Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHURE V15 Type IVをType IIIの交換針で聴く - AC3000MCのストレートアームを復活

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山本音響工芸のツゲ材ヘッドシェルに取り付けて聴いていたShure V15 Type IV、どうもJICO製の楕円針が寿命なのか、最近音の伸びいまひとつ。Type IV用にJICOのSAS針を注文しようかとも考えたが、それも当たり前過ぎるしな....と考えて時間が過ぎていたところで、ターンテーブルシートをアコースティックリバイブのものにして、銅板シートと重量級スタビライザーをやめたりとプレーヤの周りもいろいろ変わってきているので、もう一度AC3000MCのストレートアームを使ってみようか、という考えが浮かんできた。ストレートアームならハイコンプライアンスのカートリッジ向きなので、Shure V15 Type IVを取り付けてみたところ、これがなかなか良かった。

Type IVにType IIIのS楕円針を取り付ける

まずType IVをストレートアーム取り付けて聴いてみたところ、ストレートアームならではの正確な表現というか曖昧なところがない。プレーヤーやアナログ周りの調整も進んでいるので、1年前よりはずっと音もよい。ただ針のせいなのか、今ひとつ音楽に躍動感がない感じがする。

そういえば、本来Type IVは楕円針のみの仕様だが、Type IIIの交換針が使えるという記事があったのを思い出したので試しにやってみることに。まずは、これもJICO製のTypeIII用のS楕円針があったのでType IVに取り付けてみる。交換針を入れる角度に注意すれば、ボディ幅が同じようでピッタリと収まりがたつきもない。

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この写真の左がブラシがついたType IV用で、右がType III用のS楕円交換針。形状や幅は同じなことがわかる。

針を取り付けたら、針圧1gに調整してレコードを再生してみる。

音楽を品良くまとめて聴かせるS楕円針

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同じ針をType IIIで聴いていたときよりも弦楽器に艶があり、コントラバスなどの低音もしっかりしている気がする。分解能が高いのはストレートアームの効果なんだろう。再生音の品が良く、音楽的に上手くまとまっている。音楽の熱度はType IIIが勝るが、Type IVが軟弱ということではない。音楽に芯があり出音に花があり、音楽性も悪くない。

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ECM系はどれもいいが、アルヴォ・ペルトの『受難曲』のようにテーマが深いものでも、暗く落とし込むのではく、むしろコーラスやアンサンブルに浄化された力がある。SHUREのカートリッジは米国製のカラーなので総じて音色は明るい。それが僕がSHUREが好きなポイントなのかも。暗い音楽は好きだが、それを暗黒化するのではなく、そこからの光へ向かうような方向が。

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このクセナキスのアルバムは、70年代後半に日本コロンビアから1500円で出ていた現代音楽シリーズの1枚。カバーデザインシンプルには黒地に銀文字で統一されていた。このレコードは優秀録音で、楽器の分離はもちろん、余韻や前後左右の定位も広く、クセナキスの音楽の特性がよく理解できる。良い録音は作品への理解を深める典型例。クセナキスの音楽の美的側面が伝わってくる。

メリハリをつけた再生音の丸針

以前書いたようにType IIIには丸針もある。Type IVは本来楕円針の組み合わせだが、丸針も試してみる。S楕円針と比べると高域の伸びや抜けは控えめになるが、その肉厚な音になる。

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ブルースギタリスト Roy Buchanan のポリドールからの1枚目。このレコードは彼のポートレートと名前のフォントによるシンプルなデザインが印象的。このカバーだけで音楽が聴こえてきそう。これはAB面の組み合わせの問題なのか何故かB面のみStering 刻印のある米国盤で、確かにB面は音がいい。このB面はサイケデリックなところもあって「ピーターのブルース」や「メシアが再び」でのギターは単なるブルースとはちよっと違う。Type IVで聴くとそうした面が強く出る。M44Gだともっとブルースっぽい。

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Pere Ubuの1978年のデビューアルバム「Modern Dance」。米国インダストリアルロック、アバンギャルドロックのトップランナー。おそらく低予算のレコーディングだったと思われるが、それが幸いして音の鮮度が高い。大きな音で再生するとバンドが目の前で演奏しているようなリアリティがある。 時おり頭の中が爆発するような音楽。

緻密な世界となるSHURE純正MR針

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これは最近手に入れた TypeIII用のSHURE純正のMR(マイクロリッジ)交換針。MR針は針先が微小曲率半径となっていて、レコードの溝の深くまで入り溝の状態を正確にトレースする能力を備えている。JICOだとSAS針がこのクラスに相当する。

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Tangerine Dreamの3枚目のアルバム「Atem」のOhrオリジナル盤。このリリースの後でグループは当時新興レーベルだったVirginレーベルに移籍して「Phedra」のリリースでグローバルに注目を集めることになる。この「Atem」でメロトロンがメロディラインを担い、シンセサイザー、シーケンサーがビートとリズムで空間を埋めるというスタイルが確立され、Stratosphereまで続いていく。音質的にはA面全体を占めるタイトル曲の『Atem』がいい。音の霧が部屋の中にただよってくる。

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「MOHAWK」はNew York Art Quartetによる1965年の録音。フリージャズといってもパワープレイが激突するような演奏ではなく、アンサンブルの絡みの妙に耳が向く。特に Milford Gravesのドラムは圧巻。これ見よがしなプレイはまったく感じさせずに、非常に複雑なリズムを生み出している。MR針での再生音はリアルであるだけでなく、音楽の内面が伝わってくる。これを聴いてしまうと、すぐには最初のS楕円針には戻れない。

純正楕円針がついた初期型のV15 TypeIIIを手に入れてから感じていることなのだが、SHUREのカートリッジは純正の針で聴かないと分からないところがある。JICOの互換針も頑張っているというか悪いものではなく、それだけを聴いていれば解像度もあり出音もいいものだが、やはり音楽的なまとまりや表現力では純正針が優っている。JICOで最近シリーズ化されたジャス喫茶「ベイシー」監修の針だとまた違うのだろうか?

SHURE V15 Type IVがお気にりになってきた

ここ数日、ずっとType IVにTypeIIIの交換針で聴いていると、どんどんこのカートリッジが心地良くなってきて、「このレコードはどんな感じに聴こえるのか?」と次々にターンテーブルにのせていって際限がない。僕の好みがこの機種違いの交換針の組み合わせにぴったりハマったのだろうか。M75EBやM44Gの前に押し寄せるようなチカラのある音も魅力的なのだが、Type IVの品の良い音楽的なまとまりが、今の自分にフィットしているのかもしれない。カートリッジが決まると、聴く音楽の種類も特定の方向にまとまっていくが、それが面白かったりする。

今はこうでも、しばらくしたらM75EBでパンクばかり聴く別の自分がいるかもしれないし....。

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