Sound & Silence

本多重夫の音楽、オーディオ、アートなどについてのプライベートブログ

Folke Rabe / Wass?? - 美しい音の壁紙

f:id:shigeohonda:20200919121826j:plain

Folke Rabe(フォルケ・ラーベ)の『Wass??』と書くと、「ああ。あれね」と思う人も少なくないかも。一種カルト的な存在の作品。おそらく現代音楽の中でよりも、先鋭的なロックファンによく知られているかもしれない。

1935年の生まれのストックホルムの作曲家フォルケ・ラーベが、1967年の夏にストックホルムの電子音楽スタジオで完成させたのが、この『Wass??(なに??)』とタイトルされた電子音楽。電子音の一つのハーモニーが23分の間連続して鳴り響き、非常にゆっくりと変わっていく。何のドラマも意外性もない。ただそのハーモニーに耳を傾けるだけ。その体験はずっと壁紙を見ているのに近いかもしれない。壁紙の模様やシミが人の顔に見えたり、見知らぬ土地の風景に見えてきたりする。単調な模様が脳の中で別のメッセージに置き換えられていく感覚。『Wass??(なに??)』という問いかけは聴き手へと返ってくる。

初期のミニマルミュージックには、こうした作品が多かった。今や大御所となったスティーブ・ライヒの初期の作品の『Pendulum Music』は天井から吊り下げられたマイクがブランコのように揺れて床に置かれたスピーカーとの間でハウリング起こす音を繰り返すものだった。

この『Wass??』の音楽にフェーズシフターでうねりを加えると小杉武久の『Catch Wave』になるのだろうか? ラ・モンテ・ヤングの『The Theatre Of Eternal Music(永遠音楽劇場)』のアルバムのB面は30分に及ぶ単一音(A音だったと思う)だけが収録されていた。

f:id:shigeohonda:20200919121858j:plain

こうした初期のミニマリズムの作品には、コンセプトが全面にあり、聴き手が耳をそらすのを許さないような印象のものもあるが、この『Wass??』は記憶にずっと残り、何度も繰り返し聴くことがあるのは、聴き手が自由に音楽に出たり入ったりすることを許容しているからだろう。音楽の中に入り込んで内側からサウンドスケープを見たり、外から見たり、あるいはしばらく別のところに行って、またこの音楽に帰ってきたりと、この音楽はずっとそこにあって聴き手を取り囲んでいる。根源的な意味でのアンビエントミュージックとしてある。

追記: このアルバムの再発盤CDには、『Wass??』のロングバージョン(?)が収録されているようだ。

What??

What??

  • アーティスト:Folke Rabe
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: CD


© 2019 Shigeo Honda, All rights reserved. - 本ブログの無断転載はご遠慮ください。記事に掲載の名称や製品名などの固有名詞は各企業、各組織の商標または登録商標です。