Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHUREのカートリッジ を聴き続けて- 閉じ込められた過去の時間を蘇らせる

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このブログを書き始めた2018年の初め頃からSHUREのカートリッジを意識してポツポツ集めて、いろいろ試行錯誤しながら聴いてみて、最近ようやく思うような音で再生ができるようになってきた。以前書いた記事と重複するところもあるが、SHUREのカートリッジ についての現状をまとめて。

SHUREのカートリッジで自分がどう音楽を聴きたいのかがわかった

オーディオの世界では基本的に「MCカートリッジ>MMカートリッジ」というヒエラルキーが厳として存在している。確かに特性的にも解像度的にもMCカートリッジが優位なのだろうし、100万円を超えるような高級MCカートリッジが多数存在することもからも(僕はその音を聴いたことはないが)、MCカートリッジの優位性はあるのだろう。

僕も以前は(それがいいのだろうという思い込みで)MCカートリッジをメインに使っていた。DENONのDL-103シリーズに始まり、オルフォントのMC-10、MC-20MkII、オーディオテクニカの限定版のMC、最後はZYX(ジックス)のスケルトンの高級MCカートリッジまでいくつも聴いてきたが、どこかでそうしたMCカートリッジの音の表現に飽きてしまっていいたし、音はいいのだが音楽との距離が縮まらないというか、自分の思う音とのギャップでレコードで音楽を楽しめなくなってきていた。

そんなときに、イベントでDJの真似事をすることになって、M44Gがついたテクニクスのプレーヤーで60年代、70年代のロックアルバムをかけていくのをヘッドフォンでモニターしていたら、レンジは狭いが家で聴いているよりもなんとも雰囲気がよく、音楽がより近くに感じられた。それは、ずっと昔、トランジスタラジオの小さなスピーカーから聞こえてきたAlice Cooperの『School’s Out』がカッコよかったことに通じている。

それで帰ってからずっと忘れられていたM97eHEをアームに取り付けて聴いてみると、その古いSHUREの MMカートリッジ から出てくるレコードの音が心地よい。そこからまたレコードが楽しくなり、SHUREのカートリッジ を色々と手に入れていくようになったし、自分がオーディオでどう音楽を聴きたいのかが明確になったきた。

どんな音で聴きたいかの焦点が定まると、そこへどう追い込んでいくのか、レコードの録音の差や録音年代に対応するためのバリエーションどうするか、と取り組みの方向性が決まってくる。「自分の聴きたい音、好きな音」が確立できると他の情報に惑わされて時間を無駄にすることもなくなる。

MM ExpanderはSHURE カートリッジのコントロールセンター

SHUREのカートリッジは、音楽的には面白いが音にひとクセあったり、負荷容量が大きかったりするなど、そのままアンプのフォノ入力で使うとレコードによっては個性が強く出過ぎることがある。以前はLuxmanのE-250をフォノイコライザとして使っていて、これは負荷容量やインピーダンス調整ができたが、ビンテージプリアンプのMarantz #7の音楽表現が好きでこの内蔵フォノイコライザをメインに使用すると相性の問題があった。

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それはオーロラサウンドのMM Expanderの導入で解消。僕にとってはSHUREのカートリッジには必須のデバイス。これが加わったことで、どのカートリッジでもレコードに合わせて最適な状態で聴くことができる。電源もいらず使い方は簡単でプレーヤーとアンプやフォノイコの間に入れるだけ。負荷容量や負荷抵抗を変えることでこれだけ音が変わるというのも発見だった。

重たいオーディオから軽いオーディオへ

もう一つの大きな変化は、重たいオーディオから軽いオーディオへ移行したこと。昔は「重くして振動を止めることで音質を改善する」というのがあって、僕もマイクロのターンテブルに同社の3kgある銅板シートと1Kgあるレコードスタビライザーを乗せていた。

最初のきっかけはアンダンテラルゴ のオーディオボード。木製のラックの美観をあまり損ねないボードを探していて、振動を抑えるのではなく不要な共振を防ぐというアプローチに興味を持って貸し出し視聴したところ背景が静かになり音楽の鳴りが良くなる方向だったので即採用。

