Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

PandM RecordsのSHURE V15 Type3用交換針を試す - 「足るを知る」ことも大切

これまで何度もSHUREのカートリッジの交換針のことを書いているが、とっくに純正針が手に入らない状況ではサードパーティの互換針に頼らざるを得ない。以前はJICOという選択肢があったが、1万円、2万円以上の無垢針やSAS針ばかりとなると、そうそう交換ばかりもできないし。ほぼ毎日5〜6時間はレコードをかけている身としては、もう少しリーゾナブルな交換針があると安心できる。

M44Gは、NAGAOKAの交換針が好みにも合っていてよかったが、ウッドケース化したV15 Type3も普段使いでどんどん聴くとなると手軽な交換針が欲しい。それで今回チェックしてみたのが、PandM Records(ピーアンドエムレコード)のV15 Type3用の交換針の丸針と楕円針の2種類。Amazonでは、丸針が3,410円で楕円針が5,980円で販売されているので、どんなものか購入してみた。

ケースはこんなシンプルなもの。

針を並べてみる。左からSHURE純正楕円針、P&M丸針、P&M楕円針。

P&Mの方(右)がカンチレバーが随分長いので、アームのオーバーハングは再調整が必要。

丸針も楕円針も適正針圧は1.5g - 2.5gなので、針圧調整もやり直す。今回は共通に針圧2gとした。

VN-35互換(丸針)- 平凡なことは悪いことではない

それで取り付けようとして問題になったのは、この互換針の金属の挿入部分がやや細身の設計のようで、差し込んでも直ぐにすっぽ抜けてしまうこと。僕が使っているV15 Type3が針の差し替えの頻度が高いのですごく緩めになってしまっていることもあるのだが、これでは使えないので、カートリッジの針の差し込み部の上に小さく切った両面テープを貼って抜けない対策を施す。

まず音を出してみると安いからといって変な音ではなかったし、強い個性がある風でもなく、音量的にも特段大きいことはない。新しい針はレコードを3〜5枚再生して(針と人間の両方が)馴染まないとわからないことが多いので、まずはジャンルを問わずいろいろと鳴らしてみる。

聴きながら分かったのは、はやり中古で購入時に付属していた純正針や4年を経過したJICOの互換針は古くなっていたこと。雰囲気はあるが音がくたびれていた。再生音は針とカートリッジの組み合わせで生まれるが、これまでいろいろと互換針を聴いてきた経験では、「針5:カートリッジ5」という印象。針が変われば音は大きく変わってくる。その音をどう好みの方向にもっていくのが調整のしどころ。

さて、何枚も聴いていて音が曖昧でレコードの中盤で歪っぽくなる傾向があったが、どうやらオリジナル針に似せた針カバーが原因らしい。このプラスチックのカバーが緩くてぶらぶらしているので外したところ、音像がずっとシャープになってきた。この互換針は針カバーなしがいい。

丸針は、あまり神経質なところがなく気持ち良く聴ける。3,410円ならすごくお買い得かも。「Marrying Maiden / It's a Beautiful Day」のバイオリンは艶があるし清涼感のあるリバーブ処理もきれいに再生されて、灼熱の午後にはホッとする。ボリュームを上げればボディ感も充分にある。ただ、飛び抜けて「ハッとする」ようなことはなく、いつまでも聴いていられそうな平凡な音。鋭く音楽に対峙するようなことは一切ない。

「Patto」ような一風変わったグループのアルバムも、難なく聴けてしまうのは面白い。個性的なボーカルも破綻しない。凡庸ながらカジュアルでレコードの違いを正直に出す大人のサウンド。

VN-35E 互換(楕円針)- 純粋に音楽を楽しめる

純正のMR針を真似たような赤いボディの楕円針。これも針圧は2gで針カバーは外して使う。これもまず数枚のアルバムで針をエージングしてみる。

楕円針らしい音というか、こちらの方が低域から高域まで聴感上のレンジも広く、音の細部もよく出ているし低域の押し出しもよく、価格を考えると丸針以上にお買い得感がある。若干高域にアクセントが付くが、僕が使っているアームやアンプのせいかもしれない。トーンコントールで調整が可能な範囲。

「Taiga / Zola Jesus」のような緊張感の高いボーカルのテンションも伝わってくる。意外とエレクトリックサウンドの表現はメリハリが効いて現代的。総じてレトロな方向ではないので、現代の音源の再生にも向いている。

久しぶりに聴いた「Soon Over Babaluma / Can 」は、エスニック風なリズムの刻みが心地よく響く。予備知識一切なく白紙の状態でこの再生音だけ聴いたら、音楽を楽しめるいいカートリッジだと思うだろう。

レコードを好きなだけ日常的にターンテーブルにのせられること

こうした低価格の交換針のメリットは、なんと言っても、レコードを好きなだけ日常的に聴けること。このPandM Recordsの交換針は、軸が細身なので針交換を頻繁に行なったカートリッジだと抜けないように工夫が必要だけど、カジュアルに気軽にレコードをターンテーブルにのせて、それでいて充分音楽を楽しめるのは嬉しい。「足るを知る」ことは意外と大切な気がする。


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