Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

昔の日本のレコードの音は本当に悪かったのか? - SHURE Me97HEカートリッジ で聴いてみる

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ストリーミングの時代にアナログレコードが何度目かのブームを迎えている。レコードは大きさからしても、ジャケットアートと音楽を収めた円盤がセットになったアートパッケージとして新しい位置を与えられているのかもしれない。ジャケットを飾るためのさまざまなフレームやスタンドが存在するのも、そうした楽しみ方を広げている。

高価格化するオリジナル盤、まだ手頃な日本盤や再プレスの中古レコード

レコードコレクターやオーディオファイルからの視点で見ると、オリジナル盤指向が以前にも増して進んでいて、通販サイトでもマトリックス番号が普通に表記されるようになりオリジナル盤やモノラル盤はかなりのプレミアムプライスでの取引されることが当たり前になりつつある。米国盤にしても最近事情は似てきていて、初回プレスのオリジナル盤は英国盤ほどではないとしても、やはり高価格化している。いずれにしても60年代、70年代ロックは、発売から50年以上を経過してコンディションの良いレコードは限られきているから、高価格化は今後も続くのだろう。

一方、日本盤だと保存状態の良いきれいな帯(おび)がついた初回レコードや当時のプレス数の少なかったものはかなりのプレミアム価格となるが、帯のない並品となるとずっと手頃な価格になってくる。再プレス盤となるとずっと価格はこなれてくる。コンディションのよいものが2,000円以下、1,000円以下でも入手できるので買いやすい。

手軽な日本盤を上手く再生して楽しみたい

僕のレコードコレクションも半分以上は、学生時代から買っていたり、後から中古レコードで購入した普通の日本盤。レコード関連のブログを見ると「日本盤には帯以外の価値はない」などと極端なことが書かれていたりするが、日本盤は作りが丁寧で欧米と比べるとリスナーの取り扱いも丁寧なので、年数の経過を考慮するとまずまずのコンディションのものが多い。オリジナル盤と比べてたら音質的に弱点があるかもしれないが、普通の日本盤を上手に気持ちよく聴いていくというのもオーディオの楽しみ方の一つではないかと思っている。持っているものを楽しく聴くことは大事。

「普通で平凡」なSHURE Me97HEカートリッジ

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このMe97HEカートリッジは、V15シリーズ の下位モデルとしてリリースされたもので楕円針が装着されている。SHUREの他のM44GやV15シリーズに比べると最近のオーディオ誌での評価はあんまり高くなく「凡庸な」とか「平凡」と書かれてしまうが、反対に言えば「そつなく何でも鳴らせる」ことができるわけで、存在は地味だが音楽の聴かせどころは知っているいいカートリッジだと思う。普通の日本盤を聴くにはちょうどいい。

ちょっといろいろペラジャケの古い日本盤を聴いてみよう。ほとんどが年数を経ているのでクリーニングは必須。全部バキュームクリーナーで洗浄してある。

ペラジャケのロックやジャズ

ペラジャケとは60年代から70年代始めまであったジャケット形態で、コーティングされた紙でジャケットが作られているもの。多くは表面はオリジナルのイメージだが裏面は解説になっている。

Cream / Disraeli Gears(カラフルクリーム)(日本グラモフォン)

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コーティングされているので表面のイラストがキレイなのは、この写真でも伝わるかな? 

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裏面は、曲目解説のライナーノート。日本ではこのアルバムがデビューアルバムとなる。価格は1750円。当時はセカンドアルバムやサードアルバムが最初の国内リリースになることは珍しくなかった。おそらく1968年の発売。

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音質は十分にいい。英国オリジナル盤は未聴だが、後年のリマスタCDやマスターテープからダイレクトトランスファーされたCDと比較しても音の鮮度は高い。当時のテープから(マスターからのコピーであっても)プレスされたレコードの方が音の鮮度的には有利なのではないかと思う。 リマスターCDの弱点は、時間を経て劣化したアナログマスターテープからハイサンプリングでデータ化して、それをコンピュータ上で補正したマスターを使用するので元の音の勢いは蘇ってこないのではないか。