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もう一つはアコースティックリバイブのターンテーブルシート RTS-30。シリコン系の素材にマイナスイオンを放出するトルマリンなのどの天然鉱石を混ぜた柔らかいシートで幾何学模様のパターンの突起がある。これも貸し出しサービスで実際に聴いてみて購入を決めた。強調感のない自然な鳴り方が魅力で、重い金属シート固有の響きや抑え込まれたところがなく、それまでが整理され過ぎた再生音を聴いてたことに気がついた。分解能力がよく、細かい背景の音もつぶれていない。静寂製と躍動感のバランスがよく、レコードらしい音がするいいシートだと思う。

オーディオ専用の個室があるわけでなく、仕事場と兼用しているリビングルームで長時間聴いているので、好みの音で鳴らせることはずっと課題だった。音楽が実体感のあるリアルな肌感覚で聴けることは大切だけど、それはすごいワイドレンジなハイファイであることでも、目の前でライブを見ているような音量で再現することではない。その音楽への理解や洞察が深まることを大切にしている。

それぞれのカートリッジを使い込んでの印象について少し。

V15 TypeV MR - デジタル時代の品格のある再生音

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SHUREの中での高級カートリッジだった1997年発売のV15 TypeVは、CDデジタル時代のアナログカートリッジとして解像度、再生帯域などあらゆる面が検討された当時のハイエンド。解像度も高いが再生音が美的で品がよく、大人しいだけではなくパワーもある。特にオーケストラや室内楽には、このカートリッジが必須と思わせるものがある。もちろんロックでもジャズでも高い解像度と分解能で音楽の構造を描き出すが、ある方向にまとめるのではなく、時にその音楽の本性を暴き出すような冷徹な面を見せることもあって、使い込むと意外な側面を感じる奥が深いカートリッジ のように思う。あと、SHUREのカートリッジは共通に低域の表現がうまい。

項目名 内容
使用中の針 JICO製のボロンカンチレバーのSAS針
推奨設定値 47KΩ/220pF
AFE-10設定値 47KΩ/220pF

V15 TypeIV - アナログの絶頂期の理想の音

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V15 TypeIVはアナログレコード絶頂期の1978年の発売。ハイファイ度と音楽度のバランスがちょうど良く華があり、レコードへの対応範囲も広い。どんなレコードをかけても適度の緊張感のあるいい音で音楽が楽しめる。今はTypeIII用のJICO製S楕円針をつけている。ただ、翳りのある彫りの深い方向ではなく、全てを明るめに描くようなところがある。もし、SHUREのカートリッジを1本だけ持つなら、オールマイティに使えて便利だし、中古価格もこなれているのでこれをお勧めしたい。

項目名 内容
使用中の針 JICO製のS楕円針
推奨設定値 47KΩ/220pF
AFE-10設定値 47KΩ/220pF

V15 TypeIII - ジャズだけでなく、音楽のダイナミズムを伝える

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1973年に登場したこのカートリッジにはついては多く人が語ってるが、僕は特別に「ジャズ向き」という印象は感じていない。高域がやや強めでハリがある音になり、シンバルやサックスなどの管楽器が前に出るのでそうなったのかもしれない。ベストセラーなり長期間生産されたため後期型と初期型でもニュアンスが違う。僕は初期型を入手してからはこればかりを使っているが、後期型の方がハイファイ指向な気がする。初期型はレコードによって相性があるように感じるが、音楽的にダイナミックな表現に長けている。ロックでもクラシックでも過度に分析的ではなく、音楽を羽ばたかせるのが上手いというべきか。
AFE-10で負荷容量、負荷抵抗を変えると、音楽的な良さは残しながら高域のクセを抑えてレコードへの対応範囲が広がる。楽器だけでなく歌も説得力を増してくる。15KΩがおとなし過ぎると感じる時は23KΩにすると華やぐ。

