Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

The Bridge / Thomas Leer & Robert Rental - エレクトリックでモノクロームな世界

1979年のリリースされたダークウェーブ、ダークアンビエント、インダストリアルテクノの原点とも言えるアルバム。この作品の影響を受けた人も少なくないだろう。最近リイシューされて入手しやすくなったのはよかった。ストリーミングでも聴けるようになってきている。

Thomas LeerはCanや初期Krafrwerkなどのクラウトロックから影響を受けたシングルを自主リリースして一部で脚光を浴び、その余波をかってThrobbing Gristelが主催するIndustrialレーベルと契約し、8トラックのレコーディングシステムの貸与を受けてRobert Rentalと二人で制作したのが、この『The Birdge』というアルバム。

全編二人のシンセサイザー、エレクトロニクス、テープループによる演奏で、曲によってはエレクトリックギターも入るが、ベースやドラムはなく、リズムマシンはホワイトノイズをフィルタリングするシーケンサーで代用している。 アナログテープの8トラックでダビングを繰り返してレコーディングされたからだろう、音像がぼやけていて音が溶け込んでしまっているのも、このアルバムの魅力の一つ。全体がモノクロームの音楽になっている。

レコードのA面はボーカル入りの楽曲、B面は一転してインダストリアルダークアンビエントな作品で構成されている。
特にオープニングナンバーの「Attack Decay」はフェーザーがかかったホワイトノイズが印象的でThomas Leerのポップセンスが効いて、シングルカットすればヒットしただろう。
2曲目の「Monochrome Day's」は、ディストーションギターのカッテングがアクセントになり、後のGary Numanにも影響を与えていそう。
3曲目以降は、もっとダークなインダストリアル色が濃くなり、この曲以降が僕の好みではある。

B面のインストゥルメンタルは、Tangerine Dream的なシンセサイザーの扱いではなく、OrbやTim Heckerに近い音響的なアプローチで、声や現実音とミックスするミュージックコンクレート的な趣もある。このB面の雨上がりの霞んだ朝のような音の感触は今聴いても古さを感じない。

この二人のユニットは単発で終わり、Thomas Leerはソロでシンセポップ路線のアルバムをリリースし、一時期はZTTレーベルのドイツのグループ「Propaganda」の女性ボーカルとユニットを組んだこともあるようだ。

本作の路線を引き継いだのは、Robert Rentalの方で1980年リリースのシングル「Double Heart / On Location」は、いつ聴いても新鮮。ただ残念なことに2000年に癌で亡くってしまった。

この時期を境に、Human League『Reproduction』、John Foxx『Métamatic』、Gary Numan『Replicas』、Throbbing Gristle『20 Jazz Funk Greats』、Cabaret Voltaire『Mix-Up』など、インダストリアル、エレクトロニカ、ノイズは一気に広がっていく。1979年はちょうどその曲がり角だったのかもしれない。


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