Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

SHURE M44Gカートリッジを木製ハウジングに入れ替える - 自然な響きを聴かせてくれる

f:id:shigeohonda:20200718183440j:plain

SHURE M44Gカートリッジは今更説明が不要だろう。近年はDJプレイ用として人気だったが、本来は1960年代に手頃なステレオ向けハイファイカートリッジとして発売されたもので、製造は終了したが登場から50年以上経った今でもそのエネルギー感溢れるサウンドは広く支持されている。

僕もこのM44Gを販売終了間際に購入して愛用している。このブログでも交換針の種類を変えての音の変化を楽しむ方法を紹介したこともあるが、そのM44Gのカートリッジを木製のハウジングに入れ替えて楽しむという記事をオーディオ雑誌で見かけて面白そうなので試してみた。

Silverheartのウッドハウジングキット

M44Gの木製ハウジングにはいくつか種類があって、カートリッジにボディ全体を覆ってしまう製品にも興味が湧いたが、ヘッドシェルを含めた重量が重くなることとカートリッジの上下サイズが高くなってしまうので、カートリッジを変えると都度アームの高さも変えないとならないのが難点。

それで今回選んだのはSilverheartのウッドハウジングキット。材質はローズウッドと黒檀から選択でき、オリジナルのM44Gと重量もサイズもほとんど同じになるように設計されている。その分、木で覆う部分は小さめになるが、それでも前面とトップ、サイドも1/3程度は覆われるので効果はありそう。今回はヘッドシェルもカーボンから山本音響工芸の黒檀ヘッドシェルに付け替えてみた。先にオリジナルのままで黒檀ヘッドシェルに取り付けた印象は、荒っぽさが控えめになり落ち着いた方向になる。Silverheartの木製ハウジングキットも黒檀を選択。価格はハウジングキット6,100円+送料500円。

f:id:shigeohonda:20200718184401j:plain

到着したパッケージを開けると次のものが入っている。必要なものが基本的に揃っているのは親切。

・M44G用ウッドハウジング
・取り付けネジ
・分解用のヘラ
・ボンド
・分解、組み込み手順書

他に、次のものを用意しておくとスムースに作業を進められる。

・ベンジン (必須)- 分解後に接着剤のカスを除去するのに必要
・カッターナイフ(必須)
・精密マイナスドライバー(推奨)- 接着剤が硬いときにこじ開けるため
・小さい輪ゴム(接着固定用)

木製ハウジングの組み込み作業

f:id:shigeohonda:20200718183527j:plain

カートリッジから針を外し、ヘッドシェルからも外す。この作業のコツは力まかせでやったり、焦ったりしないこと。ゆっくりやっても40分程度の作業なのでのんびり進めていこう。

f:id:shigeohonda:20200718183707j:plain

カートリッジの側面に、カッターや付属のヘラを入れて上部の接着からはがす。まあ、実際にはがれているかどうかは分からないので、上部にごくわずかな隙間ができればOK。

f:id:shigeohonda:20200718183733j:plain

次は上部の隙間にカッターナイフをゆっくりいれて広げたら、付属のヘラを入れてグリグリと広げていく(左)。僕のM44Gは接着が強力なのかヘラだけでは中々はがれていかないので、精密マイナスドライバーを突っ込んでゆっくりとはがして行った(右)。

f:id:shigeohonda:20200718183752j:plain

はがした直後の状態(左)。本体側に白く接着剤が残っているので、ベンジンを染み込みませたティッシュを交換しながら丁寧に拭いて接着剤カスを取っていく(右)。カスが残っていると新しい黒檀ハウジングへ密着しないので完全に取り切ること。

f:id:shigeohonda:20200718183809j:plain

そうしたら、木製ハウジングに接着剤をつけてM44G本体を圧着する。接着したら輪ゴムで固定して4時間程度待つ。接着剤は付けすぎないこと。僕も少なくしたつもりだったが、それでも圧着したら少しはみ出してきた。それは接着が乾燥した後でまたベンジンで拭き取ること。

接着材が乾燥したらヘッドシェルに取り付ける。僕がやった感じでは、接着4時間後よりも一晩おいた方が、さらにもう1日過ぎた方が音の変化はしっかりと感じられた。

木製ハウジングのM44Gの再生音はいかに?