項目名 内容
使用中の針 SHUREオリジナル楕円針
推奨設定値 47KΩ/440pF
AFE-10設定値 15KΩ/330pF

M75EB Type2 - ロックがロックらしかった時代の音

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M75シリーズは1976年頃のリリースで日本ではYAMAHAのプレーヤー、海外ではオートチェンジャープレーヤーにも採用された一般向けのカートリッジ。入門〜中級下位のシステム向けだったのかもしれないが素性はいい。ボディは共通で丸針、楕円針などバリエーションがある。システムステレオの高域、低域だら下がりのフルレンジや小型2Wayスピーカーで鳴らしたときに合うように高域と低域にアクセントが付いている。僕が中学・高校生時代に使っていたオートチェンジャーもこのカートリッジではないかと思う。決してワイドレンジでも高解像度ないが、音楽の聴かせどころが上手いカートリッジ。難しいことは抜きにすっと音楽に入っていけて、気がつくと聴き込んでいる。60年代〜80年代のロックやジャズだけでなく、古い録音のクラシックのオーケストラや声楽も雰囲気よく聴ける。フリージャズや前衛音楽が聴きやすくなるのが面白い。中域が充実していてロックの男性ボーカルがリアル。最新のリマスター音源や最新録音のアナログ盤でも音の良さを生かしながら、音楽的に充実した再生音となる。
写真でM44Gのマークがあるのは、M44G用に買っておいたシルバーハートのローズウッドのボディに変装しているため。プラスチックのケースを外したボディサイズがM44Gとほぼ同寸なので詰め物をして高さを調整すればそのまま使えた。ウッドケースにしたことでさらに低域の量感が増し音の品位も向上。高域の強調感や音抜けはAE-10とトーンコントロールで調整。今でも中古で1万円以下で出ることが多いので手軽に楽しめるカートリッジとしてお勧め。

項目名 内容
使用中の針 SHUREオリジナル楕円針、同丸針、JICO楕円針、同丸針
推奨設定値 47KΩ/400 - 500pF
AE-10設定値 23KΩ/330pF

M44G - ハイファイカートリッジの原器

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1963年に針圧1gでトレースするカートリッジとして登場したM44Gは、当時としてはステレオLP時代、ハイファイ時代の到来を告げる革新的な製品だっただろう。それから約50年間生産されたわけで、基本設計がいかに優れていたかがわかる。残念ながら初期型(カモメ)はちゃんと聴いたことがなく、販売終了間際に購入したものをシルバーハートの黒檀ウッドボディに入れ替えて使っている。初期型はコイルが手巻きで後に機械巻きになって音が変わったとか言われているが真偽のほどは不明。確かなのは、SHUREのカートリッジの特徴となる小型で強力な磁石は第二次大戦で開発が進んだレーダーシステムに搭載された磁石のテクノロジーが応用されていること。
黒檀ウッドボディに入れたM44Gは音が厚く深い音がして、ジャンルを問わずその鳴りを楽しむという使い方をしている。それはストリーミングでは味わえないこと。交換針もいろいろあって、JICOのN44はクッキリ系で音の輪郭がシャープ、個人的に好きなのはDiskUnionの赤い交換針で、ドライ過ぎず長時間聴いていても疲れない。純正針はその中間。レコードによって付け替えたりしている。音楽がドンっと前に出てくる迫力のあるカートリッジ。
AFE-10だと47KΩ/470pFが推奨だが、M44G特有のサシ音やシンバル、ハイハットが歪むときは23KΩに設定するとかなり抑えられる。レコードによっては23KΩ/330pFでもいける。最近M44Gは中古価格が高騰しているようだが、JICOが発売した互換カートリッジ JD44がどんなものかにも興味がわく。

項目名 内容
使用中の針 SHUREオリジナル円針、JICO丸針、DiskUnion丸針
推奨設定値 47KΩ/450pF
AFE-10設定値 47KΩ or 23KΩ/470pF or 330pF

閉じ込められた過去の時間を蘇らせること

この3年やってきて思うのは、やはり製品を鳴らし込んでいくが大事なこと。途中では「もう、これは全然ダメ!」というときも多くあった。そんときは「自分が好きな音、自分が求めている音は何だろう?」を自問自答してみる。わかったのは僕が求めているのは「目の前で演奏しているようなリアルな再生音でない」ということ。「この演奏家はこういうことがしたいのだろう、こういうことを伝えたいのだろうと、聴き手が想像を膨らませることができる音」、つまり聴き手である自分の解釈を広げることができる音。

レコードを聴くという行為は、閉じ込められた過去の時間を蘇らせることになる。作曲した本人や演奏した本人が亡くなっていたとしても、その間、音楽は鳴り続けることができる。今の時間に過去の時間が侵入し、聴き手はその2つの時間を同時に体験することになる。同じレコードを何度再生しても決して同じにはならない。カートリッジの再生音も同じではないだろう。そこにはいつも何かしら新しい出会いがある。

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