Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Ultravox! / Ha!-Ha!-Ha! - ささくれた心に染み込むサウンド

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70年代英国パンクロックムーブメントというと、Sex Pistols が余りにも有名だが、ピストルズはファンションブティックのオーナー、マルコム・マクラーレンが仕掛けた所謂ブランドアンバサダーを目的とするロックバンドを出自としているのに過ぎないのではないか。彼らはその任務を悲劇的なまでに果たしたとも言えるが。ニューヨークパンクと比べてロンドンパンクは音楽的なムーブメントではなく既存の体制に抵抗するアティチュードとしてのムーブメントであり。それゆえ、音楽的にはバラバラで、実験性に富んでいて刺激的だった。

そんな中で僕が特に影響を受けたアルバムは、

  • Stranglers / Black & White
  • Siouxsie & The Banshees / 1st
  • Wire / 154
  • Gloria Mundi / 1st

そして、この Ultravox! の 『Ha!-Ha!-Ha! 』がある。

ジョン・フォックス(John Foxx)率いるウルトラボックスは1977年2月のファーストアルバムに続いて1977年10月に本作『Ha!-Ha!-Ha! 』をリリースする。 ファーストアルバムはイーノとスティーブ・リリーホワイトの共同プロデュースで話題になったが、このセカンドはスティーブ・リリーホワイトの単独プロデュース。彼にとってはピーター・ガブリエルのサードアルバムと並ぶクオリティではないかと思う。

ウルトラボックスはシンセサイザー、キーボード、バイオリンが重要なパートを占めるプログレッシブな編成であり、他のグループに比べて音楽的にも洗練されていた。ただそれがファーストアルバムでは弱点でもあり、熱心な一部のファンを獲得したもののパンクロック的な激しさや強度には欠けていた。

それでこの『Ha!-Ha!-Ha! 』では、音楽的な強度をギリギリまで上げる実験だったのかもしれない。このアルバムの持つ激しさ、焦燥感は別格で、ベルベットアンダーグラウンドの『 White Light White Heat』にも匹敵する。なんといっても本作のハイライトはスティーブ・シェアーズのギタープレーで、フィードバックを多用し、次から次へと彼が刻むソリッドなリフとコードワークが前のめりに突っ込みそうになりながら曲を牽引していく。空間を飛び交う独特のドライなシンセサウンドがサウンドに厚みをつけ、叫ぶジョン・フォックスのボーカルも説得力がある。彼がこれほど叫ぶアルバムは他にはない。

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1曲目の『ROckWrok』こそ、いかにもなパンクロックチューンだが、2曲目の『The Frozen Ones』から世界は一変して7曲目の『While I'm Still Alive』までノンストップでハイエナジーなナンバーが続く。それが、あの1977年という行き場のない「NO WAY OUT」な時代に激しく共振している。リリースから40年以上を経た今でもこのアルバムを聴く度に、そのバイブレーションが鮮やかに蘇ってくる。それは普遍的な感覚なのかもしれない。

『While I'm Still Alive』が終わると、ローランドのリズムボックスの音で『Hiroshima Mon Amour』が始まる。マルグリッド・デュラスの原作かアラン・レネによる映画『24時間の情事』からインスパイアされたのか、ゲストのGloria Mundiのメンバーによるサックスはロキシー・ミュージックを思い起こさせるメロディを奏でる。この曲は最初のシンセポップと言われるが、同じ時に海の向こう側のニューヨークでリズムボックスとチープなシンセの二人組のスイサイド(Suicide)がパンクスを煽りながら演っていた『Ghost Rider』や『 Frankie Teardrop』と比べるとなんと優雅なことか。結局、ジョン・フォックスは『Ha!-Ha!-Ha! 』のような音楽をやり続けるにはロマンチスト過ぎたのだろう。

つい最近 Apple Musicで聴いて知ったが、『Ha!-Ha!-Ha! 』のリマスターCDには、バンドバージョンの『Hiroshima Mon Amour』が収録されている。ジョン・フォックスはヒステリックなバイオリンのリフレインで始まるダイナミックなバンドバージョンをボツにして、このリズムボックスとシンセサイザーサウンドのものを最後に入れただろう。ファーストアルバムの『My Sex』と同じ流れにしたかったのか。ただ、僕にはこのバンドバージョンの『Hiroshima Mon Amour』こそが、この『Ha!-Ha!-Ha! 』の締めくくりには相応しかったと思う。

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*ファーストアルバムのジャケット。一番左がギターのスティーブ・シェアーズ。中央がリーダーのジョン・フォックス。

この『Ha!-Ha!-Ha! 』のツアーの後で、ギターのスティーブ・シェアーズは「音楽性に限界がある」という理由でバンドから解雇され、後任にはロビン・サイモンが加わりバンドは西ドイツのコニー・プランクのスタジオで3作目の『Systems Of Romance』を完成させる。ファンからは傑作との評価も高いが、内容はファーストアルバムの延長線上に発展させたもので、さらにエレクトリックなサウンドの比重は高まりヘビィなサウンドになっているが、そこには『Ha!-Ha!-Ha! 』のかきむしられるような高揚感はなく、ロビン・サイモンのギターはそつなく、そのサウンドに一部に収まっていて、洗練された大人の音楽として安心して聴けるものになった。しかし残念なことに商業的には大きく成功することができず、より個人的にシンセサイザー、エレクトロニックサウンドを追求したいジョン・フォックスはバンドを去っていく。

そして、ウルトラボックスはミッジ・ユーロが加入して全く別のロックバンドとして80年代に大成功を収める。もう、僕が聴くことはなかったが。

Ha!

Ha!

  • アーティスト:Ultravox!
  • 発売日: 2015/07/21
  • メディア: CD


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