『Record Store Day(レコードストアディ)』というのは、元々は2007年4月に米国の地方都市のレコードストアコミュニティで始まったイベントでショップでアーティストやファンが交流するものだったが、翌2008年からはレコードストアディのための特別なアルバムのリリースが始まり、今日では世界中で数百枚以上のレコードがこのイベントのためにリリースされるグローバルイベントに成長している。
個人的には近年のあまりに商業主義的になったレコードストアディに興味は持てず、普通のアルバムが色付きの重量盤で再プレスされたり、未発表音源リリースのオンパレードにも食傷ぎみ。気になったものが売れ残って、半年後にバーゲン価格だったりするとたまに買ってみる程度だった。
今年のレコードストアディはCOVID-19のパンデミックの影響で4月開催が順延され、8月29日、9月26日、10月24日の分散開催となり、今年はオンラインストアでも同日からの購入が可能になった。そんな今年のリリースの中にこのブラアイン・イーノの映画「Rams」のサウンドトラック盤があった。
Rams from Film First on Vimeo.
この映画は、アメリカのインディペンデント映画監督 ゲイリー・ハストウィットによる1960年代のドイツ、ブラウン社でのデザインで知られるデザイナーのディーター・ラムスのドキュメンタリーである。ディーター・ラムスが近年一般的に有名になったのは、彼からの影響を公言する元Appleのチーフデザイナーだったジョン・アイブの存在が大きいだろう。ジョン・アイブは彼のデザイン哲学の中心である「気を散らすものや目に映るがらくたを取り除き、必要なものだけとする」というのを実践し、それで商業的に大きな成功も可能であることを証明して見せた。
ただ、ラムスはこの映画の中で、今やデザインが無意味なマーケティング用語になってしまい、今日の過剰消費の社会を批判する。おそらくそうした社会批判にイーノは共感したのではないかと想像する。イーノは若い頃はサイバネティクス理論に傾倒してしたが、最近は非常に政治的な発言が多く。社会学者などとの対談ビデオをYouTubeに投稿したりして、僕からするとちょっと距離を置きたい感じがしていた。
ただ、このサウンドトラックに限っては、以前からのイーノらしい、シンプルでありながらその音が空間に緩やかに浸透していくものになっている。ひょっとすると(イーノではよくあるのだが)、以前からストックされていた作品の断片なども再利用されているのかもしれない。繰り返し聴いても飽きることがない。
ジャケットは、外側がディーター・ラムスのポートレート、内袋はブライアン・イーノのポートレートというシンプルなもの。そしてレコード盤も白という「余分なものを排する」という哲学がここにも徹底されている。
- アーティスト:Brian Eno
- 発売日: 2020/08/29
- メディア: LP Record