Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHURE V15 Type3 初期型と後期型の何が違うのか? - 音楽の熱度が高い初期型

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SHURE V15 Type3(III)は1973年から1978年にかけて製造され70年代に黄金期を築いたフォノカートリッジで今でもファンが多い。僕も数年前に手に入れて愛用している。SHUREのカートリッジで必ずあるのが初期型信仰。M44Gだとカモメマークが印刷されている米国生産のものがあり、V15 Type3だと正面がツルツルになっている鏡面仕上げが初期型として珍重されている。

その鏡面仕上げの初期型V15 Type3がSHUREオリジナル針付きでハイファイ堂で販売されていたので、興味が湧いて購入してみた。ハイファイ堂でカートリッジを購入すると、こんなピラミッドパワー(?)の梱包で送られてくる。ちなみにオーディオユニオンだと発泡スチロールをくり抜いた中に入っている。それぞれお店の個性があって面白い。

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注意:以下にV15 Type3の初期型と後期型の比較の印象を述べるが、いずれも40年以上前の製品で、これまでの使用状況や保管状況によってコンディションも変わってしまっている可能性もあるので、あくまでも著者が所有した個体の状況に基づくものであることをご理解いただきたい。

初期型と後期型を比べてみる

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二つを並べてみた。今回入手した初期型(左)は外観がきれいで傷もすくみもなく、良い状態で使われたように思える。交換針もしっかり挿さっていていて遊びがない。この点は、所有している後期型の交換針が緩いのとは対照的。本体の重量は針なしで6gと同じだった。

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この初期型の純正楕円針は初めて見るが、カンチレバーの曲がりはなくルーペで見てチップもきれいな状態だった。JICOの交換針と並べてみると左の純正針のカンチレバーは右のJICOのものより随分短い。これだけ長さが違うと音質もかなり異なるだろう。

ヴィンテージオーディオは鳴らし込みが大切

カートリッジに限らず、アンプでもスピーカーでも、ヴィンテージものは買って来て自分のオーディシステムにポンと組み入れてすぐは、その素性の概要を知ることはできてもいい音で鳴ることはほとんどない。長いこと使われていなかったり、別の組み合わせの中にあったわけだから、自分のシステムの中に入れて時間をかけて充分に鳴らし込んであげることが大切だ。

カートリッジなら以前紹介したCardasのバーンインレコードは効果的で、30Hzから30KHzのスイープ信号を何度か再生してダンパーを動かしたりコイルに電流を通すことでほぐれてくるし、ポラリティチェックなどをやるとコンディションに問題がないかもわかる。

後は普段自分が聴いているレコードをひらすら再生する。そこから先はその製品と新しいオーナーの対話みたいなもので、製品の音質を聴きながらセッティングを調整していく。そうしているうちに自分の耳も慣れてくるし、その製品の魅力を活かしながら気持ちよく鳴るスイートスポットを探り当てる。このプロセスは何日も何週間もかかることもある。根気よく続けるしかない。

この初期型V15 Type3も、最初は中高域が硬くてナローレンジ気味で低音はあまり出てないし、ドライすぎるような再生音だったが、バーンインしてから20枚以上いろんなジャンルのレコードを再生しながら調整することで、だんだんとほぐれて僕のシステムの一部に溶け込んでいい雰囲気になり、音が伸びてがぜん調子がでてきた。

初期型は音楽の熱度が高い

この初期型は後期型と比べる帯域は抑えられた感じで中域にすこしアクセントがあり、それでジャズだと、サックスやトランペットの音が勢いよく前に出てくるし、ロックだとギターがソリッドにバリバリと全面に出てくる。ボーカルもリアルで説得力がある。ワイドレンジで高解像度なハイファイではなく、音楽の熱度が高く、音楽的表現が濃くなり、聴き手に迫る人間臭いところがある。なるほど、この初期型を愛用する人の気持ちがよく分かる。

この初期型に比べたら、後期型はずいぶん大人になった感じで、フラットでハイファイ度が高いオーディオ的に優等生的な音に変化している。おそらく、後期型はV15 Type3(楕円針)、V15 Type3 HE(S楕円針)、V15 Type3 G(丸針)とバリエーションを増やすために何かしら変更があったのだろう。試しにJICOのS楕円の交換針を初期型に付けてみると高域が伸びて解像度も若干向上するが、このカートリッジの持ち味とは少し違う。やはり純正楕円針があっている。

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レコードを演奏する?

最近、「レコード演奏家」という言葉があることを知ったが、レコードも随分と地位が上がったものだ。僕はとても「レコードを演奏しています」とは言えないが、こういう音楽のスピリットをぐっとわしづかみして聴かせるようなカートリッジに出会うと、レコードで音楽に触れるのは本当にユニークな体験で、繰り返しても新たな気づきがあり、飽きることがない世界であることを再認識させられる。

shigeohonda.hatenablog.com

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