Sound & Silence

音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Tim Hecker / RAVEDEATH 1972 - 黙示録の時代の音楽

日本では元旦の地震の後は大雨による洪水という被害にあった地域があり、世界では対立する軍事組織を壊滅させるために数千台のポケベルやトランシーバーを遠隔操作で一斉に爆破するという、スパイ小説かハリウッド映画のプロットのような現実とは思えない対人攻撃があり、続いては大規模な爆撃でその指導者を、そして市民を巻き込んで殺戮する。一方の善はもう一方の悪であり、憎悪のループには巨大な遠心力が加わり、もう誰にも止めることができない。

そんなニュースが続く中で、音楽のブログなんか書いていていいのか? と自問する気分にもなってくる。

大規模な自然災害や戦争、紛争がもたらす大きな禍は、多くの人命が失われるという直接的なものだけでなく、長い時間をかけて蓄積されてきたインフラや文化、コミュニティ、教育が失われてしまうことにある。もう、メディアから忘れ去られたような、シリア、イラク、アフガニスタン、内戦が続くアフリカの国々で続いていることは、統治機能、生活インフラや医療システムを十分に復旧できないため大人は長生きすることができず、子供は適切な教育を受けるチャンスを失い、社会を機能させるために必要な広範囲な知識が失われ、文化は崩壊し、全体がスラム化する負のループに落ち込み、元の状態に戻すのは極めて困難なものとなってしまっている。

そして日本を含め、世界の政治も混沌としている。独裁者かポピュリスト。右も左もやることは紙一重。中央から地方まで、政治家は能力のある人が選択する職業ではなくなってしまったらしい。そしてメディアに登場するのは、有権者を愚弄するコメンテーター。

それでも確実に自分にできることは、ただ一票を投じるのみ。

RAVEDEATH 1972

この2011年にリリースされたアルバムのことは知ったのはずいぶん後で、2015年ごろだったと思う。最近、アナログ盤での再発があったので手に入れた。 最初はビルの上からアップライトピアノを投げ落とそうするジャケット写真に強い興味を覚えた。このピアノを投げ落とすのは、学生のイベントのようなものだったことは以前もブログで書いた通り。

shigeohonda.hatenablog.com

その音楽は、ダークでノイジーでありながら、その背景にある音楽は妙に切なく聴くものの感情を揺さぶるところがある。その理由は制作手法にあるようで、元はアイスランドの教会のパイプオルガン、ピアノを演奏して録音した素材をデジタル処理するプロセスでディストーションで歪ませて変容させ、断片化して、独自のサウンドスケープとして再構築される。後年リリースされた元の状態のピアノ演奏のリリカルでメランコリックなところは破壊され、その香りだけとなる。

僕の中ではこの種の音楽は、「ポスト9.11の音楽」という位置にある。今、世界で起きていることの全ては、あの9.11 が起点になっていないか。黙示録的な世界への入り口だったのでは。


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