f:id:shigeohonda:20200718183846j:plain

このハウジングば正面に「M44G」の刻印が、サイドには針圧の「1.5g」と入っており、デザイン的にもまとまっている。さて、そのウッドハウジングの再生音はどうかと言うと「ずいぶん大人になったM44G」。毎日夜遊びばかりしていた放蕩息子が定職ついて真面目になったかのよう。僕はこの変化は大歓迎なのだけど、オリジナルのM44Gの粗っぽいが野放図に鳴るのが好きだと方向が異なるかも。ざっと以下のような変化。

  • 全体として「ざわっ」とした感じがなくなり背景が静か
  • 全体に(痩せることはなく)シャープなり、低音のベースやドラムがはっきりするので低音が伸びたような印象
  • ボーカルが自然な感じで、歌詞も聞き取りやすくなる
  • エレクトリックギターやピアノなどのアタックが鮮明に
  • アコースティック楽器が意外といい(余分な強調感が減少したためか)
  • 熱い演奏を熱く表現するのは変わらず
  • あるレンジの中で、音楽をギュッと凝縮して密度濃く聴かせる
  • ボリュームを上げてもうるさい感じがしない。むしろボリュームを少し上げた方が音がいい

元のプラスチックのケースから木製に入れ替えたことで本来のポテンシャルが充分に発揮されたよう。ただ、レコードとの相性があってボーカルのサ行やシンバルやハイハットの音が歪んだ音になるのは変わらず。また当たり前だが、木製ハウジングの入れ替えでM44Gがハイファイ調にワイドレンジなるとか、解像度が一気に向上するとかいったドラマチックな変化はないので、そういった過剰な期待はしないように。あくまでも、M44Gのキャクターがベースでその味付けや表現を調整してくものになる。

いろいろと聴いてみる

Brian Auger's Oblivion Express / Straight Ahead (米国盤)

f:id:shigeohonda:20200718184001j:plain

英国オルガンプレーヤー、ブライアン・オーガーのグルーヴ感溢れる1974年のアルバム。ここではハモンドオルガンだけでなく、フェンダーローズ、ムーぐなど多彩なキーボードプレイをジャージーでファンキーなサウンドをバックに聴かせてくれる。こうした音楽はM44Gの真骨頂。ややドライな音質のマスタリングだが、この改造でリズムのキレの良さや細かいパーカションの動き、音楽の熱度がさらに鮮明に伝わってくる。ライブのPAサウンド的な心地良さ。

ヘルムート・ヴァルハ / バッハ 半音階的幻想曲とフーガ(日本盤・赤盤)

f:id:shigeohonda:20200718184021j:plain

ヴァルハは、20世紀の偉大なオルガン、チェンバロ奏者。盲目というハンディを全く感じさせず、むしろバッハへのより深い音楽的解釈の演奏は今日でも色褪せない。この1960年代前半と思われる古いプレスのレコードはM44Gに合う。M44Gは60年代、70年代のプレスのクラシック、特に古い録音のものとの相性はいいように思う。程よいレンジ感と高域のアクセントが音楽に輝きと生命感をもたらすのだろう。それはこのチェンバロの演奏にも言えている。

Charles Mingus / The Great Concert of Charles Mingus(米国盤)

f:id:shigeohonda:20200718184050j:plain

もちろんジャズもいい。エリック・ドルフィー在籍時のチャールズ・ミンガス6重奏団の1964年の欧州ツアーを収めた3枚組のアルバム。ミンガスのベースも、ドルフィーのアルトサックス、バスクラリネットも生々しい。黒檀ハウジングの良さを一番感じさせる。いつの間にか演奏に引き込まれる。

こうして聴いてみると、改めてM44Gの素性の良さと木という自然の素材の素晴らしさに感嘆する。最近、ハイエンドのMCカートリッジでもいろんな種類の木製のハウジングを採用するものが少なくない。技術の進歩で加工精度が上がったこともあるのだろうが、オーディオが成熟した趣味の世界になって特性よりも再生される響きに重きが置かれるようになってきたのだろうか。

個人的には、もう一つ中古のM44Gを入手して、ローズウッドのハウジンでツゲの木製ヘッドシェルを試してみたいものだ。

参考リンク

silverheart-analog.com

shigeohonda.hatenablog.com


© 2019 Shigeo Honda, All rights reserved. - 本ブログの無断転載はご遠慮ください。記事に掲載の名称や製品名などの固有名詞は各企業、各組織の商標または登録商標です。