかと思う。

作り方は特別に難しいことはなく、ウエスタンのケーブルが細い単線なので、カッターで被覆を剥くときに注意が必要な程度。

まずはDAコンバーターに使うと音楽の濃度が増す

完成したRCAケーブルをATOLL DAC200の DAコンバーターにつないで、CDやストリーミングを聴いてみる。一聴したところでは、音バランスが大きく崩れるようなところはなく、スピーカーケーブルを変えたときは同じように、レンジは抑えつつ音楽の内面を充実させる方向。スケール感がある。よくライブハウスやコンサートの開演前のBGMで聞きれ慣れたCDがかかったときに、妙にいい雰囲気で鳴っていると感じるときがあるが、それを思い出す。

Reflections / Hoshiko Yamane (CD)

少し前に紹介した現Tangerine Dreamのメンバーである山根星子のアルバムの限定CDが入手できた。100枚限定というのは真っ黒いCD-Rを使ったもので、盤面が黒いCDは初めてだったので少し驚いた。自作ケーブルでは、より直接的な表現で音楽がより聴き手に近づいてくる。この弦楽四重奏作品には古典的なところがあるが、そうした面が強調されるようで、より構造的でガッシリとした作品なり、説得力が増している。

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Velvet Underground / White Light, White Heat(CD)

ノイズロックンロールの古典。2013年のリマスター盤。このウエスタンのケーブルだと、目の前で歪んだギターアンプの音を聴いているよう。現在主流のオーディオケーブルの音が風景が非常に鮮明で細部まで見逃さない超ワイドレンズだとすると、このウエスタンのケーブルは、その音楽のエッセンスにズームアップするようなところがある。なので細部の音が出ていないわけではないが、音楽をより立体的に描き出し、それが「Sister Ray」に麻薬的な陶酔感をもたらす。このアルバムはThe Beatlesの「Sgt. Pepper's」と同じ1967年に録音されていながら、今でもずっと未来の音楽であり続けている。

AMMMUSIC / 1966 (CD)

Cornelius Cardew, Keith Roweなどを中心とした英国の実験音楽ユニット。タイトルの通り1966年の録音で、CDは完全版(のはず)。フリージャズでも、現代音楽でもない、真にフリーな音楽。これも、ウエスタンのケーブルで聴くとずいぶん印象が違う。ただのアブストラクトではなく、音楽として分かりやすくなるというか、演奏の物語にフォーカスがあるように感じる。スピーカーケーブルという音の出口だけでなく、音の入り口も同じケーブルになったので、そうした傾向がより強まったのだろう。

フォノケーブルもウエスタンにしたら、どうなるのか?

デジタルが良い結果だったので、アナログのケーブルもこれに変えようと、もう一組を作成。材料費が廉価なので気軽に試せるのがよい。心配点としては、シールドが全くないケーブルなのでノイズがどうなるか? とにかく作ってMM Expanderとプリアンプの間をつないでみる。 ボリュームを上げていくと、いつもの音量よりも少し高いところでハムノイズが出ている。取り敢えず、このまま色々と聴いてみたい。

全体的な傾向はこれまでと同じ。広域はスッと伸びる感じで、低域は膨らまずに力感がアップ。中域は充実している。空間の広がりやチャンネルセパーレーションは狭くなる。ただ、楽器の重なりのレイヤーは奥行きがある。変な例えだが、リビングのビンテージオーディオシステムが、ものすごく音の良い大きなラジカセになったと言うべきか.....。

Stravinsky / Petrushka (Reissue LP)

アンセルメ指揮、スイスロマンド管弦楽団の1957年録音のストラビンスキーの「ペトルーシュカ」。当時の英国Deccaレーベルへの録音の再発180g重量盤。1957年とは思えない、鮮明で見事なステレオ録音。初演が1911年なので、もう100年以上に前の作品になるのか.....。当時のバレエ3作品の中ではもっともカラフルでポジティブな音楽かもしれない。ウエスタンもケーブルがその豊かな音色を一層引き出している。
よくオーディオ製品で、ジャズやロック向き、クラッシック向きという表現があるが、個人的にはまったくそうした分類を信用していない。ワイドでフラット、高精細な音が好きな人もいれば、ギュッと凝縮され、それが解放されるようなエネルギー感のある音が好きな人もいる。あるいは僕のように音の好みが変わっていくこともあるだろうし。

Peter Gabriel /III (初期日本盤)

Genesis時代を含め僕が苦手とするアーティストの1人。でもこの1980年のソロ三作目だけは例外でリリース当時からよく聴いている。Kate BushのサポートとSteve Lillywhiteのプロデュースが成功していて自分の中ではポストパンクのアルバムとしてある。ウエスタンのケーブルは冒頭のゲートの効いたドラムをさらにソリッドに鳴らすし、このケーブルで聴くボーカルのリアリティは、映画館や電話業務向けだったウエスタンシステムの血統かもしれない。とにかく、前のめりのパワフルなアルバム。

Terje Rypdal / Whenever I seem to be far away.

1970年代前半のECMは、前衛、ジャズロック色の濃い作品をアグレッシブにリリースしていた。それに比べると最近は保守的な印象がある。この1974年のアルバムは、Terje Rypdal のECMで三作目。A面はメロトロンが鳴り響き、ファズベースが唸るハードな演奏、B面は、オーケストラとエレクトリックバイオリン、ギターの協奏曲の構成。アルバムカバーの写真の通りのイメージ(カバー写真は写真家、内藤忠行が鳴門の渦潮を撮影したもの)。
このケーブルだと、ECM独特のリバーブ効果はやや後退するものの、楽器や演奏へのフォーカスは高まり、アンサンブルの奥行きは深い。A面の怒涛のサウンドが聴き手に迫ってくる。

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とにかくこのケーブルはリアリズム指向。スピーカーケーブルにRCAケーブルまで加えると、より一層そうした傾向が高まる。決してハイファイではなく、ある意味ローファイ化しているのかもしれない。ライブハウスやコンサートホールで聴いているのに近い。観賞用の水槽に入っている音楽を眺めているのはなく、すっかりその中に浸かり込んでいる。この聴き方が今一番気に入っている。


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