最近気になっていたレコードを偶然見つけた。それはMolchat Doma の『Monument』。このグループのことを知ったのは、YouTubeのおすすめに表示されたこのビデオを見たことがきっかけだった。
チェルノブイリの跡地を思わせる共産主義を象徴するような無機質で荒涼とした風景を撮影した映像が続く、そこにレトロなシンセビートとイアン・カーティスを思い出させるロシア語の歌声が重なってくる。なんとも言えない虚無感や絶望感が静かな波のように押し寄せて来て強い印象を残していく。
そのノスタルジックなサウンドから1980年代〜90年代の東欧のグループだとばかり思っていたら、なんと今のグループだった。40年遅れでやってきたシンセ、ゴシック、ダークウェーブ、ダンス…ということ。当時を知る者としてはすごく奇妙な気分になる。
ベラルーシ出身のグループ、Molchat Doma
このMolchat Doma(「沈黙の家」の意)は、ベラルーシで2017年に結成されたグループで、2020年に米国Scared Bones Recordsと契約してグローバルリリースとなったのが本作『Monument』 となる。メンバーはEgor Shkutko (ボーカル)、 Roman Komogortsev (ギター、シンセ、ドラムマシン)、Pavel Kozlov (ベース、シンセ)のトリオ。
どうもベラルーシ国内ではあまり有名ではなく、その周辺国の方が人気があったようだ。グローバルに注目を集めるきっかけになったのは、前記したようなミュージックビデオがYouTubeで人気集め、TikTokで投稿で楽曲が使われたり、bandcamp.comでアルバムが話題になったりと、ソーシャルメディア、インターネットメディア時代のグループ。すでに3枚のアルバムをリリースしている。
ノスタルジックなサウンドの秘密はその使用楽器で、古いMoogはもちろん、KorgのPolysix、MS-20、RolandのJuno-2、Yamaha DX7、ドラムマシンはLINNというビンテージ機材ばかり。リバーブのかかったギターのアンプはRolandのJazz Chorusというこの種の音楽をやるには万全の体制。それに彼等のこうした音楽への深い共感と憧憬があることが重要なポイントになっていそう。
iOSの翻訳機能でロシア語の意味をつかむ
どんなことを歌っているのか興味が湧いてもロシア語はわからないので、そこは最新のiOS16をインストールしたiPhoneの翻訳機能を利用してみる。カメラで撮影して画像の文字を翻訳にかけみる。
これが元の画像
翻訳処理をすると、このようにロシア語の部分が英語に変わる。このテプラを貼ったような処理が妙にパンクな感じで雰囲気に合っているのが可笑しい。タイトル右側のベラルーシ語は翻訳エンジンの対応外なのだろう。
歌詞カードも同じように翻訳できる。オープニングナンバーの『DROWN(溺れて)』を英語に翻訳してみる。
上が元画像で、下が翻訳。歌詞はこんな意味。
どうして僕の肖像を壁に描くんだ?
その汚れた冷たいキャンバスの上に
皆、その絵がけっして乾かないことを知っている
でも、それでしか、この汚れた冷たいキャンバスを隠すことができない
叫べ、次の壁に隠れて、ノックするんだ
窓ガラスが砕け散ることはなく
ただ白い壁
僕の姿だけ
11月の最後の日、空は僕等の頭上ある
僕等はここで炎の中で溺れる歓喜に包まれる
今までないほど
1秒ごとに時間をカウントする
神は出現は審判の日の誕生の時には遅すぎた
苦悶と恐怖を通り抜けて断崖にたどり着いたら、
僕は繰り返し言うだろう
「君と一緒なら僕の世界は時を刻む」と
僕を許すな
何が起きたかは忘れることだ、戻ることはできない
僕を行かせてくれ
静かに溺れさせてくれ
体制が厳しい国では詩(言葉)は高度に抽象化される。いい歌詞だと思うし、こんな歌詞のダンスミュージックは他にないだろう。この歌詞を聴きながら踊るロシア語圏の若者はどんな心境なんだろうか?
今のように世界が騒々しいときは、Molchat Doma - 『沈黙の家』に引きこもるべきなのか?