Jimi Hendrix / Are You Experienced (日本グラモフォン)

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このレコードはモノラル盤。日本で発売されたのは英国盤と同じ仕様のもの。

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裏面はこんな解説になっている。価格は1750円で1967年の発売。

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音質はラジオのようなナローレンジ気味で分離もよくなく、ボーカルは前面に出ていて、リバーブ処理が強くかかっている。最初はつまった印象だが、音量をあげて聴くとすぐに耳が慣れてきて音の塊のエネルギー感が心地よい。1997年のリマスターCDと聴き比べてみたが、リマスターCDはさすがに分離がよくボーカルも明瞭だが、このレコードを聴いた後だと音楽の一体感やエネルギー感が損なわれているように感じる。1967年当時のロックファンはこのレコードを大音量で聴いていたのだろう。

Led Zeppelin / III(日本グラモフォン)

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日本では1970年代に入ってワーナー・パイオニアができる前は、Atlantic、Reprise、Electraといったレーベルは個別に契約されていた。Atlanticレーベルは日本グラモフォンとの契約だったので Zeppelinの初期のアルバムは日本グラモフォンから出ている。

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このサードを2014年にリリースされたリミックス盤と聴き比べると、リミックス盤はギターが前面に出て圧倒的にラウドでダイナミックなサウンド。オーディオ的にも優秀で現代的な音なのだが、70年代のロックとしてはこの日本グラモフォンの方が雰囲気があるような気もする。前記した『Are You Experienced』でも感じたのだが当時の音質はボーカルが中心にある。ラジオで放送されたり、小さいなスピーカーで再生されたときのことを考えていたのだろうか。

Doors / Waiting for The Sun(日本ビクター)

最初、Electraレーベルは日本ビクターの契約で、Doorsはビクターから出ていた。この『 Waiting for The Sun』はバーゲンで買ったもので、ジャケットは米国盤なのに中身のレコードは古い日本盤だったという珍品。

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レーベルマークはよく知られた蝶ではなくイラスト。当時の日本ビクターは高音質だったように思う。このDoorsもそうだが、Jethro Tullも昔は日本ビクターから出ていてこれも音がいい。トラッドフォークのPentangleが所属していたTransatlanticレーベルも日本ビクター盤は英国版に負けないほど良い音がしている。

死刑台のエレベーター/殺られる (日本ビクター)

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昔は日本独自編集盤がよくあった。日本だけのベスト盤が海外では高値だったりする。これは Miles Davisの「死刑台のエレベーター」と Art Blakey & The Jazz Messengersの「殺られる」のフランス映画2本のサントラをA面とB面に入れた企画もの。

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1950年代末から1960年代は『シネ・ジャズ』が流行りで、ヨーロッパ映画のサントラにジャズがよく似合っていた。このマイルス「死刑台のエレベーター」のサントラはパリに出向いて録音されたものでオープニングの深いリバーブがかかったトランペットは、後の『In a Silent Way』を予見しているかのようだ。個人的には単にサントラの域を超えた傑作だと思っている。

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このレコードのレーベルには誇らしげに「HiFi-STEREO」とあるが、A面の「死刑台のエレベーター」はモノラル。それでも深いエコーのトランペットが闇から一筋の光となって出てくるような凄みが伝わってくる。B面はステレオ録音でアート・ブレーキーもダイナミックなドラムサウンドが聴ける。

やっぱりレコードは聴いて楽しむもの

まとめて古い日本盤を再生してみると「レコードは聴いて楽しむもの」という基本を再認識する。オリジナル盤やマトリックスにこだわったり、RIAAカーブの違いを追求するのもいいのだが、昔はもっとおおらかに安いステレオセットでレコードを大きな音でかけて楽しんでいた。こうしたレコードを手にすると、最初に買った人は、どんな風にかけて聴いていた想像が膨らむ。小さなイスに座って煙草をくわえて、膝でリズムをとっていたんだろうか?


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