『analog誌『2022/Winter Vol.74』にカートリッジ の消磁に関する記事があったので検証してみた。この記事にもある通りカートリッジ の消磁はMCカートリッジではよく言われるが、MMカートリッジでも帯磁は音の劣化の原因になる(コイルの鉄心が帯磁する)。ところがMMカートリッジを消磁する良いツールがなかなかない。単体フォノイコライザや使っているAE-10などにもデガウス(消磁)モードはあって、トーンアームからの出力をショートしてレコードの再生音で消磁を試みるが効果は限定的だった。
この記事が興味を引いたのは、提唱しているのが元ソニーのエンジニアで数年前にはレコードの再生音がなぜ良く聴こえるのかを研究し「バイナルプロセッサー」を製品に組み込むなどしたアナログに通じた「かないまる(金井隆)」氏であること、MCだけでなく、MMカートリッジ 向けとしても研究されているし、消磁用の専用信号まで用意されている。
実際に記事の通り組み立ててみた
注意:ここで組み立てたアダプタはMMカートリッジ専用で抵抗が入っていないためMCカートリッジでは使えません。詳細は記事を参照ください。またカートリッジの破損などの事故の責任は私も記事の著者も負えません。各自の判断と責任で行ってください。
このツールでの消磁方法は次のような手順になっている。
- コンデンサ(フィルムコンデンサ1.0μF250V)をいれたアダプタを作成
- アダプタを介してPCのヘッドフォン出力とフォノケーブルを接続
- 消磁用の専用WAVファイルをPCで再生
- フォノケーブルをフォノイコラザ等に戻し、レコードを再生して違いを確認
アダプタは、ハンダ付けできるならプラグやコンデンサを基盤に付けて簡単にケースに入れることもできるが、今回は雑誌に記載の通りでやってみることにした。記載されている部品も考えられていて、ハンダ付けなしで小さなドライバだけで組み立てられるようになっている。
部品やケーブルをAmazonやヨドバシドットコムで注文して揃える。ねじ止めできるRCAオス、メスのコネクタセットがあるのでハンダは不要。
組み立てというほどのものでもないが、コネクタの+端子の間にコンデンサをつなぎ、ー端子同士はリード線でつないでネジを締める。
そして割り箸を適当な長さに切って添えて、
包帯やガーゼを止めるサージカルテープで固定してぐるぐる巻きにする。これが1番、信号音に影響がないらしい。
組み上がったら、PC側、アーム側への接続ケーブルを取り付ける。
消磁専用信号はこんな波形
消磁専用信号の90秒のWAVファイルを、かないまるさんのサイトからダウンロード
http://kanaimaru.com/0000kanaimaru2018/211202Demag/dl.htm
50Hz版と10Hz版があるが、ここでは記事で評価の高かった10Hz版をダウンロードして使用する。実際の波形を見ると次ような形。
最初にドンっと大きくなって後はゆっくりと減衰していく音になっている。
注意:50Hzや10Hzという極めて低い周波数なのでスピーカー等を破損す可能性があるのでスピーカーやヘッドフォンで再生して音を確認しないこと。
SHUREのカートリッジの消磁をやってみる
96KHzで再生するが有利とのことなので、macOSのMIDIユーティリティでヘッドフォンの出力を96KHzに指定する。
ケーブルの接続を確認し、PCのヘッドフォン出力のボリュームを最大にしたら消磁信号ファイルを再生する。ここではmacOS付属のQuicktime Playerで再生。完了するまで90秒待つ。
消磁後の音は本当に激変するのか?
analog誌の記事では評論家の炭山アキラ氏が消磁後の音を「激変などという手垢のついた言葉では言い表せない」とまで書いているが、さあ、どうだろう?
試しに次のSHUREのカートリッジを消磁してみた。
- V15 Type III 初期型
- M75EB Type II
- M44G(後期型)
確かに消磁後の再生音はかなり変わる。共通にどう変わったかというと、
- 背景が静かでSN比が向上する。レコードに針を落とした後のザワザワした感じがかなり減る
- 鳴り方に余裕がでる。自然ともいえるが角がほぐれた感じ。音量を上げてもうるさくない
- 人の声のリアル度が増す。シンバルや鐘などの鳴り物の余韻がきれい。
- 全体に音楽の情報量が増える。これまで背景で鳴っていた音が明瞭に聴こえる。
- サウンドステージの左右奥行きが広くなる(激変ではないが明らかに違う)
- 製造の古いカートリッジほど消磁効果が大きい(年数を経て帯磁が進んでいるのか?)。ある種のアンチエージング、リフレッシュ効果
- 処理した直後よりもレコードを5分〜20分再生するに従って音が良くなって安定する
全体として、この「消磁レシピ」の効果はかなり高いと言えそう。後はどのタイミングで継続するかで、僕の場合はカートリッジを約1週間単位でローテーションしているので、そのタイミングかな。
こうした簡単なDIYをやってみると子供の頃の雑誌の付録の実験を思い出して、ちょっとほのぼのする。
2022/01/14 追記
ストレートアームに取り付けてある,
- V15 Type V MR
- V15 Type IV
といった上位機種のカートリッジも消磁してみたところ、この改善効果は非常に大きかった。特にV15 Type V MRは低音がずっと締まって明瞭になったし、全体の余韻の滲みがなくなりすごく美しい。音楽のリズムの歯切れがよくなったのダイナミズムが増している。カートリッジのクオリティが高いだけに、帯磁に敏感なのかもしれない。