Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHURE M44G カートリッジの交換針聴き比べ - 個性派か中庸派か

SHUREの交換針聴き比べシリーズの最後はM44Gカートリッジ。

M44Gカートリッジとは

M44GはSHUREが1963年にリリースした当時としては軽針圧、ハイコンプライアンスのハイファイ向けカートリッジで、その堅牢な作りから近年はDJプレイ時のスタンダードカートリッジとして、DJムーブメントの発展にも大きな貢献を残している。半世紀に渡り生産された歴史的な工業製品といえるだろう。

そのサウンドは、レンジは限られるものの高音と低音にアクセントを付けて音楽の魅力をギュッと凝縮して聴かせるようなところがある。ただそのアクセントが、レコードとの相性でボーカルのサ行音やドラムのシンバルやハイハットの音がジッ、ジャという歪になることがあるのは避けられない。これは針圧を上げても解消しないので、相性の問題としてあきらめるのが一番。

しかし、それは繊細な音楽には向かないということではない。60年代、70年代に録音されたような古いクラシックのレコードにマッチしている。古い国内盤のオーケストラや室内楽のレコードが多数あるなら、中古価格も手頃だし持っていてもいいカートリッジではないかな。

3種類の交換針を聴き比べ

ここではSHURE純正品、国産JICO製、ディスクユニオン製のクリアレッドの交換針の3種を聴いてみる。条件を同じにするために、針圧は1.2gに統一。針先のプロテクターは外した状態で行った。

SHURE純正品(相場 7,000 - 12,000円)

まあ、標準的なM44Gの音。高音と低音にアクセントがあって活きいきとした音楽を聴かせてくれる。サウンドがドライでその乾いた音がいかにもアメリカンな印象をもたらす。Creedence Clearwater Revival や Allman Brothers Bandなどを聴くとなおさら。勢いがあるが、なんとなく歪っぽいというかハスキーなところもある。それが魅力でもあるのだけど。

JICO製 N44G (3,300円)

JICOの交換針は価格が手頃だが「安かろう悪かろう」ではなく品質もいい。丸針は寿命が500時間程度とも言われているので、手軽に交換して良い状態を維持できることが大切。この交換針の基本的な音調は純正針に近いがアクセントがさら強くなり、純正と比べると2、3割、音が大きい。

針を変えただけなのにボリュームを2目盛位上げたような印象。バスドラキックはズドンっと来るし、エレクトリックギターや電子楽器も前面出てきて、DJプレイやパーティーサウンドとしては最適だろう。この針へのDJの評価が高いのもうなずける。音量は大きいが解像度は悪くないし、この豪快なサウンドがマッチするアルバムなら普通に聴いても楽しめる。

ディスクユニオン製のクリアレッド N44G-CR (3,278円)

パッケージから想像するに、おそらくJICOでOEM製造されているディスクユニオンの交換針。赤いプラスチックが可愛い。この交換針の謳い文句は、

純正ではドライ過ぎる/歪みっぽいという方、こちらは中域に密度感があり、重心が下がった芯のあるウェットなサウンドです。幅広いジャンルでの再生をお求めの方に...

とある。

確かに、これまでの2種と比べるとおとなしいサウンド。それが原因で低い評価がされているブログ記事などもあるが、結局何を期待しているかの違い。オリジナル針の延長にある音を求めるなら、これではなくてJICOのN44Gを選択したほうがいいだろう。このクリアレッドの良さはM44Gを活かしながら、一般的なリスニングに適した方向にまとめたことにある。 レコードとの相性にそれほどうるさくなく、神経質なところもないので長時間聴いていても聴き疲れがしない。音楽の重要なツボは巧く再生してくれる。「中庸を持ってよしとなす」ということか。普通に家庭でアナログを楽しむならM44Gとこのクリアレッドの針があれば、何でも聴けてしまう気がしてくるほど。もう1週間ほど、この針でいろんなレコードを聴いているが、いい雰囲気で楽しんでいる。

針先を比べてみる

3つの交換針を並べてみた。左からSHURE純正、JICO N44G、ユニオン クリアレッド。ルーベで見ると針先のチップそのもののサイズは同じようだが、カンチレバーの長さと角度が違う。一見してSHURE純正はカンチレバーが長いし、立ち上がりも高い。JICOがその次で、ユニオン クリアレッドはカンチレバーの角度が低い。このあたりの設計の違いが音に出ているのだろう。

こうして聴き比べてみると、このM44Gの個性と性能に改めて感嘆する。半世紀に渡り多くのリスナーに支持されてきて理由がわかる。確かに高額なMCカートリッジならではのハイエンドな音世界もあるが、M44Gが聴かせてくれるグルーブやバイブは、ここでしか聴けない魅力的なものだ。残念ながら製造は止まってしまったが、これでアナログを聴く楽しみはこれからもずっと続いていく。

追記:2023/07/25

この記事を書いた当時とは状況がかなり変わってしまい、今では安価なJICOの交換針は入手困難となってしまった。JICOの無垢針シリーズかNAKGAOKの互換針となる。個人的には以下の記事で書いたNAGAOKAの交換針が今の所ベストの存在となっている。

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