Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Albert Ayler Trio / Spiritual Unity - 物語る声がある音楽

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フリージャズの中でアルバート・アイラーが今やどんな場所を占めているのか分からないが、どうもドルフィーのように尊敬されたり、コルトレーンのように神格化されていることはないようだ。昔のジャズ喫茶ではお客さんを追い出したいときは、アルバートアイラーを大音量でかける、という不名誉な使い方もされたらしい。

僕は、アルバート・アイラーが、ブルースやジャズというよりもゴスペル的で人間臭い精神性に立脚してしているように思う。なので彼のサックスは、嘆きの声ようであり、語り部が話す物語のようでもある。彼のレコードを聴いていると、音楽を聴いていると言うより、彼の話を聴いているような気分になる。

このアルバムは1964年の録音で前衛ジャズレーベルのESPからリリースされたもの。バックはゲイリー・ピーコックのベースと、サニー・マレーのドラムス。この二人がアイラーのサックスを見事に盛り立てていて、まさしく、Spiritual Unity(精神的融合)。

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アイラーの曲名には「Ghost(幽霊)」「Wizard(魔法使い)」「Spirits(精霊)」「Angel(天使)」「祈り」といったタイトルが多い。その音楽も最初に、まるで懐かしいパレードのマーチングバンドかサーカスの音楽のようなテーマが提示された後で、語るかのようなサックスプレイが始まる。このスタイルは、本アルバム前のヨーロッパ時代に録音でも見られ、最初はジャズスタンダードナンバーのようでありながら、それが破壊されてゴスペル的な彼の声で再構築されていく。

1966年のこのライブでは、バイオリンを含む自身のユニットとなり、そのバイオリンがその「音楽隊」的なニュアンスに重要な役割を果たしている。コルトレーンへのオマージュとなる「For Coltrane」やキング牧師や黒人公民権運動から影響をうけたであろう「The Truth is Marching In」といったより自由で精神性が伝わる演奏が収録されている。

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こうして久しぶりにアイラーのアルバムに耳を傾けると、懐かしくもあり、以前よりも、より深く彼の語るような演奏が心にしみてくる。 無骨で不器用な生き方だったのだろうが、直向きに彼なりの真理を求め続けていたのだろう。

UNIVERSAL - SOUL - LOVE.

自殺とも他殺とも言われているが、1970年11月に彼の遺体はニューヨークのイーストリバーで見つかる。34歳で彼の物語は途絶え、その声は消えてしまった。


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